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共生社会へ 大学における障害学生支援を考える

14面記事

書評

高等教育ライブラリ(16)
吉武 清實・岡田 有司・榊原 佐和子 編
小・中学校現場にも示唆的な内容

 世の中の誤解は多いが、大学など高等教育機関は組織整備や教育体制において必ずしも小・中・高校を凌駕しているわけではない。その一つが障害者支援の分野である。義務教育段階の方が圧倒的に蓄積もあり、大学は障害者差別解消法の施行などによって緒に就いたばかりである。障害学生の在籍率1・05%〔日本学生支援機構調査、2018(平成30)年度〕という数字がそれを物語っている。そうした学生が大学へ進学できていないのか、それとも可視化されていないのか、いずれにせよ支援と認知の取り組みは、これからますます不可欠となるだろう。
 本書はそういう状況下にあって「共生社会」の実現に向かって最前線で日々取り組まれている研究者によって執筆された取り組み報告である。
 具体的な取り組みとともに、「4階層(実は5階層?)モデル」等その理論的裏付けも示されており、小・中学校関係者にも示唆的である。合理的配慮が障害のある人との「建設的対話」を通じて決定されるべきこと、Nothing About Us Without Us(私たちのことを私たち抜きに決めないで)という当事者性の問題は、他方で、当事者自身も必要性に気付かない、もしくは気付いても配慮要請の意思表明できないことが少なからずあり、セルフアドボカシー(自己権利擁護)の力を高める教育機関としての責任の問題も併せ、一方的に「合理的配慮」をしたつもりになっていなかったか、わが身を振り返った。
(2420円 東北大学出版会)
(元兼 正浩・九州大学大学院教授)

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