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奨学金制度の仕組みと教員が行うべき適切なサポート

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特集 教員の知恵袋

 意欲のある生徒が経済的な理由をもとに大学や専門学校への進学・在籍を断念しなければならないケースは少なくありません。進学や在籍を諦めることを検討している生徒や保護者に対して、教員として適切なアドバイスやサポートを行うには、奨学金の仕組みやメリット、国の取り組みについて理解しておくことが重要です。

 日本における大学等の奨学金貸与人員は、平成25年にピークを迎え、その後貸与人数は減少し続けています。一方で2020年4月には授業料免除と給付型奨学金が一緒になった新制度も始まりました。今回は日本の奨学金制度の仕組みや種類、教員が奨学金制度を生徒に説明するうえでのポイントを解説します。

奨学金制度の仕組みと種類

 奨学金制度は、母子家庭や父子家庭などの経済的な理由で大学・短大・専門学校などへの進学が困難な生徒を対象として経済的支援を行う制度です。現在、全学生の約4割がこの制度を利用しています。

 奨学金を実施しているのは国だけではありません。大学・専修学校、地方公共団体、公益財団法人なども奨学金を実施しており、学力や家計など定められた基準を満たしている家庭が対象です。

 ただし、その年度の予算内で採用を行うため、基準を満たしていれば必ず受け取れるわけではありません。

返済が必要な「貸与型奨学金」

 奨学金の種類は大きく「貸与型」と「給付型」に分けられます。貸与型奨学金は、卒業後に返済が必要な奨学金です。

 そのなかでも無利子の「第一種奨学金」と利子がつく「第二種奨学金」に分けられます。第一種と第二種にはそれぞれに基準があり、それらに該当する学力や家計は以下のとおりです。

第一種奨学金の基準

学力:高校全履修科目の5段階評価のうち、認定平均値3.5以上。ただし、3.5以下でも別途条件を満たす場合は申し込み可能。
家計:給与所得の4人世帯の場合、年収747万円以下が目安。
利子:無利子

第二種奨学金の基準

学力:平均水準以上。学修意欲がある、など。
家計:給与所得の4人世帯の場合、年収1,100万円以下が目安。
利子:有利子

 第一種と第二種の併用や給付型奨学金との併用も可能です。ただし、給付型と併用する場合は第一種の奨学金の月額に制限がつくため注意が必要です。また、貸与型奨学金には第一種・第二種のほか、入学時特別増額貸与奨学金や海外留学奨学金もあります。

返済が必要ない「給付型奨学金」

 返済が不要の給付型奨学金は、貸与型と比べて対象基準がより限定されるのが特徴です。

給付型奨学金の基準

学力:高校の全履修科目の5段階評価のうち認定平均値3.5以上。3.5以下の場合は、レポートや面談で学習意欲や進学目的が認められること。
家計:住民税非課税世帯および住民税非課税に準ずる世帯の生徒等。給与所得の4人世帯の場合、年収378万円以下が目安。

 2020年度より、学校が授業料や入学金の全額もしくは一部を減免する「授業料減免制度」がスタートします。この制度によってより多くの人が給付型奨学金の対象となりました。生徒の進路に大きくかかわる情報のため、学級通信や面談などを通じて生徒・保護者に情報を共有することが大切です。

学生が奨学金を利用する際のメリットとデメリット

 奨学金の説明を行う際は、奨学金が支給されることの良さだけでなく、卒業後の負担や注意点、マネープランを考えるという点が非常に重要です。教員は奨学金のメリットやデメリットを提示し、あくまでも選択肢の一つとして奨学金を提案しなければなりません。

低い利率や柔軟な返済制度といったメリット

 奨学金を利用するメリットに、条件や家計に合わせてより負担の少ない方法(給付型や無利息など)を選べること、教育ローンと比べて利率が低いことなどがあげられます。

 また、卒業後に返済が始まるため、在学中は学業に専念できることや返済が難しくなった際、月々の返済額を減額したり、一定期間返済を先送りしたりできる「救済制度」が充実していることも、メリットの一つです。

 さらに、連帯保証人なしで申し込みできる機関保証制度は、連帯保証人や保証人を立てることが難しい生徒の強い味方といえます。

連帯保証人への負担や支給停止のリスクがデメリットに

 奨学金を受け取るうえで注意しなければならないのが、振り込みのタイミングです。奨学金の受け取りは入学後となるため、入学前にまとまった費用が必要な場合は教育ローンを利用しなければなりません。ただし、その場合は奨学金より利率が高くなるのがデメリットです。

 また、奨学金は学ぶ意欲がある生徒を経済的にサポートするための制度です。学業や生活に問題がある場合は、支給が止められる可能性があります。奨学金を検討している生徒に対して、この点もクリアに伝えることが重要です。

 さらに、延滞や返済困難によって返済が行われなかった際、人的保証制度を選択している場合は、連帯保証人に負担がかかる可能性があることもあわせて説明します。

具体的な進学費用を自覚させる

 奨学金の説明をする前に、教員自身が学費や生活費、仕送り費用などの支出・収入についてのデータを確認し、把握しておくことが大切です。
それらを踏まえ、生徒自身に高校卒業から入学後の生活費、卒業後に就く職業、得られそうな収入、ライフイベントでかかる費用などを調べさせ、将来を予測したマネープランを作成してもらいます。
 いつ、どのくらいの費用が必要になるのか、現実的な数字を生徒自身が自覚することで返済可能な奨学金のマネープランが作れます。

シミュレーションツールやアドバイザー制度の活用

 日本学生支援機構(JASSO)が提供する「進学資金シミュレーター」や「奨学金貸与・返還シミュレーション」は、進学に必要な費用や利用可能な奨学金、毎月の返済額や返済完了予測時期を計算して教えてくれる便利なツールです。

 JASSOでは、シミュレーションツールのほかにスカラシップ・アドバイザーの派遣も行っています。高校や大学で生徒・保護者を対象にした奨学金の説明会を行う際などに、アドバイザーを派遣することも可能です。アドバイザーによる個別相談も受けられるため、より専門的なアドバイスが期待できます。

奨学金制度のメリットや注意点を提示し、生徒にとっての最適解を導く

 奨学金制度は、経済的な理由によって学びたい分野への進学や進級、在籍を諦めようとしている生徒を費用面で支援し、選択肢を増やしてくれる制度です。

 生徒・保護者へのアドバイスを行う際には、具体的な金額や授業料免除制度、返済期間、リスクや注意すべきポイントを含めた説明が求められます。進学・進級に関して、それぞれの生徒が自分の最適解を導けるよう、まずは教員自身が奨学金への理解を深めることが大切です。

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