日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

災害に強い学校施設をつくる

14面記事

企画特集

学校防災特集

 近年、地震や台風などによる自然災害が相次ぐ中で、避難所を兼ねる学校施設の防災機能がいまだ不十分であることが指摘されている。また、今年は新型コロナウイルスによって、避難所を開設した場合の感染症対策も強化する必要があり、これらを踏まえた設備・機器等の整備が急がれている。そこで、学校を災害から守るための望ましい取り組みについて紹介する。

まだ足りない、避難所機能の充実

学校施設の改善に予算を拡充
 学校施設は子どもたちが一日の大半を過ごす学習・生活拠点となるとともに、災害時は地域の避難所機能を兼ねることから、国が掲げる「防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策」においても、重点プログラムの1つに位置づけられている。また、全国の公立学校施設の7割が改修時期を迎えているなど、老朽化・長寿命化への対策も待ったなしになっている。
 このため、文部科学省は「学校施設の長寿命化計画策定に係る手引」を取りまとめ、設置者となる教育行政に個別施設ごとの長寿命化計画を今年度中に策定することを求めているほか、こうした学校施設の改善等の財源として前年度を大幅に上回る3917億円を計上。国や各省庁も補正予算等で、それぞれの立場から学校の防災機能強化に活用できる財政支援を拡充している。
 さらに、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、学びを止めない学校運営に必要な感染症対策備品等に421億円、オンライン授業を可能にする「GIGAスクール構想」の迅速化に向けた高速通信回線の整備に502億円を計上するなど、緊急の予算措置も図られているところだ。

過去の災害を教訓に
 学校施設は、過去の大規模災害において避難所として被災者を受け入れ、食料・生活用品等の必要物資を共有する拠点となるなどさまざまな役割を果たしてきた。その一方で、教育施設として設計され、避難所としての使用を考慮していなかったため、多くの不具合や不便が生じたことも事実だ。したがって、今後の学校施設の整備にあたっては、教育活動と避難生活の共存を想定しながら、早期に学校教育活動を再開させるための対策を講ずる必要がある。さらに、熊本地震では備蓄倉庫や太陽光発電等の施設設備が役立ったものの、トイレや電気、水の確保等において不具合が生じたとともに、空調やプライバシーへの配慮など避難所としての良好な生活環境の確保が課題として挙がった。しかも、近年の台風や豪雨に見舞われた地域では、窓や屋根の損壊や浸水、停電、断水などの被害も目立っている。
 こうした中、文部科学省が昨年4月1日時点で調査した「学校の防災機能の保有状況」では、備蓄倉庫や飲料水、災害時利用通信が8割弱、非常用発電機・LPガスや断水時のトイレが約6割となっており、年々増えているもののいまだ十分とはいえない状況だ。

ライフラインを本当に守れる?
 なかでも現在、大きな焦点となっているのが、避難者を受け入れる体育館の防災機能の強化だ。まず、学校施設の大半は耐震化が図られているが、体育館では天井材等の落下防止対策が済んでいない学校が多いこと。また、ライフラインとなる非常時の電気・ガスの確保についても、質・量とも不安が大きい。
 停電が発生した場合に備えるためには、可搬型または据え付け式の非常用発電機と燃料を確保しておくことが重要になるほか、太陽光発電設備を整備する場合には、停電時においても自立運転できる機能や、充電した電気を夜間にも使える蓄電機能を備えておくことが大切になる。加えて、都市ガスの供給地域では都市ガスの供給が止まってしまう場合に備えて、LPガスでも利用できるようにする変換器やLPガス設備を整備しておくことも有効になる。
 しかし、これまでの災害では、非常用発電機を備えているにもかかわらず使い方が分からなかったり、豪雨によって浸水して使用できなかったりと、設置方法や運用が十分に検討されていなかったケースが目立っているのも事実だ。
 だからこそ、いざというときに本当に使えるシステムなのか、どの程度の発電量があるのか、誰が稼働させるのかといったことを、日頃の防災訓練等を通じてしっかりと把握し、民間企業とも連携しながら試験稼働をさせておく必要がある。加えて、近年の電気自動車の普及から、自治体としてはEV・PHVなどの車を活用した移動電源の確保といった、施設設備以外の対応も準備しておくべきだろう。

断水時に備えたトイレの確保
 避難者の生活する場所となる体育館は、トイレの確保も重要な課題になる。そのため、既存のトイレの数が足りなくなる場合や利用できなくなる場合も想定し、マンホールトイレの整備や、簡易トイレや携帯トイレを備蓄するなど複数の対策を組み合わせる必要がある。
 その中で、避難所などのパブリックスペースのトイレとして注目されているのが、断水時にも配慮した排水方式を備えたレジリエンストイレだ。一般的なトイレの場合、災害でライフラインが途絶えた際は便器鉢内にバケツいっぱいの水を勢いよく流す必要があるが、多くの人が利用する避難所ではプールや雨水貯留槽などから水を運ぶ負担が甚大になる。こうしたなか、本トイレは洗浄ハンドルの操作で開閉弁を強制的に開けることで、断水時には1lの洗浄水で汚物を配管に排出することができるのが特長。しかも、タンクにペットボトルを差し込めるなど給水時の配慮もされている。
 今後は、多目的トイレやバリアフリー化など高齢者や妊婦、障がい者などに配慮した整備や、災害時の安否確認や情報収集手段となるスマートフォンが使えるようなWi―Fi環境の整備についても急いでいく必要がある。
 学校の体育館を含む避難所施設の無線LAN整備は総務省の事業で進められているが、「GIGAスクール構想」によって加速化する教室への無線LANアクセスポイントを体育館まで拡張し、災害時には公衆Wi―Fiとして開放できるようにするなど、平時と非常時で使い分けできるシステムの構築が期待されている。

教室の次は体育館のエアコン整備を
 一方、現在、多くの自治体が手をつけ始めているのが、これまでわずか3%ほどしか設置されていなかった体育館のエアコン整備になる。もともと学校施設では教室のエアコン整備も遅れていたが、近年増加する熱中症事故の予防対策として2018年度に臨時特例交付金が創設されたことを受け、寒冷地をのぞく全国の学校へ一気に整備が進んでいる背景がある。
 こうしたことから、次は災害時の避難所ともなる体育館にもエアコンを整備しようという機運が高まっており、東京都はすでに一昨年末から体育館に空調を整備する際の設置費補助事業を開始。文京区や北区、足立区、武蔵野市などを始めとする市区で整備が進んでおり、来年度までにほぼ全校での導入を目指している。ただし、体育館のような広いスペースに空調を入れるとなれば設備費用が多額になるのはもちろん、空調効率を上げるために断熱材なども入れる必要がある。加えて、電気代やメンテナンスを含めたランニングコストも計上する必要があるため、財源に余裕がない自治体にとっては依然として敷居が高いとの声も聞かれている。
 そのため、まずは工場などで使用する大型扇風機やスポットクーラーなどを導入し、クラブ活動などでの熱中症対策に役立てるところが多くなっている。特に大型扇風機はコロナ禍の換気対策としても需要が伸びており、教室の廊下や多目的スペースに移動させて活用するケースも始まっている。

防災機能を強化した事例集を作成
 このような避難所となる学校施設の防災機能強化を推進する際の参考となるよう、文部科学省は今年3月、学校施設の防災機能整備の取り組みをまとめた事例集を作成した。ここでは、学校や地方公共団体の取り組みの中から、特色のある事例を選んで紹介している。
 たとえば学校の個別事例では、学校の早期再開に留意した学校施設の詳細な利用計画を策定した例、PHEV自動車により電力を確保した例、体育館に外断熱・複層ガラス等を整備して避難所機能を強化した例など。地方公共団体の取り組みでは、津波被害を教訓として備蓄の分散配置や、情報通信網の強化をした例、地域住民・学校・区の三者が連携した避難所の利用計画の検討と避難所運営をした例、体育館にLPガスによる空調機の整備を推進した例などがある。
 いずれにしても、地域の避難所となる学校施設の防災機能の整備にあたっては、学校設置者と防災担当部局との間で役割分担しながら、

 (1) 施設の安全性の確保
 (2) 避難所として必要な機能の確保
 (3) 避難所の円滑な運営方法の確立
 (4) 学校教育活動の早期再開

 の4項目を踏まえて検討を進めていくことが重要になる。
 その上で、学校には日頃から災害が起きたときにどのような行動をとるかをきちんと整理し、運用体制を決めておくことを求めたい。加えて、子どもたちの災害への意識を高め、自ら危険を回避できる能力を育む防災教育の充実にも努めてほしい。

企画特集

連載