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日本人学校の教育を充実させる基本方針と在外教育施設の教員として働くために知っておくべきこと

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特集 教員の知恵袋

 2023年4月18日、文部科学省・外務省は『在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針』(基本方針)を発表しました。

 この基本方針は、2022年6月に成立・施行された『在外教育施設における教育の振興に関する法律』(在外教育施設振興法)に基づいて定められています。

 また、将来「在外教育施設の教員として働きたい」と思いつつ、「日本人学校の教員になるための方法や派遣制度について詳しく知らない」という方も多いのではないでしょうか。

 今回は、文部科学省・外務省が示す基本方針の概要のほか、日本人学校の教員になるための方法について解説します。

海外に設置される日本人学校とは

 海外に在留する日本人の子どものために設置された教育施設のことを“在外教育施設”と言います。この在外教育施設のなかに日本人学校が含まれており、“国内の小学校、中学校または高等学校における教育と同等の教育を行うことを目的とする全日制の教育施設”と定義付けされています。

 2022年4月15日時点で日本人学校は世界に94校あり、約1万4千人の児童・生徒が在籍しています。学校の規模によっては小学部と中学部で分かれていますが、ほとんどが小中学部一貫校です。また、上海には唯一の高等学校が存在します。

出典:文部科学省『在外教育施設の概要

在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針

 在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針では、在外教育施設振興法を踏まえて、在外教育施設における教育の振興の基本的な方向や内容に関する事項が示されています。

在外教育施設における教育の振興の基本的な方向

 在外教育施設における教育の振興の基本的な方向としては、以下の3つが示されています。

 ・在留邦人の子どもの学びの保障
 ・国内同等の学びの環境整備
 ・在外教育施設ならではの教育の充実

 ここでは、それぞれの内容を紹介します。

(1)在留邦人の子どもの学びの保障

 在外教育施設と在留邦人の子どもの学びの保障の関連性については、これまで法的な規定は定められていませんでした。

 しかし、在外教育施設振興法第3条第1号の基本理念“在留邦人の子の教育を受ける機会の確保に万全を期すること。”に鑑みて、以下のような考え方を明確にすることが求められます。

 ・国として、より積極的に在留邦人の子どもの学びの保障を進める考え方
 ・国家戦略として、在外教育施設の設立を支援する考え方

出典:文部科学省『在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針【概要】』『在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針』/e-Gov法令検索『在外教育施設における教育の振興に関する法律

(2)国内同等の学びの環境整備

 在外教育施設の教育環境の整備が国内の教育施設に比べて不十分であることは、1960年代から指摘されています。2022年の未来戦略においても、早急かつ計画的に改善を図るべき課題として、以下の項目が挙げられました。

 ・国内と比較した派遣教師の充足率
 ・児童・生徒や教師の1人1台端末の整備率
 ・通信環境 など

 これらは未来戦略の策定時と比べるとやや改善しているといえます。一方で、国内同等の学びの環境整備は未だに重要な課題となっており、人的・経済的または技術的な支援の充実に向けた考え方を明確にすることが求められます。

出典:文部科学省『在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針【概要】』『在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針

(3)在外教育施設ならではの教育の充実

 “教育・学術・文化における国際交流”の答申附属書”や、“海外子女教育の推進に関する基本的施策について”では、在外教育施設の運営に際し、以下について言及されています。

 ・できるだけ閉鎖的なやり方を避けて、現地の言語や事情を適宜教育課程に加えたり、現地の児童・生徒との親交を深めたりすること
 ・海外での教育という利点を生かして、日本の教育の基本的な理念の一つである国際性豊かな日本人の育成に積極的に寄与することを目指すこと

 在外教育施設振興法第3条第3号の基本理念、“在留邦人の子の異なる文化を尊重する態度の涵(かん)養と我が国に対する諸外国の理解の増進が図られるようにすること。”に鑑みて、在外教育施設の特色化を進めるための工夫や取り組みの普及、関係者・関係機関同士の連携促進についての考え方を明確にすることが求められます。

出典:文部科学省『在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針【概要】』『在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針』/e-Gov法令検索『在外教育施設における教育の振興に関する法律

在外教育施設における教育の振興の内容に関する事項

 在外教育施設における教育の振興の内容に関する事項では、日本人学校で公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(義務標準法)に準ずる教員配置を計画的に行うことや、教員の資質向上のためにオンラインでの研修の充実させること、教員養成大学との連携をさらに進めることなど、以下の施策が示されています。

 ・在外教育施設の教職員の確保
 ・在外教育施設の教職員に対する研修の充実等
 ・在外教育施設における教育の内容及び方法の充実強化
 ・在外教育施設の適正かつ健全な運営の確保
 ・在外教育施設の安全対策等
 ・在外教育施設を拠点とする国際的な交流の促進等
 ・調査研究の実施等

 特に、国内に比べて教育条件が十分ではない在外教育施設では、教員が極めて重要な役割を担っているといえます。

出典:文部科学省『在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針【概要】』『在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針

日本人学校の教員になるには

 教員を目指す学生や現職教員として日本国内の学校に勤務する方のなかには、将来日本人学校で働くことを視野に入れている方も多いのではないでしょうか。

 文部科学省の教員派遣制度で日本人学校に務める場合、任期は原則2年です。評価等に応じて1年ごとの延長が可能なため、特段の支障がない限りは少なくとも3年間は働けます。
小規模校の場合、派遣教員の数が少ないことから複式学級や免許外の教科を担当するといったケースもあります。

出典:文部科学省『在外教育施設プレ派遣教師の公募について

日本人学校の求人募集に応募する方法

 日本人学校の教員になる応募する方法は大きく2つに分けられます。一つ目は文部科学省の派遣教員になる方法、二つ目は海外子女教育振興財団の学校採用教員に応募する方法です。

・教員としての経験が必要な「文部科学省教員派遣制度」

 文部科学省は、毎年都道府県の教育委員会教育長や都道府県知事など公立・私立学校の所属機関の長に在外教育施設へ派遣する教員の推薦を依頼しています。各所属期間の長によって推薦された者が健康診断や即派遣の可否などを含め、文部科学省による書類審査ならびに面接を受け、内定者が決定するという流れです。

 内定者として決まった者は配偶者研修会・内定者研修会・管理職研修会などの研修を受け、その後正式に派遣教員としての内定が決定します。

出典:文部科学省『日本人学校・補習授業校への教師派遣の概要

・教員免許取得見込でも応募可能な「海外子女教育振興財団 学校採用教員」

 教員としての経験がない方や教員免許取得見込みの学生の方で日本人学校の教員として務めたいという方は、海外子女教育振興財団(JOES)の「日本人学校等学校採用教員」であれば応募できます。

 文部科学省の教員派遣制度と異なり、学校の運営委員会等と直接雇用契約を結ぶのが特徴です。職務に関しては文部科学省の派遣教員とほぼ同じです。

 JOESの日本人学校採用教員は応募先の学校を1校決められる第1期募集のほか、赴任先の学校を選べない第2期募集があり、2回の応募が可能です。第2期の募集では第1期で応募者が採用予定者定員の3倍に満たない学校が対象です。

任期満了後の進路

 日本人学校で任期を満了した後の進路は人によってさまざまですが、多くの教員は教員採用試験を受験します。以前のように公立学校で働いたり、新たに日本人学校の求人に応募したり、任期を延長するといった進路を選択しています。

 また、文部科学省の「トビタテ!教員プロジェクト」の制度を利用して派遣教員としての任期を終えた人は面接選考試験官や研修講師、巡回指導員といった進路につなげることも可能です。文部科学省では、今後の若手教員の育成や帰国教師の活用促進に向けたネットワーク構築、帰国教師フォーラムの開催や関連セミナーの開設も検討しています。

出典:文部科学省『トビタテ!教師プロジェクト

日本人学校で求められる環境整備と期待が高まるグローバル教員の育成

 『在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針』では、在外教育施設における教育の振興に関する3つの方向や、推進方策の考え方、具体的施策例などが示されています。

 海外在留の日本人の子どもが学ぶ在外教育施設での教育を充実させる日本人学校の指導を行ううえでは、これらの基本方針に沿って指導を行うことはもちろんのこと、十分な数の教員を確保するとともに、教員の資質向上を実現するための取り組みも重要です。

 日本人学校の教員になるには、教員経験や教員免許状の有無などの条件に合わせ、文部科学省の教員派遣制度もしくは海外子女教育振興財団の求人へ応募します。

 現在教員として勤めている方であれば、管理職や周りの先生に話したり、募集情報を集めたり、日頃から海外に行きたいという意思表示しておくことも大切です。日本人学校での指導経験が日本の学校教育にどう生かされるのか、帰国した教員の活躍促進を含め、今後ますます教員のグローバル化への期待が高まります。

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