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子どもの貧困と「ケアする学校」づくり

16面記事

書評

カリキュラム・学習環境・地域との連携から考える
柏木 智子 著
自信取り戻し未来切り開く姿描く

 ケアとは、「他者に関する共感をもちながらともに時間を過ごす過程で他者の『生』を支える働きかけ」(64ページ)である。他者の痛みを知り、他者の人生を尊重し、他者と共に生きる。それがケアの本質だといえよう。
 著者は、貧困や困難を抱える児童・生徒が多く通う二つの小学校と一つの中学校で、長期にわたるフィールドワークを行った。本書は、その研究成果に基づき、教師や子ども・保護者、そして、地域の人々が、互いに深く結び付き、支え合いながら、一歩ずつ成長していく「ケアする学校」の実相をリアルに描き出したものである。
 二つの小学校区は、社会から排除のまなざしを向けられる地域。児童たちは、自らの目で地域の実態を確かめる。地域を愛してやまない人々の口から、自分たちの知らない地域の良さを直接聞く。全校の教師たちが協力して構成した地域学習のカリキュラム。それを通じて、子どもたちは失われていた自己肯定感と地域肯定感を取り戻していく。
 中学校では、複数の教師が参加する「ケア会議」を中心に、不登校の生徒を支える。教師たちのケアリング・コミュニティの形成が、困難な生徒の未来を切り開いていくのだ。
 小規模な学校で、教師たちが互いに意思疎通し合い、子どもの成長を目指す活動に協同する。そこに教育の希望を見ることができる。
(3960円 明石書店)
(都筑 学・中央大学教授)

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