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コロナに負けない学校づくり

10面記事

企画特集

感染症予防特集

 これからの季節は乾燥によってウイルスの感染力が強くなるため、集団感染のリスクが高い学校現場では、インフルエンザやRSウイルス、ノロウイルスなどさまざまな感染症に注意が必要になる。とりわけ、未曽有の事態を招いている新型コロナウイルス感染症の勢いが続く今年は、冬季にかけてさらなる感染拡大が懸念されているのはもちろん、インフルエンザなどが同時に流行する可能性もあり、より一層予防の強化に努めることが求められている。そこで、コロナ禍における「3つの密」を避ける基本的な予防対策や冬季に気をつけたい感染症について紹介する。

冬季のコロナ&インフルエンザの同時流行を防ぐ、3密対策の徹底を

合併症による重症化を防ぐために
 グローバル化が進展し、世界中の人々が海外を自由に行き来できるようになることで、近い将来、思いもよらぬ感染症が日本でも流行する危険性が指摘されてきた。それが今年、新型コロナウイルスの脅威によって現実のものとなった。
 現在、新型コロナウイルスの増加ペースは、7月末をピークに一進一退を続けているが、空気の乾燥が進み、のどの粘膜の防御機能が低下する冬を迎えて再び感染拡大する可能性が高いことから、インフルエンザの流行期と重なることで、重篤化や医療崩壊につながることが危惧されている。
 なぜなら、19~20年シーズンのインフルエンザ推計受診者数は約730万人・検査数は2~3千万件に達するなど格段に多いため、同時流行すれば発熱症状等のある患者が激増し、医療機関に混乱が生じるおそれがあるからだ。しかもインフルエンザとは臨床症状も類似していることから、医療機関が新型コロナウイルスの患者を見落とす可能性も高まることになる。
 このようなインフルエンザとの混合感染は、すでに新型コロナウイルスによる入院患者の4・3~49・5%に認められており、合併症によって重症化したという例も報告されている。
 ただし、昨年はすでに9月末時点でインフルエンザによる学年閉鎖・学級閉鎖が全国97校で発生していたが、今年は北海道の1校しか起きていない。これは、新型コロナウイルス対策としてのマスク常用や手洗い・うがいの徹底、3密の回避がインフルエンザにも効果的であったことがうかがえる。したがって、学校においてはこれから冬にかけても、引き続き感染予防対策を進め、集団感染を防いでいくことが何より大事になる。

インフルエンザのワクチン接種は早めに
 新型コロナウイルスの主な感染経路は「飛沫感染」と「接触感染」で、感染者の飛沫を浴びたり、飛沫がついたものに触ったりして広がる。また、屋内の合唱練習など特定の環境では、空中を漂う微粒子、エアロゾルによる「空気感染」の可能性もあることが指摘されており、室内の換気などの対策を行うことが有効と報告されている。
 潜伏期間は1~14日で、平均は5~6日。症状は発熱に加えて、味覚や嗅覚障害を伴うことがあるとともに、インフルエンザよりも重症化する率が高い傾向がある。
 さらに、新型コロナウイルスの影響により、この冬に向けてインフルエンザワクチンの需要が高まることが予想されているため、厚生労働省では過去5年で最大量(約6300万人分)のワクチンを供給する予定だ。
 なお、インフルエンザのワクチンは、日本では13歳未満は1シーズンに2回接種することとされているが、世界保健機関(WHO)などは「9歳以上は1回、9歳未満も前年に接種していれば1回」を推奨している。

文科省は「新しい生活様式」の実践を求める
 国内外の感染状況を見据えると、新型コロナウイルスについては長期的な対応が求められる。そうした状況においても持続的に児童生徒等の教育を受ける権利を保障していくため、文部科学省では「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~『学校の新しい生活様式』~」を9月3日に通知し、本マニュアルにしたがって感染症対策を行うよう求めている。
 その中では、学校では密閉、密集、密接の「3つの密」を避ける、「人との間隔が十分とれない場合のマスクの着用」及び「手洗いなどの手指衛生」など基本的な感染対策を継続する「新しい生活様式」を導入すること。併せて、地域の感染状況を踏まえ、学習内容や活動内容を工夫しながら可能な限り、授業や部活動、各種行事等の教育活動を継続し、子どもの健やかな学びを保障していくことが必要であると述べている。
 具体的には、地域の感染レベル1~3によって、学校の行動基準を段階的に制限することを指示。たとえば、最も感染が拡大したレベル3の場合は、身体的距離の確保は「できるだけ2m程度」、感染リスクの高い教科活動は「行わない」、部活動は「個人や少人数での感染リスクの低い活動で短時間での活動に限定する」などだ。また、レベル1~3のいずれの地域に該当するかは、地方自治体の衛生主管部局と相談の上、学校の設置者において判断することとしている。
 その上で、学校が「新しい生活様式」を実践するためには、児童生徒等への指導のみならず、朝の検温、給食時間や休み時間、登下校時の児童生徒等の行動の見守りなど、スクール・サポート・スタッフや地域学校協働本部による支援等、地域の協力を得ながら学校全体として取り組む必要がある。

学校での基本的な感染症対策
 新型コロナウイルスの感染症対策には、

 (1) 感染源を絶つこと
 (2) 感染経路を絶つこと
 (3) 抵抗力を高めること

 ―の3つの取り組みが大切になる。学校内で感染源を絶つためには外からウイルスを持ち込まないことが重要で、発熱等の風邪の症状がある場合等には登校しないことや、登校時の健康状態の把握を徹底する必要がある。そうした点からも、各家庭との共通理解の促進や協力は不可欠といえる。
 感染経路を絶つためには、閉鎖空間や近距離で多くの人と会話することを避けるとともに、手洗い、咳エチケット、清掃・消毒の日常化が求められる。また、抵抗力を高めるためには免疫力を高めることが大事になるため、「十分な睡眠」「適度な運動」及び「バランスの取れた食事」を心がけるように指導したい。
 新型コロナウイルス感染症では、換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面という3つの条件が重なる場で、集団感染のリスクが高まるとされている。とりわけ子どもは免疫力が弱く集団感染する可能性が高くなるため、注意が必要になる。そのため、教室では2方向の窓を同時に開け、30分に1回以上、数分間程度窓を全開するなどして換気に配慮すること。また、エアコン使用時も換気は必要になるとともに、体育館のような広く天井の高い部屋も換気に努めるようにすることが重要だ。

令和3年度の概算要求で、感染予防に167億円
 このような学校での予防を強化するため、すでに文部科学省では感染症対策備品を購入できる財源(1校当たり100~300万円)として105億円を確保しているが、令和3年度の概算要求においても167億円を計上し、学校における感染症対策の充実を図る意向だ。
 内訳は、「感染症対策のための衛生環境整備支援事業」への78億円(公立・私立二分の一補助)、専門医や看護師など感染症対策専門家を学校に派遣する、「学校における感染症対策専門家派遣事業」への14億円を中心に、特別支援学校の感染リスクの低減を図るためのスクールバスの増便、学校等欠席者・感染症情報システムの充実などを盛り込んでいる。
 文部科学省がこうした予算化を図るのは、学校では基本的な感染症対策と学びの保障に取り組んでいるが、感染症対応が長期化する中で、実際行っている個々の感染症対策が地域の感染状況や最新の知見等に照らして適切かどうかについて判断できる専門家がいないことや、リアルタイムに情報を得ることの困難さ、消毒液等保健衛生用品の継続的な必要性などの課題が生じているからだ。
 さらに、教師の負担を軽減し、子どもへのきめ細かな対応を実現するためのスクール・サポート・スタッフの配置予算では、新型コロナウイルス対策の消毒作業を支援するための財源を拡充。通常分28億円に、コロナ影響分80億円をプラスした合計108億円を要求している。

冬季は要注意、ノロウイルスによる食中毒
 一方、気温が低くなり湿度が下がる冬に活発になるのが、ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒だ。その理由は、ノロウイルスは低温・低湿度な環境下では感染力を高め、生存期間が長くなること。加えて、乾燥が進むと人は夏場ほど水分を積極的に摂取しなくなるので、喉や気管支の粘膜が乾いて傷みやすくなり、そこにウイルスが付着して感染しやすくなるからだ。
 ノロウイルスは、ウイルスで汚染された食品、手指などを介して人の口から入り小腸の細胞に感染する。したがって、学校給食の調理者が感染していた場合は大規模な食中毒を引き起こす可能性があり、調理者や調理器具などからの二次汚染を防止することが重要になる。しかも、食品に付着しただけで食中毒を起こすノロウイルスは原因の特定も難しく、より慎重な衛生管理対策が不可欠になっている。
 また、感染を広げないためには、子どもなどがおう吐した場合の処理が大切になる。半径約2mの範囲に飛沫が拡散することを踏まえ、ゴム手袋、マスク、ゴーグルを着用し、ペーパータオルや使い捨ての雑巾で拭きとり、ビニール袋に二重に入れて密封して破棄することを徹底したい。
 さらに、学校給食ではウエルシュ菌による食中毒にも注意したい。つい10月上旬にも埼玉県内の中学校で、給食の弁当を食べた生徒ら146人が食中毒になった。ウエルシュ菌は別名「給食病」とも呼ばれ、カレーや煮込み料理など大鍋・大釜で大量に調理し、作り置かれていた食品を原因とした事故発生例の多い食中毒となる。
下痢やおう吐による脱水状態を改善する経口補水液
 一方、こうした冬に多いウイルス性感染症の胃腸炎は、感染すると下痢やおう吐を引き起こし、急激に大量の体液を消失させ、脱水につながりやすくなるため注意が必要になる。脱水が進行すると、疾患からの回復が遅れるだけでなく、手足のしびれや頭痛といった脱水症の症状があらわれ、深刻な病気につながることもあるからだ。
 ウイルスから起こる下痢・おう吐が引き起こす脱水は、水分と電解質を同時に失う塩分欠乏型になるのが特長。この場合、脱水の対処として塩分を補わず水だけを飲んでしまうと、かえって脱水が進行してしまう。したがって、水分とともにナトリウムやカリウムといった電解質を適度に補給するとともに、腸での吸収を促すための糖分の摂取も必要となる。
 そこで、有効なのが水に塩分などの電解質と糖とがバランスよく配合されている経口補水液を飲むことで、脱水状態を改善させる経口補水療法だ。飲み方としては、最初は1~5分ごとに続けて、おう吐が止まれば適量を、下痢が治まったら止める。また、治まっても食事が進まない人は経口補水液を少しずつ続けて摂るようにする。こうした経口補水療法は軽度から中等度の脱水状態に点滴と同等の効果があり、初期治療に有効なため、現在ではさまざまな医療機関で活用されている。
 ドラッグストアや調剤薬局などで手軽に購入できる経口補水液には、大塚製薬工場の「オーエスワン」がある。近年では学校でも熱中症対策や災害時の備蓄品として常備するところが増えているとともに、小児や高齢者には飲みやすいゼリータイプも登場している。

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