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ヤングケアラーの実態と早期発見・支援に立ちはだかる課題

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特集 教員の知恵袋

 遅刻しがちな生徒や欠席日数の多い生徒のなかに「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたちが一定数いるのはご存知でしょうか。家族の介護や世話を行う未成年、いわゆるヤングケアラーの認知度はまだまだ高いとはいえず、支援も十分に行き渡っているとはいい難いのが現状です。

 ヤングケアラーについて正しく認識することは支援政策の第一歩です。今回は厚生労働省や埼玉県が行った調査結果をもとに、ヤングケアラーの実態や課題について解説します。

子どもが世話をする「ヤングケアラー」とは

 ヤングケアラーとは、本来大人が背負うべき責任を負い、障害や精神疾患、病気を患う祖父母、親、兄弟、姉妹の世話、家の家事などを行う18歳未満の子どものことです。

 ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちのうち、その4割以上が平均して1日5時間以上家族の介護を行っており、自身の教育や育ちに影響を及ぼしています

ヤングケアラーの実態

 厚生労働省の子ども・子育て支援推進調査研究事業は、令和元年12月から令和2年1月の期間で、全国の要保護児童対策地域協議会を対象に郵送によるアンケート調査を実施しました。

 その後、令和2年3月に「ヤングケアラーへの早期対応に関する研究」として調査結果が発表されました。

ヤングケアラーに対する協議会の認識

 子ども・子育て支援推進調査研究事業の調査結果では「昨年度までは認識していなかったが認識するようになった」と答えた協議会を含め、ヤングケアラーの概念を認識している協議会の割合が増えたものの、未だに25.0%の協議会が「認識していない」と回答しています

ヤングケアラーの概念を認識している協議会の内訳は以下のとおりです。

・ヤングケアラーと思われる子どもの実態を把握している:30.1%
・ヤングケアラーと思われる子どもはいるが実態は把握していない:27.7%
・該当する子どもがいない:41.9%

 なお、実態を把握していない理由には「家庭内のことのため実態の把握が難しい」という意見が最も多く、続いて「子ども自身やその家族がヤングケアラーの問題を認識していない」「虐待等と比べて緊急度が高くないため、実態の把握が後回しになる」との声もありました。

埼玉県で起きているヤングケアラーの事例

 厚生労働省が実施した調査とは別に、埼玉県では令和2年に県内国公私立高等学校の2年生を対象としたヤングケアラー調査が実施されました。

 調査結果では「現在ヤングケアラーである・過去にヤングケアラーだったことがある」と回答した生徒は全体の4.1%です。また、そのうち約6割がケアを行うことにより「孤独やストレスを感じる」「勉強時間を十分に確保できない」など、生活に何らかの影響があると答えています。

ヤングケアラーに対する取り組みと課題

 ヤングケアラー問題への認識は徐々に高まっています。しかし、問題に対する取り組みを行っている自治体はまだまだ少ないのが現実です。

 厚生労働省の調査結果では、ヤングケアラーに対し何らかの取り組みを行っていると回答した自治体等はわずか12.9%に留まり、84.7%が特にしていないと回答しています。まだまだ十分とはいえないヤングケアラーの認知度を高めることに加え、問題を発見してもつなげられるサービスが少ないことも今後解決すべき課題の一つです。

ヤングケアラーの問題に対する取り組み

 ヤングケアラーの問題に対して協議会が所属する自治体等が行う取り組みに、関係機関や団体とのネットワーク、連携体制の強化、ヤングケアラーへの相談支援の実施、パンフレットやポスターによる啓発などがあげられました。

 また、学校や社会福祉協議会、地域包括センター、福祉課や福祉子ども課といった関係機関や団体同士が連携体制を強化させることも大切です。具体的には「保育園に兄が迎えに来ていたら報告してもらう」「関係機関と相談し、該当の家族が利用できるサービスにつなぐ」などの対応が行われています。

 さらに、ヤングケアラーと直接かかわりを持つ生徒指導教諭や養護教諭、児童支援担当、スクールカウンセラーを対象とした勉強会や研修の実施も取り組みの一つです。

ヤングケアラーの早期発見における今後の課題

 ヤングケアラーの支援には「ヤングケアラーである子どもを早期に発見する」ことが重要です。しかしながら、家庭内で起きることであるが故に問題の表面化しにくいため、早期発見は決して簡単なことではありません。

 加えて、ヤングケアラーである子ども自身やその家族がヤングケアラーの問題を認識していないことも早期発見や支援を行ううえでの課題です。たとえ早期発見したとしても、紹介できるサービスの不足や公的サービスで補えないといった費用面の課題があり、十分に支援を行うことが難しい状況です。

重要度を増す要保護児童対策地域協議会と関係機関の連携

 病気・障害を持つ家族の介護や世話、家事などを行う18歳未満の子ども、いわゆるヤングケアラーのうち、約6割を超える子どもたちがストレスや孤独を抱え、生活に何らかの影響を及ぼしています。

 しかし、問題が表面化しにくいことやそもそも問題として認識されていないこと、つなげられるサービスが十分でないといった課題により、早期発見や適切な支援になかなかつなげられていないのが現状です。

 早期発見や支援へつなげるためには、ヤングケアラーである子ども自身やその家族を含め、学校、さらには地域全体がヤングケアラーの問題について認識することからスタートしなければなりません。そのためには学校や要保護児童対策地域協議会、関係機関や団体の連携強化が求められています。

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