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個性化・多様性に対応し、進化する「学生服」の魅力

11面記事

企画特集

コロナ禍に対応した抗ウイルス製品やAI採寸も
学生服特集

 詰襟からブレザー、DCブランド等々、時代のニーズによって変化を続ける「学生服」。近年では少子化とともに個性化や多様性への理解が進む社会の中で、公私立を問わず学校のアイデンティティを高めるオリジナルデザイン制服が人気を呼ぶなど、学生服自体に求められる役割や目的も多種多様になっている。ここでは、制服のモデルチェンジを計画する全国の学校関係者に向けて、進化する「学生服」の魅力を紹介する。

100年続く学生服は努力と研鑽の証
 日本独自の文化「学生服」は、学校像や学生らしさを表現するツールとして定着。品質にこだわった高い縫製技術と素材開発のもと、学校ごとの要望に応えたデザインやディティール、きめ細やかなサービスを提供する制服メーカーの努力が100年以上も続く伝統を築いてきた。なかでも、4月の入学式に間に合うように合格通知後の短期間で採寸・発注し、納品する管理・供給体制は一般の洋服メーカーとは一線を画すものだ。
 時代に沿って変わる学生服の中で、現在のトレンドは中・高校ともブレザー化が顕著になっている。また、素材の耐久性はもちろん、着やすさや手入れのしやすさを追求した機能性も格段に進化しており、ストレッチ素材の採用、家庭用洗濯機で丸洗いできる、アイロンなしでもシワがつかない、撥水・消臭・抗菌加工、成長に合わせて袖が伸ばせるといった高付加価値を備えた商品が次々とラインアップしている。
 加えて、学校の教育アイテムとしての制服の魅力が見直される中で、独自性や誇りを持てるような制服を着たいというニーズの高まりから、学校の教育理念の表現やブランディングに制服のモデルチェンジやリニューアルを行う学校も増加。ここ数年、その流れは公立の中学校にも波及しており、私立校ばりの大胆なデザインを採用するケースも目立っている。

制服まわりを含めた着こなしを提案
 あるいは、制服は「教育的なもの」から抜け出すきっかけをつくった、有名デザイナーを起用したファッション性の高いDCブランド学生服も一時人気を博したが、近年は減少傾向にある。制服に力を入れる学校の興味は、それよりも高級生地や伝統的なシックなデザインを取り入れた品質重視に傾いているようだ。
 こうした制服の個性化は、ブラウスやセーター、ソックス、カバンなどの制服まわりの商品構成やデザイン、機能性向上にも反映されている。しかも、ネクタイ、リボンで正装とカジュアルを使い分けることで個性を表現する、今の学生のファッション感覚に合った着こなし方の変化も楽しめるようになっている。
 また、気象変化に伴う酷暑対策としての夏服、シャツの通気性の改善や、スポーツメーカーとタイアップすることで、機能性やデザインを向上した体操着の進化も見逃せない。とりわけ、長らくダサいといわれてきた見た目が改善されるのは、学生の着こなしへの意識も変わってくるのではないだろうか。なぜなら、登下校に体操着の着用を許可する学校も増えているからで、学校像を象徴する大切なアイテムの1つになるからだ。

LGBTやリサイクル制服への対応も強化
 さらに、LGBTの学生にも配慮したジェンダーレス対応の高まりを受けて、各社とも提案に力を入れるようになっている。すなわち、これまで女子制服はセーラー服やブレザーにチェック柄のスカートの組み合わせが多かったが、ブレザーにスラックスというパンツスタイルも選択できるようになった。こうした制服を希望する学校が年々増えているのは、トランスジェンダーだけでなく、学生が自分の気持ちに合ったスタイルを自由に選べる環境づくりを大切と考えているからで、まさに制服の多様性の表れなのだ。
 また、国際社会全体でSDGs(持続可能な開発目標)の達成が叫ばれる中で、企業においては循環型社会を実現する活動を展開し、社会に貢献していくことが求められるようになっている。したがって、企画提案・生産・流通・リサイクルに至るまでの全ての工程においてのアセスメントが重要になっており、繊維製品の原料となる再資源化から、着用済み制服の回収、修繕して再利用するといった取り組みも強化しているところだ。その中では、古くなった制服から繊維を再生し、もう一度制服として作り出す環境配慮型制服と呼ばれる制服も提案されるようになっており、今後は時代のニーズを受けて売り上げに占める構成比率も高まっていくことが予想されている。
 加えて、学生服のモデルチェンジ等を通じてよりよい学校の改革を支援する制服メーカーでは、キャリア教育や服育、スポーツ活動、防災教育など学校教育をサポートする事業にも積極的に関わるようになっている。つまり、少子化の流れの中では学生服を供給するだけにとどまらず、学校との関係をより深める新たな戦略を描くことも必要になっているのだ。

コスト増に対応した生産・物流の効率化を推進
 一方で、近年はこうした付加価値を高めた制服のモデルチェンジによる競争に加え、人件費や生産、物流に関するコストの上昇が激しくなっており、制服メーカーにとっては厳しい時代を迎えているのも事実だ。なかでも、学生1人ひとりに合わせた梱包作業(アソート)などで肥大化する物流コストの削減は各社の課題になっている。そのため、新たに物流センターを立ち上げたり、IoTによる業務改善に取り組んだりと生産の効率化を図る体制づくりを進めている。
 こうした中、昨年は新型コロナウイルスにより、生産や供給、販売に大きな影響を受けることになった。特に夏服では一部で納品の調整が生じるとともに、休校措置によって販売が遅れて採用を見送る学校も出るなどの事態を招いた。
 今年も引き続きコロナ禍の対応が求められる中で、各社では抗ウイルス加工による制服アイテムの投入に力を注ぐほか、販売の仕方も変化を余儀なくされている。たとえば、これまで主流だった展示会での販促をオンラインや少人数による内覧会に切り替える、リモート営業を強化するなどして対応に努めている。さらには、感染拡大を防ぐソーシャルディスタンスが求められる中で、家庭でもスマートフォンを使って採寸できる、AIによる自動採寸を取り入れるなど新しい試みも広がっている。

学校現場に向けた次なる創造のステップに
 わが国の高品質なモノづくりとサービスの結晶である学生服。学校改革の象徴となる制服の価値が見直され、新たな提案が求められる中でも、各制服メーカーが切磋琢磨して次々と魅力ある商品を生み出している。そこには、学校の歩みとともに日本の教育文化を担ってきたという自負があり、今後もそれが変わることはないだろう。少子化や生産コストの増加に加え、今また新型コロナ禍という大きな壁が立ち上がっている。しかし、これまでもそうだったように、この機会を新たな商品開発や商流の改革へと転化し、学校現場に向けた次なる創造のステップにつなげていくことを期待したい。

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