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【対談】1人1台教育PCの実現と未来の教育を語る 後編

11面記事

企画特集

新時代の学校教育へ ~IT活用人材育成を目指して

 1人1台端末の「ふだん使い」が定着した後、学校はどのように進化していくのか。先進的な地域では教育データを学校運営や施策に利活用する「教育DX(デジタルトランスフォーメーション)」に着手している。インテル代表取締役社長・鈴木国正氏は、学校教育で「データ中心の時代」をリードする創造的なIT活用人材の育成が不可欠だという。社会全体のデジタル化が叫ばれる中、教育DXはその先頭を走れるか。日本教育新聞社代表取締役社長・小林幹長との対談から明らかにしていく。

鈴木 国正 インテル株式会社代表取締役社長
 すずき・くにまさ 1960年8月生まれ。横浜国立大学経済学部卒業後、ソニーに入社。2009年にソニー・コンピュータエンタテインメント代表取締役副社長を経て、2013年にソニーモバイルコミュニケーションズ代表取締役社長に就任。2018年からインテル代表取締役社長に就任。

小林 幹長 株式会社日本教育新聞社代表取締役社長
 こばやし・みきなが 1958年6月生まれ。東海大学文学部卒業後、日本教育新聞社に入社。広告局次長を経て1996年に日本教育新聞社販売局次長。2011年に販売局長兼営業統括局長を経て2014年に販売局長兼専務取締役に就任。2016年4月より代表取締役社長に就任。

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教育界に迫るDXの波
データの利活用が変革のカギに

巣ごもりで再認識されたPCやネットの価値
 小林 新型コロナウイルス感染症拡大防止のための学校一斉休業から、約1年が経過しました。この間、多くの人々がコンピューターやインターネットの重要性を実感したのではないでしょうか。
 その一つに、休業中の授業動画の配信が挙げられます。昨年の今頃は、小中学校は1人1台端末の配備が始まったばかりで、多くの学校では同時双方型のオンライン学習は困難でした。代わりに教員が3学期の復習や、4月からの新しい単元の授業をビデオで撮影・編集をして、学校や教育委員会などのウェブサイトを通じて子どもたちに配信したのです。
 子どもたちは自宅のパソコンやスマートフォンなどから動画を視聴して、学習を続けました。なじみのある学校の先生が映った動画は親しみやすく、好評だったようです。
 5月に弊紙は、先進的な教育委員会や学校の取り組みを紹介しました。オンライン授業の全市実施で注目を集めた熊本市教育委員会、遠隔教育を想定した授業を展開する福島県富岡町など、いずれも第二波に備えたデジタル化を行政全体や民間企業の力を借りながら進めていました。
 こうした動きを受け、文部科学省は2021年4月から、自宅など学校から離れた場所でおこなうオンライン学習について、非常事態に限って「特例の授業」として認めることにしています。
 外出自粛に伴い、子どもたちは学習だけでなく、配信型のデジタルコンテンツやコンピューターゲームを楽しむ機会も増えました。保護者や教員の中にはテレワークを経験し、ネットショップの利用が増えた人もいたでしょう。誰もが「コンピューターやインターネットがあってよかった」と感じたはずで、今後の教育のデジタル化の推進力になりそうです。

飛躍的に増大するデータを生かす道は
 鈴木 コンピューターやインターネットが人々にとってますます重要なものとなり、パソコンだけでなくタブレットやスマートフォンなど、インターネットにつながった端末数は増加の一途をたどるでしょう。すると飛躍的に増加するのは「データ量」です。
 1人1台端末の普及と高速通信網を一体的に整備するGIGAスクール構想で、学校教育の世界でもこれからはデータが爆発的に増加していきます。いかにデータを利活用できるか。GIGA後の教育の成否がかかっています。
 日本企業においてDXは、新しい事業モデルを創造し、デジタル社会で生き残るために不可欠な要素です。経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」で提唱された「2025年の崖」をご存じでしょうか。
 経営面、人材面、技術面でDXを実現できないと、2025年以降巨額の損失が生まれると警告するものです。既存のITシステムの老朽化を放置していると、その維持費が高額化し、データの利活用を基盤とする新たなビジネスモデルに対応できなくなります。デジタル競争の敗者になれば、デジタルネイティブである若い世代の育成や活用も難しくなり、企業の持続可能性は低下します。
 先を見越して既存システムを刷新することが、正しい道だとわかってはいても、なかなか手が付けられず多くの企業がこの崖に落ちてしまう、とも言われているのです。

 小林 GIGAスクール構想が前倒しされたことや、大学などの高等教育機関でオンライン授業が普及したことにより、教育界でもDXという言葉が聞かれるようになりました。効率化や生産性向上目的とするだけでなく、教育を根本から「変革しよう」というイメージで用いられることが多いようです。
 ただ、小中学校では1人1台端末の活用が始まったばかりですし、地方自治体のDXもこれからです。教育のDXは、児童生徒や教員の生活をより良くするために付加価値を生み出すものでなければなりません。

適正な利活用でイノベーションを
 鈴木 その通りです。インテルはDXに含まれる一つの概念として「DcX(データ・セントリック・トランスフォーメーション)」を提唱しています。ウェブやモバイル、クラウドサービス、IoTなどが生み出す膨大なデータを、その価値を見出しながら利活用を進め、新たな事業を構築する「データ中心」の経営戦略と定義づけて発信しています。残念ながら日本はデータの利活用では世界に後れを取っており、「2025年の崖」に落ちないよう実行が急がれる分野です。
 インターネットでつながった社会において、データは一つの組織内で保持するより、複数の企業にわたる視点、業界を越えた広い観点で捉えると価値を見出すことができます。
 インテルはコンピューターの頭脳であるCPUやメモリなどを設計・製造する半導体メーカーとして、人工知能やクラウドサービス、これから普及する5Gなどの先端技術を支えるテクノロジーを磨いてきました。その知見を企業のDcX戦略としてソリューション提供し、顧客の持つデータの価値の最大化を図っています。

個別最適化学習や授業改善に活用
 小林 教育データの利活用は今、教員のICT指導力育成と並んでホットな話題の一つです。どのような取り組みをされていますか。

 鈴木 「教育DcX」として、データを中心とした教育の向上に取り組んでいます。GIGAスクール構想以前は児童生徒端末は共有利用やアカウントが偏在していたため、データ利活用は難しいものがありました。しかし、これからは違います。
 個人が端末を利用することで学習データの取得が容易になり、児童生徒の解き方や考え方の傾向、履歴などを集積・加工することが可能になります。それらを分析して教育委員会や学校、クラスにフィードバックすれば、個別最適化学習や授業改善、先生方の指導力向上に役立ち、客観的な根拠に基づく教育政策立案、EBPM(Evidence-Based Policy Making)の精度を高めることができるのです。

 小林 学校の営みは、優れた教員の経験知や暗黙知といった「見えない技」で支えられてきました。「数値では推し量れないものだ」「データはなじまない」との考えが根強くあります。
 しかし、ビッグデータを活用した需要分析などは、製造業や流通・小売業、農業や観光業といった従来「経験と勘」が必要とされてきた分野にも応用され成果を生んでいます。教育だけが当てはまらない理由はないですね。教育施策のPDCAサイクルを正しく回すためにも、経験値を可視化し、エビデンスに基づいた施策決定に役立つ教育データの利活用が望まれます。

 鈴木 インテルが教育DcXを推進する理由はもう一つあります。今後、データの利活用ができて子どもたちの学習や学校生活が豊かになるところが誕生する一方、データを活用できなければそれは格差となって子どもたちに不利益をもたらす可能性が高いのです。
 教育現場でのデータデバイドを生み出さないために自治体やパートナー企業とともに、どの学校でも教育データの利活用が可能になるよう支援していくのが、インテルの教育への貢献と任じています。

 小林 さきほど、データの価値を見出すには、複数の組織や業界を越えた広い観点が必要だとおっしゃいました。教育委員会や学校が、企業や大学などの諸機関と連携したDX推進が求められます。

最新技術の「STEAMラボ」で教育支援

デジタルに親和性のある人材育成を
 鈴木 私は教育DcXの進展が、日本の未来を担う人材育成のカギになると考えています。というのも、社会全体のDXが進展するためには、データアナリストやデータサイエンティストといったIT人材の育成が大事です。その土壌として「データとは何か」を多くの人が理解し、そこに価値を見出す意識が、人々に共有されていなければなりません。
 データを使えば新しい価値が生み出せる、クリエイティブなことが可能になる、と考え行動する人を数多く育てるには、学校教育が大きな役割を果たします。
 インテルがSTEAM教育を導入する学校に、最新テクノロジーの導入支援を推進するのもそのためです。科学、技術、工学、芸術、数学を統合し、実社会の課題解決に活かすSTEAM教育を充実させるには、GIGAスクール構想で配備されたコンピューターに加え、高度なテクノロジーを体験、活用できる環境が必要です。
 そこで現在、ハイパフォーマンスなPC環境を中心とした「STEAMラボ」の学校への導入支援をパートナー企業と検討中です。このSTEAMラボ環境では、デジタルコンテンツ制作や、AI、データ解析、プログラミング、モデリング、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などが体験できます。新技術で創造的に学ぶ、次世代の「理科実験室」になります。
 DXを推進できるIT人材をインテルが必要としているからやる、という狭い動機からではありません。デジタル技術やデータの利活用に親和性の高い人たちのすそ野を広げることが、未来の日本の成長と発展に結びつくと信じているからなのです。
 今年度、GIGAスクール構想は順調なスタートを切りました。その先のBeyond(ビヨンド)GIGA環境の構築に向けて、これからも学校現場と共に議論を深めていきます。

 小林 デジタルに親しみを感じる幅広い視野を持つ人材の育成と、専門能力に長けた人材の育成は矛盾しないと思います。
 コロナ禍で学校や先生方もまだまだ、ご苦労が多いと思います。一日も早く終息を迎え子どもたちの笑顔が1面を飾れるよう、GIGAスクールのその先を見据えた教育情報を提供し続けていきたいと考えます。

 鈴木 今、学校現場はデジタル化に向け大きな期待値を背負っています。しかし、明確なソリューションが手元になく、大胆な一歩を踏み出せない状況なのではと推察します。
 インテルの具体的なノウハウが、まずは先生方のICT活用能力の向上に少しでも役立てばと思います。そして、現場のご意見をうかがえる直接的な対話の場も設けながら、データ利活用を中心とした新たな教育ソリューションを推進し、日本の教育と、未来の社会に貢献していきます。

日本の未来を担うデジタル人材育成は学校から
インテルの教員向けICT活用力向上研修 Intel(R)Teachプログラム

インテルが世界規模で展開する教員向け研修です
インテルは長年、オンライン教育の推進や先生方のICT活用スキル向上のための研修開発と提供に力を入れてきました。Intel(R)Teachプログラムは、児童生徒が自ら考える力を育てる、思考支援型授業のための教員研修パッケージです。2001年より、世界70カ国で1500万人以上の教育関係者が受講、日本でも4万人の教員と教員養成課程の学生が受講しています。

プロジェクト型学習を想定したICT活用術を学べます
これからの時代を生きる子どもたちには、コミュニケーションや協働して学習する力、情報活用能力、創造性といった「21世紀型スキル」が不可欠です。Intel(R)Teachプログラムでは、プロジェクト型学習をベースにした授業設計の方法や、指導・評価の方法、効果的なICT活用法を、ワークショップ形式で学べます。採用する自治体や学校の実情に合わせて研修カリキュラムをカスタマイズできるのも特徴です。

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