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豊かで快適な学習環境に向けた取り組み 令和時代にふさわしい学校施設を

10面記事

施設特集

学校施設総合特集

 これからの学校施設は中長期的な視点で改修を行いつつ、防災機能の強化や豊かな学習環境に向けた高機能化を図っていくことが求められている。そこで、令和時代のスタンダードとなる学校施設のあり方や最新の導入事例などを紹介する。

継続的・計画的な長寿命化改修を推進
 現在、学校施設は老朽化した建物を令和時代にふさわしい安全で豊かな環境と、少人数教育など多様な学習スタイルに応えられる施設へと生まれ変わらせるため、継続的・計画的な長寿命化改修が進められている。しかし、自治体によっては20年度までに求められていた長寿命化計画の策定が遅れたところもあった。そのため、文部科学省は21年度予算や補正予算で施設整備に関わる予算を拡充し、各自治体での取り組みをより一層加速するよう促している。
 また、学校施設は災害時に地域の避難所となる重要なインフラであることから、政府は新たにまとめられた「国土強靭化5か年加速化対策」の中でも2365億円を計上し、学校施設の防災機能の強化を推進していくことを打ち出している。
 さらに、新型コロナの感染拡大が続く中で、各校が感染症対策に必要な設備・用品を購入できるよう段階的に予算を拡充するなど、学校施設を取り巻く状況は大きな過渡期を迎えているところだ。

今後の学校施設に求められる機能
 では、令和時代にふさわしい学校施設となるために具体的に何が進められるかというと、次の内容になる。

 (1) 「新しい生活様式」も踏まえ、健やかに学習・生活できる環境の整備として、教室や給食施設等のエアコン設置、トイレの洋式化・乾式化、給食施設のドライシステム化
 (2) 個別最適な学びを実現する施設環境の整備として、バリアフリー化、特別支援学校の整備、1人1台端末環境への対応、少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備への対応
 (3) 多様な学習活動に対応する施設環境の整備として、施設の複合化・共有化と有効活用、オープンスペースや少人数学習に対応するための内部改修

 また、防災・減災に向けた取り組みでは、子どもの生命を守り、地域の避難所となる安全・安心な教育環境の実現として、体育館の天井落下対策や空調設置、自家発電・蓄電設備、都市ガスとプロパンガスの2WAY化、公衆Wi―Fi整備を含めた非常時の通信手段の確保など、ライフラインを維持するために必要な設備などの防災機能の強化。計画的・効率的な長寿命化を図る老朽化対策としては、長寿命化改修へのシフトや公的ストックの最適化が挙げられている。

給食室のエアコンや体育館の多目的トイレ整備も
 こうした中、ここ数年で急速に進んだのが普通教室におけるエアコン整備で、昨年9月時点の調査によれば小中学校で93%に達している。ただし、特別教室は57%あまり、体育館にいたってはいまだ9%しか整備されていない。これまで夏季に起きた災害では、避難所生活の拠点となる体育館での暑さ対策が教訓になっていることからも、今後はこれらに向けた整備の進捗がカギになるといえる。また、給食を自校式にする自治体が増えている中で、給食室のエアコン整備も進める必要がある。特に、昨年は新型コロナによる学校の休業措置後に授業が夏休み期間にずれこんだことで、給食調理場の環境改善が問われる形になった。
 もう1つのトレンドになっているのがトイレの洋式化だ。老朽化対策の優先課題として急速に改修が進んでいるとはいえ、まだ4割以上が時代にそぐわない和便器のままとなっている。明るく清潔なトイレに生まれ変わることは、子どもの健康やモラルの向上につながる。同時に車椅子利用者を含めたすべての人が利用できる多目的トイレの整備も、災害対策や学校施設のバリアフリー化を進めていく中での重要なファクターになっている。学校のトイレ環境の問題は、なぜか長年見過ごされてきた。この機会を逃さず、なるべく早期に改修を進めてほしい。

新型コロナの集団感染を防ぐための対策を
 さらに、新型コロナの感染症対策費として、これまでも1校あたり300万円(上限)を投入してきたが、21年度予算でも引き続き対策を図っている。そこではマスク・消毒液等の保健衛生製品はもちろん、サーモグラフィー、非接触型体温計、二酸化炭素濃度計測装置などの購入も可能だ。また、集団生活の場となる学校施設では、感染対策として定期的な換気が必要になるため、校舎の廊下や体育館などで大型扇風機を使って換気したり、空気清浄機を配備したりする学校もある。
 加えて、多くの学校では教員がトイレや教室等の消毒作業に追われていることから、消毒作業を外注するための経費にも活用できるほか、最近では接触部位の抗ウイルス効果を長持ちさせるコート剤も開発されており、教員の負担軽減策として期待されている。

他の公共施設との複合化も拡大
 一方、豊かで快適な学校施設に生まれ変わらせる取り組みとして、他の公共施設等との複合化も拡大。いまや公立小中学校施設の複合化は全国で1万校を超え、全体の35%を占めている。こうした背景には、自治体の厳しい財政状況下における老朽化が著しい公共施設全体の効果的・効率的な改修とつなげることが期待されているからであり、子どもの多様な学習機会を創出するとともに、地域コミュニティの強化や地域の振興・再生に資することも目的になっている。
 したがって、少子化&高齢化などの地域の事情に沿い、公共施設をトータルな観点からマネジメントして再構築する動きがとられるようになっている。すなわち、学校施設でいえば空き教室の活用であり、財政負担の軽減・平準化に向けたマネジメントでは民間活力の活用が推進されている。
 そんな学校施設の複合化では、放課後児童クラブや地域防災用備蓄倉庫が最も多く、体育館やプール、図書館などの社会教育施設や保育所、老人デイサービスセンター等の組み合わせが追随する。
 とはいえ、複合化を計画する上では、自治体内の部局間の連携や教職員や地域との合意形成、児童生徒の安全性の確保といった課題も。学校設置者は、これらに留意して計画を進める必要がある。

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