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エコスクール20年 見えてきた課題とこれから ~整備+環境教育活用を継続するために必要なこととは~

11面記事

施設特集

エコスクールを教材に、持続可能な社会の創り手の育成を

エコスクールの現在地
 環境を考慮した学校施設(エコスクール)づくりが推進されてから20年が経った。文部科学省が関係省庁と連携してパイロット・モデル事業及びエコスクール・プラスを実施した学校施設は、これまで2千近くに達している。この間の変化としては、平均気温の上昇やゲリラ豪雨の頻発など地球温暖化の影響が色濃くなったことが挙げられる。そのため、SDGsへの理解や貢献といった新たな環境教育のテーマを取り入れた「持続可能な社会の創り手」の育成も期待されるようになっている。
 もともとエコスクールの推進は、地域の環境保全に寄与するとともに、施設自体が環境教育の教材となることを目指している。加えて、環境教育の拠点として地域との連携・協働を深め、社会における環境への意識づけを向上する役割も担っている。つまり、整備+活用があってこそ、エコスクールと呼べるのだ。
 しかし、環境負荷の低減など一定程度の効果が実感できた反面、課題も明らかになってきた。たとえば、8割の学校がエコスクールを活用した環境教育に取り組んでいる一方で、継続的な活用には課題やマンネリという弊害も生まれている。
 また、パイロット・モデル事業など、これまでエコスクールに認定された学校へのヒアリングを通じて、うまく活用できている設備とできていない設備も分かってきた。一例を挙げると、庇・バルコニーや雨水利用貯水槽等は学習施設や設備としてうまく活用できているが、屋上緑化や壁面緑化、ナイトパージ等はうまく活用できていないといった具合だ。

継続的に活用するためのポイント
 こうしたことから、文部科学省はエコスクールを継続的に活用するためのポイントを、施設面・運営面・教育面の3つの視点で整理している。
 施設面では、環境への負荷を低減させる設計・建設とともに、学習空間や生活空間として健康で快適であること、周辺環境と調和していることを挙げる。運営面では、建物や資源、エネルギーを無駄なく、効率よく使うため、耐久性やフレキシビリティに配慮し、自然エネルギーを有効に活用すること。教育面では、施設、原理、仕組みを「学習に資する」ことを求めている。
 また、エコスクールを継続的に活用するためのポイントも指摘。施設設備の仕組みを理解し、性能を体感できる工夫としては、エコ技術の可視化、サイン掲示を。継承するための工夫としては、設計者や地域の専門家の協力を得て施設の使い方等のマニュアルを作成し、児童生徒や地域住民が一緒に学びながら運営する。さらには、児童生徒による主体的な取り組みが大事になるとしている。

エコスクールを教材にした環境教育の事例
 これらの視点を踏まえ、成果を出している学校の事例を紹介する。石川県の羽咋中学校は、地中梁を活用したクール・ヒートトレンチや地中熱利用ヒートポンプの採用、エネルギー使用量や太陽光発電の発電量の見える化等により、建築環境総合性能評価システムの最高評価Sランクを取得した。
 運営面では、毎年4月に新入生に対して校内を案内しながらエコスクールについて説明を行い、学校のエコ施設・設備についての知識等を継承するほか、地域住民も参加する「防災・環境教室」をPTA主催で開催。教育委員会等担当者が、校内のエコ設備について説明を行っている。
 教育面では、施設に採用された環境技術をもとに、1年社会科(日本の自然エネルギーと産業)、2・3年理科(エネルギーの保存・資源の利用など)の授業で活用している。加えて総合でも、教育委員会や建築士によるエコスクールの講義を行っている。

環境サインの掲示や照明制御の学習も
 江戸川区の篠崎第三小学校では、エコスクールの施設・設備を解説した「環境サイン」を校内各所に設置し、省エネ・木材利用等の環境に配慮して整備した校舎について児童に分かりやすく見せる工夫をしている。また、施工会社による出前授業を実施し、太陽光発電システムとその活用による効果等を学ぶほか、授業内容を学内の共通フォルダにデータを保存して一元管理し、教員間で継承している。
 板橋区の蓮根第二小学校は、地域の専門家の指導のもと児童や保護者を中心とした「芝生見守り隊」が校庭の芝生を管理したり、ビオトープづくりをしたりすることを通じて環境への意識づけを図っている。滋賀県の守山中学校は、両面採光の校舎を活かして自然採光や細やかな照明制御を学習するとともに、照度計で照度測定を行い、適切な照度管理について体験しながら学ぶことを取り入れている。また、3年生が地域の小学校を訪問して、エコスクールの特徴等を小学生に説明し、学んだことを次世代・地域へと発信している。
 もう1つ、校舎のエコ改修による温熱環境の効果も報告されている。夏季の普通教室の体感温度は改修前の27・8度から27・4度に改善され、それに伴い体調不良を訴える児童数は21%から14%に減少。授業への集中力に欠く児童数は47%から29%に減少した。さらに冬季の普通教室の体感温度は改修前の16・9度から19・9度に改善され、体調不良を訴える児童数は6・1%から1・4%に減少し、授業への集中力に欠く児童数は41%から20%に減少した。

地域の環境モデルとして取り組む
 温室効果ガス排出削減の国際的な枠組みである「パリ協定」がCOP21で採択されたことを受け、日本は「地球温暖化対策計画」(2016年5月閣議決定)において、温室効果ガスを2030年度には2013年比26%削減する中期目標の達成に向けて取り組むこととしており、学校施設も40%の削減が示されている。こうした背景からも、今後もより一層環境に配慮した学校施設づくりを進める必要があり、その設備を教材とした児童生徒に対する環境教育を重視していくことが望まれている。
 だが、一方では気象変化や時代のニーズに対応するため、教室へのエアコン設置や1人1台端末などの整備によって、温室効果ガスの排出を増長しているのも事実だ。だからこそ、企業や学校にはエネルギーを無駄なく使う賢い設備や運用方法に力を入れ、学校施設が地域の環境負荷低減におけるモデルとなるよう努めていくことが必要になる。

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