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ものがつなぐ世界史

16面記事

書評

桃木 至朗 責任編集
中島 秀人 編集協力
歴史動かした17の「もの」に焦点

 「両大戦間期は、イギリスを頂点としたヨーロッパの世界覇権がアメリカの時代へ転換する画期となった」。その原動力はアメリカの自動車産業の勃興と発展である。ガソリン自動車の生産販売はフランスが先陣を切ったが、その理念は上流階級の趣味としての高級車の少量生産にあった。対するアメリカのフォード社は、部品の互換性や規格化による実用大衆車の大量生産をもくろむこのフォーディズムによって「世界の20世紀を大きく変えた」とある。「もの」が「世界史」を変えたのだ。
 天然ゴムの用途の「七割半ば以上がタイヤ製造に向けられる」のが現代で、合成ゴムを使う割合は乗用車が高く、トラックは天然ゴムの割合が高い。航空機のタイヤは天然ゴムのみを用いるのだそうだ。すべてが全くの初耳だ。
 読み進めるにつれて目からうろこが落ち続ける思いだった。「人・もの・カネ・情報・技術など」の「動き・流れや交流に焦点を当てた研究」によって世界史を読み解く「ミネルヴァ世界史叢書」の第5『ものがつなぐ世界史』の正直な私的読後感である。
 第I部は、「工業化以前の世界をつないだ『もの』」として、馬、帆船、陶磁器等9点。第II部は、「近現代世界を動かした『もの』」として石炭と鉄、硬質繊維、大豆、石油等ウラニウムまで8点。それぞれの専門研究者が独自の視点でつづる渾身の大冊は垂涎の一書である。
(6050円 ミネルヴァ書房)
(野口 芳宏・植草学園大学名誉教授)

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