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水害から学校を守る 文科省が「学校施設の水害・土砂災害対策事例集」を作成

15面記事

施設特集

集中豪雨の回数が増加する中、7月3日には熱海市で土石流が発生

学校の3割が浸水想定区域や土砂災害警戒区域
災害発生時に備えた対策を

 集中豪雨による水害や土砂崩れの危険性が高まる中、学校施設においても、こうした災害に対する備えが必要になっている。ここでは、文科省が6月に公表した「学校施設の水害・土砂災害対策事例集」から、学校や地域を守るために必要な対策を紹介する。

記録的な豪雨により土砂災害が増加
 近年、洪水や土砂災害を引き起こす大雨や短時間強雨の回数が増加。学校においても甚大な被害が発生している。そのため、文科省では、学校施設の水害・土砂災害対策の推進を目的として、昨年10月に「浸水想定区域・土砂災害警戒区域に立地する学校に関する調査」を実施。公立学校における対策の実施状況について把握するとともに、今後、学校設置者が水害・土砂災害対策を実施する際に参考となるよう本事例集を作成した。
 ここでは全国の教育委員会や学校の取り組み事例を、

 (1) 学校設置者が主体となって、水害・土砂災害から学校を守る
 (2) 防災担当部局等の要請に学校設置者が協力し、水害から地域を守ることに学校が貢献する

 ―の2つの視点で整理しているのが特徴だ。
 なお、日本で日降水量100mm以上を記録した年間の平均日数は、百年前と比べて1・4倍。1時間降水量50mm以上という数値も近30年で1・5倍に増加している。また、それに伴って土砂災害の発生回数も近年増加傾向にある。2018年は7月豪雨により、観測史上最多となる3459件もの土砂災害が発生し、昨年も平均の約1・2倍となる1319件の土砂災害が発生している。

学校改修時にかさ上げや止水板を設置
 こうした中、「水害から学校を守る」事例としては、佐賀県嬉野市立塩田中学校の取り組みが紹介されている。同校は洪水が発生した場合、0・5m以上3・0m未満の浸水が想定されており、1990年の水害の際には床上浸水の被害があった。対策としては、老朽化した学校施設の改修時に建物全体の床を地面から2・6m高くし、避難経路を確保。中庭や校庭を低く設定することで、洪水時に建物自体の水没を防ぎ、避難時間を確保する工夫を取り入れた。
 また、その他の学校の対策では、浸水の可能性が高い箇所に脱着式の「ステンレス製止水板」を設置し、避難所となる屋内運動場への浸水を防ぐもの。受変電設備の浸水対策としては、コンクリート基礎打設により地盤面から70cmのかさ上げを実施したところや、校舎の上階に移設したところ。重要書類は、職員室を上階に移動したり、データ化したりすることで守る方策が紹介されている。

校庭に貯水機能をもたせ、地域を守る
 「水害から地域を守ることに学校が貢献する」事例では、校庭に貯水機能をもたせることで地域の浸水被害を防ぐ、大阪府寝屋川市立西小学校の対策が紹介されている。
 同校は、淀川と寝屋川の中間に立地していることから、それぞれの河川で洪水が発生した場合に浸水が想定されている。対策としては、校庭の地盤面を既存より平均15cm下げ、排水量を抑制するオリフィスマスを設けることで、校庭に約560平方mの雨水を貯留する。1時間当たり50mm程度の降雨時に、約40分で雨水が引くように設計されており、雨水が引いた後に表土の入替え等の復旧作業は必要ないという。
 その他の学校の対策では、特に短時間の局地的な大雨時において公共下水道への雨水排水量を削減することを目的に、校舎や校庭の地下に雨水貯留槽を設置した事例が紹介されている。

施設や受変電設備の浸水対策に遅れ
 昨年実施した全国の公立校への調査結果によれば、洪水や雨水出水、高潮などで被災のおそれがある浸水想定区域に立地し、要配慮者利用施設として位置づけられている学校は2割(7476校)に及ぶ。そのうち、避難確保計画の作成や避難訓練を実施している学校は7~8割に達しているが、施設内への浸水対策と受変電設備の浸水対策をしている学校はともに約15%、重要書類等の保管場所の浸水対策も約37%と、ハード面の対策は遅れていることが分かっている。
 さらに、土砂災害警戒区域(急傾斜地の崩壊、土石流、地滑り)に立地し、要配慮者利用施設として位置づけられている学校も1割強(4192校)ほどあり、水害と合わせると全体の3割に達している。
 その「土砂災害から学校を守る」事例では、兵庫県芦屋市立山手中学校の対策が紹介されている。老朽化対策の実施に併せて、土砂災害警戒区域に位置していた複数の校舎を、区域外の場所に集約移転。避難所として活用する屋内運動場は、土砂流入を防ぐため、北側の壁をRC壁にして開口部を設けない設計にすることで、被害を軽減するとともに校舎への土砂の流入を回避する効果をもたせたという。その他、屋内運動場への土砂の流入による建物被害を防ぐために、構造体の補強や防護壁を設置するなどの事例が紹介されている。

まずは避難確保計画の作成や避難訓練の実施を
 このように学校施設は児童生徒の命を守ることはもちろん、地域で水害・土砂災害が起きた場合を想定し、被害を軽減する役割も期待されるようになっている。
 萩生田文科大臣は「まずは避難確保計画の作成や避難訓練の実施により、災害発生時に備えることが重要だ。文科省としては計画作成に資するガイドラインを周知したところであり、各学校での速やかな作成を促進していきたい」と述べている。
 なお、学校施設の水害・土砂災害対策を目的とした整備の際に活用できる支援制度としては

 ・雨水貯留に資する貯水槽の整備や受変電設備のかさ上げや上層階への移設など、防災機能の強化を対象とした文科省の「防災機能強化事業」(学校施設環境改善交付金)
 ・浸水・土砂災害対策のための施設整備全般(止水板や防水扉の設置等)や、大規模災害時に迅速に対応するための情報網の構築(防災行政無線のデジタル化、Wi―Fiの整備等)を対象とした総務省の「緊急防災・減災事業債」
 ・雨水の貯留浸透機能を有する管渠などの設置・改造を対象とした国土交通省の「新世代下水道支援事業 水環境創造事業」(水循環再生型)

 ―などがある。

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