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求められる不合理な校則の見直しと改訂版生徒指導提要の概要

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特集 教員の知恵袋

 2022年12月、文部科学省は生徒指導提要の改訂版を公開しました。これまで、学校の校則は時代や社会環境にそぐわず、不合理的で不適切、などと指摘され、“ブラック校則”と呼ばれる決まりごとが散見されていました。

 実際に「今の時代に合う校則に見直すべき」という声もあり、文部科学省はこれまで、校則内容の実態調査や生徒・保護者へのヒアリングなど、校則の見直しに関する取り組みを行ってきました。

 今回は、校則の見直しが求められる背景や自治体による取り組み事例、改訂版の生徒指導提要について解説します。

校則の見直しが必要な理由

 昨今、小中高等学校における児童・生徒の人権侵害に当たるような校則や合理性のない校則が報道機関によって数多く取り上げられ、注目されています。

 2019年8月23日にはNPO法人の代表らが『ブラック校則をなくそう!プロジェクト』を発足。校則の見直しを求める6万人を超える署名を文部科学省へ提出しました。

 このような市民からの声のほか、新しい時代を生き抜く人材を育成する意味でも校則の見直しが必要です。

合理的ではないルールが定められている校則がある

 そもそも、校則とは学校が教育目的を達成するために必要であり、合理的な範囲内において定められるものです。一方、ブラック校則と呼ばれる不適切な校則の多くは、合理的な説明ができないであろうルールが定められています。

<不適切な校則の例>
 ・運動中の水飲み禁止
 ・ポニーテール禁止
 ・整髪料の使用禁止
 ・シャープペンシルの使用禁止
 ・マフラーの使用禁止
 ・下着の色は白色・淡色・無地
 ・地毛が茶色でも黒髪に染めなければならない

これからの時代に求められる人材の育成にそぐわない

 不適切な校則に関しては、衆議院議員からも見直しを求める声があがっています。国会への質問主意書では、不適切な校則を放置する教育環境では、文部科学省が示す“これからの時代に求められる資質・能力”を育むことが難しいのではないかとの意見も見られます。

  なお、“これからの時代に求められる資質・能力”として、文部科学省の新しい学習指導要領が目指す姿では以下のように示されています。

 “複雑で変化の激しい社会の中では、固有の組織のこれまでの在り方を前提としてどのように生きるかだけではなく、様々な情報や出来事を受け止め、主体的に判断しながら、自分を社会の中でどのように位置付け、社会をどう描くかを考え、他者と一緒に生き、課題を解決していくための力が必要となる。”

引用元:『2.新しい学習指導要領等が目指す姿

 これからの時代を生きる児童・生徒の声を無視して不適切な校則を適用し続けることは、「自分の意見では学校は変わらない」との考えにつながるおそれがあること。さらに、そこから「自分が投票したところで社会は変わらない」という政治参加に反する考えにつながるのではないかという若者からの指摘もあります。

出典:文部科学省『2.新しい学習指導要領等が目指す姿

校則見直しに対する取り組みの事例

 見直しを求める声が高まる不適切な校則ですが、全国の教育委員会や公立中学校・高等学校では、校則の見直しに対する取り組みを行っているところもあります。

 いずれも、校則に関する実態調査を行ったのちに、生徒やPTAの意見を取り入れるという方法で見直しを進めています。以下、長崎県教育委員会と公立高等学校で行われた校則の見直しについての事例を紹介します。

長崎県教育委員会

 長崎県教育委員会は、2020年から2021年にかけて校則内容の実態調査を実施。公立中学校、県立高等学校のうち、下着の色を白としている学校は全体の半数を超える58%、138校に上ることが分かりました。

 この結果を受け、2021年3月に長崎県教育委員会は県立学校に対して人権に配慮した内容となっているかとの観点等から校則の見直しを行うことを通知しました。

出典:文部科学省『校則の見直し等に関する取組事例について(教育委員会・学校)

ある公立高等学校

 ある公立高等学校の生徒・保護者・地域に対してヒアリングを実施。生徒会やPTA会議、学校評議員会から聴取した見直しが必要な事項を踏まえて校則を改定しました。

 校則の改定に伴い、生徒・保護者・地域の校則に関する意識を高めることと学校における校則見直しの促進を図ることを狙い、学校のホームページに校則を掲載するという取り組みも行われています。

 さらに、公立高等学校への入学希望者である中学生を対象とした説明会を実施。校則内容を説明し、生徒と保護者の共通理解を目指しています。

出典:文部科学省『校則の見直し等に関する取組事例について(教育委員会・学校)

生徒指導提要

 生徒指導提要は、小学校から高等学校までの子どもに対する生徒指導の理論や考え方、実際にどのように指導するかという方法など、“生徒指導に関する基本書”という位置付けで2010年に作成されました。

 一方で、作成から一定期間が経過していることから、社会や学校、地域の状況が変化して今の時代にそぐわない校則も含まれていました。

 そのため、生徒指導の基本的な考え方や取り組みの方向性などを再整理したうえで、2022年12月、今日の課題に対応するための改訂版生徒指導提要が発表されました。

出典:文部科学省『校則の見直し等に関する取組事例』『生徒指導提要(改訂版)

改訂版の生徒指導提要

 改訂版の生徒指導提要は、第Ⅰ部と第Ⅱ部に分けられています。

第Ⅰ部:生徒指導の基本的な進め方
第Ⅱ部:個別の課題に対する生徒指導

第Ⅰ部

 第Ⅰ部は以下3つの章で構成されています。

 1. 生徒指導の基礎
 2. 生徒指導と教育課程
 3. チーム学校による生徒指導体制

 例えば、“生徒指導の基礎”には校則の運用方法として、学校のホームページ等で校則を公開することが記載されています。

 これには、“児童・生徒が決まりの意義を理解して、主体的に校則を遵守するようになる”“保護者を含む学校内外の関係者がいつでも校則を確認できるようにする”といった目的があります。

出典:文部科学省『生徒指導提要

第Ⅱ部

 第Ⅱ部では、関連法規や国の基本方針に照らしつつ、各課題の未然防止や対応など、指導上での基本的な考え方や留意点が以下13章に分けて示されています。

 4. いじめ
 5. 暴力行為
 6. 少年非行
 7. 児童虐待
 8. 自殺
 9. 中途退学
 10. 不登校
 11. インターネット・携帯電話に関わる問題
 12. 性に関する問題
 13. 多様な背景を持つ児童・生徒への生徒指導

 各章では、いじめや児童虐待、不登校をはじめ、子どもたちを取り巻くさまざまな課題について触れています。これらのうち、“性に関する問題”の章では、性的マイノリティへの理解や学校における対応などを確認できます。

 例えば、性同一性障害に係る児童・生徒に対する学校での支援事例として、次のような項目が示されています。

 ・一定の範囲で、戸籍上男性の標準より長い髪型を認める
 ・保健室・多目的トイレ等の利用を認める
 ・名簿上は自認する性別として扱う など

出典:文部科学省『生徒指導提要

校則の見直しとこども基本法

 2022年6月にこども基本法が成立し、2023年4月に施行されました。この法律は、すべての子どもが将来にわたり幸福に生活できる社会の実現を目指して制定されました。

 こども基本法の成立により、子どもの権利を擁護するとともに、意見を表明する機会の確保等が法律上位置付けられました。

 例えば、校則の見直しを検討する際に児童・生徒の意見をヒアリングする機会を設けたり、子どもたちが校則について議論したりする機会を設けることもその一つです。

出典:文部科学省『生徒指導提要

時代に合わせた校則の見直しと生徒指導提要に基づいた生徒指導

 日本では長らく、不合理的で不適切な校則に異議を唱える声が増し、時代の要請や児童・生徒の状況に合わせて校則の見直しを行うことが求められてきました。

 学校における校則の見直しにおいては、こども基本法の考えに則り、子どもたちの意見を取り入れながら行うことが重要です。

 また、改訂版の生徒指導提要に基づきながら生徒指導アップデートすることが必要です。なお、校則の運用については、学校のホームページ等で校則を公開し、児童・生徒が主体的に校則を遵守するようになることを促すことのほか、児童・生徒の保護者または学校内外の人と校則の共通理解を図ることも求められます。

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