日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

入試の検討会議提言、高校はどう見る

8面記事

Topics

石崎 規生 全国高等学校長協会大学入試対策委員会委員長

 今後の大学入試の在り方について、文科省の検討会議が1年半に及ぶ議論の結果を提言にまとめた。焦点となった英語の民間資格・検定試験や記述式問題は導入を断念し、個別試験での利用を促進する内容だ。高校側は提言をどう受け止めたのか。全国高等学校長協会の石崎規生・大学入試対策委員会委員長(東京都立桜修館中等教育学校校長)に聞いた。

社会的格差広げぬ仕組み必要

 ―文科省の検討会議の提言をどう受け止めましたか。
 「高校の教育活動以外で取り組んだものも積極的に評価しようという姿勢を感じます。しかし、全国を見れば、さまざまな格差によって機会に恵まれない高校生がいることを考えると、そうした方法がよいのか疑問です。勉強をすれば、誰でもチャンスがあると信じてやってこられたことが、日本社会の一つの活力になっていたと思います。それが、いつの間にか、志望する大学が最初から手の届かないところに行ってしまうことにならないか。社会が二極化して、大学入試が格差の反映される仕組みになってしまうことが心配です」

 ―提言のどのような点についてそう感じますか。
 「個別試験での英語の民間資格・検定試験の活用にしても、総合型選抜の推進にしても、入試における原則と例外が逆になっているような印象を受けます。例えばスポーツ推薦を多くの人は『これは例外』と思って今まで納得してきましたが、こうした入試が主になってよいと皆が思うでしょうか。幼稚園から英語を学び、中学校で英検準1級を取ったから大学入試では受験もせずに『みなし満点』なんていうことが当たり前になってしまえば、土俵が変わってしまいます。また主体性を評価するといっても、さまざまな理由で機会に恵まれない生徒はたくさんいます。入試改革を『自由主義』に委ねるのかどうか。これは社会の在り方の問題でもあると思います」

さらなる高大連携が鍵
 ―今回、改めて見送られた英語成績提供システムについては、どう考えていましたか。
 「文科省の英語4技能評価ワーキンググループに委員として関わりましたが、4技能を測ること自体には高校側としても賛成でした。ただ、試験は大学入試センターが開発してほしいという意見が高校側からは多く聞かれました。ところが、それが難しいということで、民間資格・検定試験を使おうとしましたが、公平性・公正性の求められる入試には、およそそぐわない状況が明らかになったわけです。結局、実施を断念したのはご承知の通りで、共通テストの枠組みで利用しようという制度設計に無理があったのだと思います」

 ―他方で、特に私立大学では全般的に合格者の偏差値が下がり続けています。その点でも高校と大学の連携が必要だという指摘はあります。
 「それはもちろん必要で、高校も真摯に受け止めなければいけませんが、学力の保障は高校だけの問題ではありません。中学校や小学校の教育にも関係はありますし、当然、入学を認めた大学も責任を持たなければならないと思います。そうした意味では、高校と大学の連携はますます重要になるでしょう」

 ―高校としては大学入試改革の必要性をどう考えていますか。
 「各論でいえば、英語4技能も記述力も思考力・判断力・表現力や主体性も全て重要です。高校までに学んだ知識だけで、これからの社会を生きていけるとは思っていませんし、そうした力を高校でも付けさせようとしています。一方、大学に進学する高校生は全体の55%くらいしかいないのに、入試改革によって高校教育を変えようとする発想自体が正しいのかは疑問です」

 ―入試の在り方に関する検討会議の後継的な役割も含む、高校と大学関係者による協議会が設けられました。そのメンバーの一員ですが、今後、何が焦点になりそうですか。
 「先ほども言いましたが、社会的格差を反映し、拡大させる入試にならないような仕組みが必要だと思います。英語成績提供システムの案が出てきた時、受験時期を『高校3年の2回まで』となったのは、そうすることで公平性を保とうとしたからです。また、学力試験が学習指導要領に準拠することもそうですが、少なくとも一般選抜では高校で学ぶこと以外の資格や経験を優遇するのではなく、高校で学ぶことをベースに競争できるようにしてほしいと願います。もう一つ、入試改革によって高校の教育活動に影響が出ないことを求めます。高校はわずか3年間ですが、その3年が子どもたちの人生に与える影響は大変大きなものです。勉強だけでなく、部活動も学校行事も友人関係もあります。高校3年の9月や10月から多くの入試が始まってしまうと、それだけ高校生活が短くなってしまいます。高校現場の声を聞かずに制度設計をすると、また同じことの繰り返しになるのではないかと危惧します」

受験生の負担増懸念
 ―令和7年度入試から共通テストでは新科目が出題されますが、高校にとって不安は何ですか。
 「一番は受験生の負担増です。顕著なのは『情報』ですが、数学の出題科目もこれまで『数学II・B』だったのが『数学II・B・C』になります。国立大学が『情報』を出題するのかどうか、まだ分かりませんが、5教科7科目から6教科8科目になり、しかも数学の内容も増えたのでは高校生にとって大きな負担増です。高校現場では、教師同士が相談し、教科で宿題を出す量を調整することがあります。入試も一緒で、あれもこれも測りたいのかもしれませんが、勉強する側の負担をトータルで考慮してほしいと思います」
 「不安とは別に、全ての国立大学が6教科8科目のように受験科目を増やすことができるのかという疑問もあります。現在はコロナ禍で国立大学志向が高まっていますが、今後、私立大学との競争の中で、アラカルト方式を導入した過去を繰り返す可能性がないとはいえません」

 ―来年度から観点別学習評価が高校でも導入されますが、大学入試ですぐには利用されないことになりました。
 「観点別評価の実施は、生徒に評価結果をフィードバックし、それによって確かな学びにつなげるという意味で有意義なことだと思います。検討会議は当面、入試には使わないとしていますが、個人的には調査書へ記載した方がよいと考えています。新たに始めるのに入試に使われないとなれば、観点別評価はやらなくてもいいという誤ったメッセージにもなりかねません。もちろん、これも主体性の評価と同じで、大学側がどう利用したいかをはっきり示すことができなければ、入試に使うことができないと思います」

Topics

連載