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見えない世界を可視化する「哲学地図」

16面記事

書評

「ポスト真実」時代を読み解く10章
河本 英夫・稲垣 諭 編著
分断と対立、単純化を乗り越えて

 教養の浅深で、その人物の奥行きが感じられるものである。近年は、自称コンサルや何でもコピペの習慣から有名無実なやからが増産されているように私には思えてならない。本書では、表出する諸課題の奥深くで明滅する「未知のコード」を発見法的に考察し、分断と対立、感情や情報の単純化と平板化を越えて、複数の選択肢を備えたプログラムが提言された「現代の名著」として推薦したい。
 こうした社会状況の中で闇夜に光明を見いだしたような印象を強く受ける内容になっている。タイトルが“見えない世界を可視化する「哲学地図」”で、ウイルス、情報、フェイク、テクノロジー、性、生と死、民族、暴力、権力、陰謀、環境問題という課題を取り上げて、そこにどのような現実性の仕組みが関与しているかが平易に書かれている。コードの耐用年数を現時点での変化速度と、流れ消えていく膨大な情報の速度を勘案して10年間程度はあってほしいという視点もうなずける。
 新型コロナ禍での作業のために「生」に関わるテーマが多くなったとしているが、ある意味、そうしていただけたことが、読者にとっては切実感を高めるものになっている。この動的平衡の視点が随所から感じられる。関心のある章から読み出して読後全てがつながっていることに気付かされる。巻末には用語集も添えてあり、曖昧な理解で終えることはない。
(2420円 学芸みらい社)
(大久保 俊輝・亜細亜大学特任教授)

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