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一刀両断 実践者の視点から【第54回】

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昔の贅沢な光景

 タライに水をはり、炎天下に置いておくと適度なお湯になる。夕刻そのお湯に入って行水をした事がよくあった。ようは風呂代をうかせるためである。水浴びに発展してホースから出される水が反射しプリズムになり小さな虹を作ってくれる。その美しい光景が何故か思い出された。
 私は、高校生まで家に風呂がなく、銭湯に通っていた。そこで繰り広げられる大人の会話が興味深かったはずではあるが、今でははっきりと覚えてはいない。何と言っても風呂上がりの冷えたフルーツ牛乳が楽しみで、タオル一枚を身につけて大人に混じって体を冷やしたものだ。
 常連のおじさんが番台のおかみさんと世間話をしていると、隣の女風呂から「あんた、出るわよ」と、声が掛かる。こうした会話の中で私は大人社会を学んだ気がする。
 その事が今となっては殊更懐かしくもありありがたく感じられる。
 先日、遠隔方式で親子向け星空教室が開かれた。講師は宇宙関係の世界的第一人者で、元種子島宇宙センター・筑波宇宙センター所長の菊山紀彦先生である。興味津々のお話であった。最後に地球が悲鳴を上げている環境について説明をされ、「何でもお金で解決するという考えは間違っています」と、何度も力説された。
 そのインパクトが、脳裏に残った為か、昔の贅沢な光景を思い出させて頂いたような気がする。本当は人として失っては戻らないものを、私たちは便利さやお金で失ってはいないだろうかと考えてみた。
(おおくぼ・としき 千葉県内で公立小学校の教諭、教頭、校長を経て定年退職。再任用で新任校長育成担当。元千葉県教委任用室長、元主席指導主事)

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