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「共生社会」と教育 南アフリカ共和国の学校における取り組みが示す可能性

16面記事

書評

坂口 真康 著
アパルトヘイト後の教育改革

 障害者や在住外国人などとの共生社会の実現や、そのための共生教育の取り組み強化は、わが国でも喫緊の課題である。例えば、教室内の共生の実現によるいじめ問題の解消なども、共生社会に近づく一歩なのかもしれない。
 本書は、アパルトヘイト(人種隔離政策)体制下から脱却した南アフリカ共和国が、民主化のために講じた学校教育改革の意味や影響を考察したものだ。
 アパルトヘイトの歴史やその後の変遷、アパルトヘイト後の教育改革などを概説し、高校教育のカリキュラムに四つの基礎教科の一つとして位置付けた「Life Orientation」に焦点を当てた。個人のウェルビーイング、シティズンシップ教育、レクリエーションと身体的ウェルビーイング、キャリアとキャリア選択を学習成果として求める教科である。西ケープ州の公立高校での指導者へのインタビューや生徒調査などのフィールドワークの成果を軸に本書は展開した。
 語られる「共生」は私たちが抱くものと異なることに気付くだろう。人種差別の厳しい現実は時に暴力的な衝突も生む。「社会において自他の『ライフ(Life)』にしがみつき、他者と『共に生き延びる』ことを最優先すること」が求められる「共生」の側面がある。
 「多文化主義・多文化教育」の限界を乗り越えた「共生社会」や「共生教育」を取り上げた第1章に立ち返ると、腑に落ちる部分も多いのではないか。
(5940円 春風社)
(矢)

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