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卒業記念品は学校の個性をアピールするアイテム

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企画特集

卒業記念品はタイムカプセルのようなもの
 学校が卒業生に記念品を贈る目的には、母校やふるさとに愛情を持ち続けてほしいという願いがある。確かに卒業記念品の重みは、もらったときよりも年を経てから感じるものである。ふだんは押入れの奥深くに眠っていたり、存在さえも忘れてしまったりしているが、片付けや引っ越しなどのとき、ふとした拍子に顔を出し、学生時代の思い出がよみがえるのが卒業記念品のよいところだ。
 それが今ではどんなに陳腐で他愛無い品であったとしても、胸によぎる思いに変わりはない。さわがしい教室、砂埃の舞う校庭、下級生を連れ添った通学路、部活動での活躍、真夏のプール、理科室での実験、ビリッケツだった徒競走、静まり返った図書館、先生に叱られた放課後、友達と一緒に駆け抜けた日々が年を重ねるごとに貴重で濃密な時間だったように思えてくるものである。ましてや、ふるさとを遠く離れてしまっていれば、なおのこと響いてくるものであり、いわば卒業記念品はタイムカプセルのようなものなのかもしれない。

存在意義や費用の捻出方法への疑問も
 一方で、価値観の多様化や少子化が進む時代に伴い、学校としての捉え方や保護者の意識も変化しているのも事実だ。その中では、予算も限られる中で当たり障りのない記念品を贈るよりも、卒業アルバムに一本化した方がいいといった声も聞かれている。モノがあふれる時代に、はたして記念品を贈ることにどれだけ価値があるのかなど、考えようはいくらでもある。
 また、卒業記念品の費用を「卒対費」だけでなく「PTA予算」から捻出している学校が大半なため、PTAに加入していない保護者には記念品の一部が贈られないことで訴訟に発展したケースもあり、それが記念品選びをより難しくする要因になっている。

 こうした背景にはPTAの加入はあくまでも任意であり、非加入を選択する保護者が増えていることが挙げられる。そのため、学校が徴収する「教材費」から捻出するなどの代案も検討されるようになっている。
 同様に、PTAが学校に感謝の思いを込めて贈る記念品も、本当に必要なのか、年々高額化しているのはふさわしいことなのか。あるいは、保護者が均一に負担することに対する疑問はないのかなど、学校・保護者双方にとっても見解の分かれることである。

コロナ禍に巣立つ子どもたち 
 学校にとって卒業記念品の選定は、1年を通した学校活動の中ではほんの小さな決まり事の一つに過ぎない。それでも、卒業記念品は保護者の意向を反映しやすいアイテムであり、子どもへのかかわり方や学校評価に直結しやすいこともあって慎重に進める必要がある。
 また、一人一人の個性を尊重し、主体的に考えて行動する力を育む教育が求められる中で、学校にもそれぞれの教育方針や地域の特性に沿った画一化しない「個別」の取り組みへの改革が期待されている。
 だからこそ、独自の見解や実行方法があっていいし、既成概念にとらわれない記念品の選定があっても構わない。学校やPTAが選ぶのでなく、生徒会や子どもたちが選んだって構わない。できるなら、これからの卒業記念品選びは、大胆に、自由な発想で、それぞれの学校の中できたんのない意見を交換し合い、コロナ禍の中で巣立っていく子どもたちに向けて、メッセージとなるような記念品を選定してほしい。

少子化時代に対応したデジタル卒業アルバム

一人一人の個性が見える卒業アルバムに
 誰もが手にする卒業記念品という意味では、卒業アルバムそのものの存続も危ぶまられている。最も大きな問題は、少子化に伴う制作コストの増大だ。従来の紙の卒業アルバムでは、ロット数が少なくなれば印刷・製本コストが上がってしまう。加えて、プロのカメラマンによる個人写真の撮影などの費用もかかる。したがって、卒業生の人数が百名に満たない学校では1人当たりの単価が2~3万円に膨らんでしまい、制作自体ができないところも現れている。
 こうした中、近年になって増えているのが、学校がインターネットサイトで編集・発注し、手作りによって制作できるデジタル卒業アルバムだ。今やデジタルカメラやスマホの進化によって誰でも簡単に写真が撮影できるようになり、学校行事や児童生徒の活動の様子も気軽に保存できるようになった。また、ネット上のフォーマットを使えば、専門知識がなくてもレイアウトの編集も容易にできるようになっている。
 デジタル卒業アルバムは、このような制作にかかる業者への外注コストを削減できることに加え、小ロットの印刷でも安価で対応できることがある。しかも、クラスごとに掲載する内容を変えたり、一人一人の個性が見えるデザインを加えたりと自由自在に編集が可能。製本する場合も高級感のあるハードタイプから簡易印刷までと多様であり、仕様も正方形や縦長タイプなど好みや値段によって選択できるのが魅力となっている。

いつでもデジタルアーカイブできる魅力
 さらに、コロナ禍によって学校行事が少なくなったり、集合写真が撮れなくなったりする中では、普段の学校生活を記録した写真がより貴重になっており、集団写真も編集加工によって対応できるといった、デジタルならではの卒業アルバム制作のメリットが大きくなっている。
 もう1つの長所は、紙の卒業アルバムと違って、いつでもデジタルアーカイブが可能なことだ。過去に起きた大震災では、避難する際に「卒業アルバム」を持ち出した家が数多くあり、記憶媒体としての「写真」の価値が再認識されている。
 こうした災害などでアルバム自体を紛失してしまった場合も、データを保存またはDVD化しておけば、大切な思い出をいつでもよみがえらせることができる。気軽に写真が撮れる時代だからこそ、一冊にまとまった卒業アルバムの付加価値が高まっているともいえる。
 一方、生徒たちから担任やクラブの顧問に贈る色紙の寄せ書きもデジタルに移り変わっており、一人一人の写真やメッセージを集めて1枚にデザインしてプリントができるサービスが人気になっている。そうした点では、学校のデジタル資産を有効に活用する手段として、あるいは1人1台端末が導入されたことを契機に、児童生徒の学習活動の一環として、デジタル卒業アルバム制作を取り入れる方法も考えられる。

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