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国語教育は文学をどう扱ってきたのか

12面記事

書評

幸田 国広 著
「定番教材」がはらむ課題を指摘

 本書のねらいは、「戦後国語教育の展開過程を構造的に捉え直し、文学の扱われ方について解釈し直してみたい」という著者の問題意識を解明することにある。第一章で取り上げられている戦後初期の「言語教育・文学教育論争」は、その後、さまざまに形を変えながら、現代に至るまで国語教育の変遷の通奏低音となっている。その過程で、高度経済成長期に登場し、現在は「定番教材」として君臨する多数の文学教材が生まれた。小学校の「ごんぎつね」、中学校の「走れメロス」、高校の「羅生門」等がそれである。著者は、これらの作品が教材として取り上げられ、定番教材となる過程を、多くの資料と、国語科教員の生の声を基に、丁寧に解き明かしていく。
 著者は、定番教材そのものに問題があるわけではないが、その存在が国語教育の重大な課題となっていることを鋭く指摘する。ある高校教師は「『羅生門』というのは、一番旧来型の授業をしやすい教材」であるとし、やり終えた後の充実感を語っているが、まさにそこに現代の国語教育の課題が明確に示されていることを著者は憂える。定番教材は読み方の定型化を生み、学習者の個性的、主体的な学びを阻害するのである。令和の日本型学校教育では、指導の個別化と学びの個性化が強く求められている。本書の指摘を警鐘として深く受け止め、日々の実践を見つめ直したい。
(2420円 大修館書店)
(新藤 久典・文部科学省学校業務改善アドバイザー)

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