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GIGAスクール1年目終え、成果と課題は

13面記事

ICT教育特集

1人1台端末を活用して授業に取り組む児童の様子

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けてGIGAスクール構想が前倒しされたことにより、昨年中には全国のほとんどの小・中学校で整備されたICT環境を活用した取り組みが始まっている。しかし、手応えを感じている学校がある一方で、効果的な活用方法が分からない、一部の教員に負担が集中、専門人材によるサポートが不十分といった声も聞かれるようになっている。ここでは、上越教育大学教職大学院の清水雅之教授(上越教育大学附属小学校校長)に、新潟県上越市の学校における活用状況を振り返りつつ、2年目に向けて取り組むべきことを聞いた。

オンライン浸透、平時でも継続を

新しい環境の中で戸惑いがあった
 上越市の小・中学校では昨年4月から1人1台端末を使った授業がスタート。端末には学習での利用しやすさや操作性などの観点からiPadを選定し、クラウド活用にはグーグルの「G Suite for Education」を使用している。その上で、授業を進める上では教員がICT機器の操作に慣れる必要があることから、教育委員会では有志教員による推進チーム「Gpro」を発足。整備に先駆けて研修会を行ってきた経緯がある。
 「私もそのサポートに携わってきたが、多くの教員が少なくとも触ったことがある状態で新年度を迎えられたのは良かった」と清水教授。
 ただし、意欲はあっても4月から使いだした教員には戸惑いがあったとする。それは、これまで活用してきた教育専用とは異なる汎用性の高いソフトウエアを使うことになるからで、「例えば、ドキュメントやスプレッドシートを使えば共同作業が便利になると分かってはいるが、どうやって授業の中に組み込ませるかに苦労しているところがあった」と話す。
 つまり、新しい環境の中で活用するイメージが追い付くまでには時間を要したということだろう。
 ネットワーク環境も同様だ。自身がICTアドバイザーとして関わる弥彦村の小学校で親子iPad学習会を開いた際、体育館での講演の様子をZoomで各教室に配信したが、うまくつながらない教室があった。「でも、全校で一斉に使用するようになれば、当然そうした問題も生じてくるわけで、どこまで使えてどこまでが使えないのかを知っておく必要がある」と指摘する。

教員研修通じ情報交換
 一方、コロナ禍では学びを保障するため、端末の持ち帰りによるオンライン活用が進んだ。登校できなくなった子どものためにハイブリッド授業を実施した学校もあった他、附属小では教員が濃厚接触者になったとき、授業を自宅から配信したケースもあった。今後の課題は、「その便利さや効果を教員が知った上で、平時に戻っても継続していくこと」と強調する。
 そのためには保護者の理解も欠かせない。附属小では保護者向けのZoom講習会などを通じて、PTAの打ち合わせなどもオンライン化するようになったという。
 利活用に向けては、各自治体で教員研修会が実施されている。「講師を務めた富山県の研修会でも100人以上が集まり関心の高さがうかがえたが、低学年を担当する教員ほど、どう使ったらいいか思案しているようだった。教員同士での情報交換の時間をつくったことで、他校の様子を知る場としても役立ったのでは」と振り返る。
 文科省もICT支援員の加配や、民間事業者を活用した学校へのICT支援を打ち出している。上越市では教職大学院の授業の一環として、学生を派遣するプロジェクトを実施。学校の要望に応じて、ちょっとしたトラブル対処からプログラミング教育まで、教員のICT活用をサポートした。それでも、今後は年次更新時の作業や異動によるICT環境の変化などで教員の負担が増すことが予想されるため、こうした支援を拡充していく必要があると付け加えた。

教員のスキル向上 子どもの力借り一緒に

2年目の意図的な活用に期待
 授業としては、この1年で大きく変わったわけではないという。附属小でいえば、1人1台端末を活用して子どもたちの意見を集められるようになったので、どう話し合わせるかに意識が向いているとのこと。一方で問題意識としては、どうすれば「主体的・対話的で深い学び」につながるのかといった悩みが見受けられるが、これは良い兆候だと語る。
「これまでのICT活用でも、1年目は試行錯誤、2年目は意図的な活用をするようになり、3年目には学年・学校全体の計画的な取り組みに発展していった経緯がある。だからこそ、この1年でどういう活用が良かったかを振り返ったり、教員同士で話し合ったりして、今から新年度での活用のために準備しておくことが重要になる」とアドバイスを送った。
 もう一つ利活用を進めるヒントとしては、新しい技術の吸収が速い子どもの力を借りながら一緒にスキルアップしていくことを挙げる。例えば、本当にこの場面で使うと効果的なのかを確かめていく側になって、子どもを成長へと導いていく方法もあると指摘する。
 むしろ、これから利活用が進むことによって問題になってくるのは情報モラルだという。「教員にとっては扱いにくい課題ということは承知している。しかし、情報活用能力がこれからの社会では必須の資質と考えると、トラブルそのものを学習の機会と捉えて対応していくことが大事になる。情報モラルを培うには、体験させない限り身に付かない」と話す。
 同時に、今後は端末の持ち帰りによって起こるリスクを想定し、学校が関与できない家庭における情報モラルへの理解を深めていくことが大切になるという。

共通プラットフォームを情報伝達手段に
 校長やICTアドバイザーの立場としては、次年度はこうした家庭における理解の浸透に力を入れるとともに、計画的な利活用を進めるようにしていきたいとする。
 また、本当は本年度中に実現したかったと前置きした上で、自分が関わった多くの学校において、新型コロナの感染拡大など不測の事態に備えて、教員、子ども全てが「Google Classroom」などを使った共通プラットフォームへのアクセスを確実にできるようにしておきたいという。それを保護者が見られるようにすれば、いざというときの情報伝達がスムーズになるからだ。
 さらに、長期の休校になった場合は児童の心のケアも必要になってくることから、「全教員が画面越しでコミュニケーションできるようスキルも上げていきたい」と抱負を語った。

清水 雅之(しみず・まさゆき)
 上越教育大学教職大学院教授、上越教育大学附属小学校校長、文科省ICT活用アドバイザー、パナソニック教育財団専門委員。専門は情報教育、ICT活用、総合的な学習の時間。自身が小学校で取り組んできた実践などを基に、教員研修、若手教員のサポートや実践の協力、情報モラル教育についての講演などを行っている。

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