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身近な生活の中から「生きる力」を育むエネルギー学習

7面記事

企画特集

輸送手段を予想する児童(足立区立西伊興小学校)

パッケージ教材を活用した授業を東京ガスがサポート

 脱炭素やSDGsなどのエネルギーに関連した課題が社会の関心を集めている現代。電気やガスなど身近なエネルギーを通して、社会に目を向けた「見方・考え方」「生きる力」を育むことを目指した授業支援パッケージは、学習指導案、映像資料、ワークシートなど充実した学習ツールを活用することで、教科書だけでは難しい、より深い学びの授業を可能にした。SDGsを題材にした英語授業サポートも加え、各校での実践内容と成果を紹介する。

取り組み開始20年
「生きる力」を育む 東京ガスの教育支援活動

 東京ガスは2002年から未来を担う子どもたちにエネルギーと環境の大切さを伝え、学校教育が目指す「生きる力」を育むための教育支援活動に取り組んできた。
 「くらしを支えるエネルギー」「燃料電池ってなんだろう?」などの出前授業プログラムを受講した児童生徒数は累計115万3216名(2021年3月末まで)にも上る。本年度は主に、日本ガス協会と日本教育新聞社が共同で開発した授業支援パッケージを活用した授業のサポート、SDGsを題材にした英語の授業支援を実施した。

学校のニーズに沿った教材提供で、将来を考える子どもを育てる

 東京ガスが行ってきた学校教育支援活動の特色は次の3つだ。
 まず、いずれの活動も教育課程の実施に即した支援だということ。こうした活動は一過性のイベントに陥りがちだが、同社の活動は授業の時系列上に位置づいたものになっている。
 次に、学校現場に専門知識や教材が提供されていること。通常ならば入手が難しいガス管の見本やガスのにおいを体験できるシートといったツールが用意されており、子どもの理解を助けるものとなっている。
 さらに、対面とリモートが組み合わされたアナログ・デジタルがミックスされたプログラムとなっており、コロナ禍に対応していることだ。本活動は、学校側が子どもに教えたい内容に沿ったものになっているのが非常に魅力的だ。
 今年度の本活動では、特に授業支援パッケージを活用した授業の普及に力が注がれた。本パッケージは現行の学習指導要領に沿っており、地域を問わず活用できる。指導案の他、掲示資料やワークシートなど教材がパッケージ化されていることも利点の1つだ。
 今まであまり意識されていなかったエネルギー・ライフラインについてガスを通して学ぶことができ、これはわが国の現状と課題を考える子どもを育てることにもつながっていく。少しでも多くの先生方に本パッケージを知ってもらい、ぜひパッケージに基づいた授業やアレンジ授業を行ってほしい。
 今後、前述のツールをパッケージ化して提供するなどの工夫や、授業支援パッケージをさらに推し進める活動がなされ、この活動がさらに広がっていくことを願う。


北 俊夫 一般財団法人総合初等教育研究所参与

実践事例レポート

事例・1 Energy×社会科
エネルギーの身近さ、その大切さに気づかせる

 4年社会の単元「住みよいくらし」の授業支援パッケージは、飲料水を中心に、電気やガスにも目を向けることで、快適な生活を送るために不可欠なライフラインという概念そのものを深く概観する内容になっている。台東区立忍岡小学校では、その内容を発展させた小単元「くらしをささえるガス」(配当10時間)を計画。東京ガスが学習指導案作りを全面サポートし、授業支援パッケージで公開されている資料以外に、実物のガス管やガスの付臭を体験できる「においシート」の提供を行った。
 指導した楠暁主幹教諭は初回のオリエンテーション授業を振り返り、飲料水、電気、ガスは快適な生活を送るためには欠かせないライフラインであることを確認させた。児童は「ライフラインはとても重要だとわかった」「エネルギーがこんなに身近にあるなんて知らなかった」といった感想を上げた。
 全体の2時間目で「ガスは家庭や学校でどのように使われているだろうか」という問いを示し、ガスがなくなったときに生活がどうなるのかを考えさせた。「カップ麺が食べられなくなる」「お風呂に入れなくなる」「暖房がないと冬は寒くて過ごせない」などと児童は身近な問題としてとらえ、活発に意見を交わした。本校では給食室のガス鍋をはじめ、教室や体育館のエアコンでもガスを使っていることを紹介。校内の色々なところで、一年中ガスが使われていることを理解させた。
 楠暁主幹教諭は「ライフラインの理解は子供たちにとって新しく、初めて知った児童も多い。水も電気もガスも住みよい暮らしにとって、とても大切なものなのだという気づきが、学びの深さにつながると思います」と話す。
 同様に10時間で本小単元を扱った草野明子教諭は、全体の3時間目で「ガスはどのようにして私たちのところへ届けられるのか」を学習問題に授業を展開。配布したイラスト資料でガスの経路をたどりながら、ガスが海外から専用タンカーでマイナス162度に冷やされて液体(液化天然ガス)として運ばれ、日本で気体に戻してから各家庭に届けられることを伝えた。
 また、もともとガスは無色無臭であるというガス自体の特徴にも言及し、なぜわざわざにおいを付けているのか、どのようににおいを付けているのかを考えさせた。ガスが通る管に、においの元になる液体をポタポタと落としてにおいをつける付臭装置があることを示し、児童はそのにおいをにおいシートで体験。ガス管についても、どこにでも届けられるように道路の下に張り巡らされており、家庭に近づくにつれて細くなっていることを説明した。
 ここで実物のガス管を披露。ガス管は鉄のように固いものではなく、柔らかくて錆びないポリエチレン管が使われていることに児童は驚きの声を上げた。住みよいくらしに不可欠なライフラインのひとつであるガスを、児童はより身近に感じることができたと同時に、さまざまな工夫の背景にあるライフラインの「安全」「安定供給」という使命を具体的に学ぶことができた。


オリエンテーションの様子

事例・2 Energy×社会科
二つの視点で自然災害への備えを考える

 杉並区立荻窪小学校の森田誠司主任教諭と宮島敬太教諭は、単元「自然災害からくらしを守る」(8時間扱い)で水害に焦点を当てた授業を展開するなか、発展的な学習として「ガスの事業」を取り上げた。
 森田主任教諭は、まず授業日前夜の地震(10月7日、東京で震度5強)に触れ、何か被害があったかを聞いた。児童からは「本が落ちてきた」「テレビが動いてずれた」などの声が上がった。もっと大きな地震が来るとどうなるか、という問いに対して児童は「街が崩壊する」「鉄道が止まる」。生活面に目を向けさせると、「水が飲めなくなる」。水以外にも家に届くものは何か、という問いには「電気」「ガス」。教諭はこの一連の児童の発言をとらえ、普段は当たり前に使っている水や電気、ガスが自分たちの毎日のくらしを支えていることを気づかせた。
 ここで本時の学習目標、大きな地震が来ても困らないように「ガス会社の人はどんな『備え』をしているのだろう」を提示。配布したイラスト資料で、ガスが家に届く経路をたどらせながら、ガス会社の「備え」を予想させた。児童からは「ガスが自動で止まるようにしている」「ガス管を丈夫にしている」「点検している」などの意見が出た。その意見を「設備」と「人」の二つの視点に分けて整理。東京ガスの協力で、地震に強いポリエチレンのガス管、地震で揺れた時にガスを自動的に止めるマイコンメーターの実物を見せ、「設備の備え」を実感させた。
 次に熊本地震の例を出し、全国のガス会社の人たちが駆けつける協力体制が整っていること、防災訓練や24時間体制の備えなど、「人の働きの備え」を説明。授業のまとめでは児童から、「ガス管やマイコンメーターなどいろんな備えがあることがわかった」「ガス会社の人はみんなのために頑張っている」などの感想が出た。
 宮島教諭は、めあて(学習目標)の『ガス会社の人はどんな「備え」をしているのだろう』について、配布したワークシートに予想とその理由を書かせた。「ガス管を強くする」といった児童の発表に、どんな工夫をすればいいのか、とさらに問いかけると、「鉄で補強する」「二重三重にする」などの意見が出た。ここで東京ガスが持参した本物のガス管を披露。ガス管の素材は鉄ではなく、ポリエチレンでできていると知らされると、児童から驚きの声が漏れた。鉄は強い力がかかるとポキンと折れやすく、また地中では錆びてしまう。ポリエチレン管はしなやかで曲がるうえ、2トンの力で伸ばしても壊れないことを、児童は新しい知識として得た。
 さらに教諭は熊本地震の復旧の映像を見せながら、何か変だと思うことがないか問いかけた。児童は「熊本の地震なのに東京ガスの人がいる」と気づき、地震の時には全国各地のガス会社から応援に駆けつける仕組みになっていることを日本地図で示し、協力体制の「備え」を説明した。本時のまとめでは、「ガス会社の人はみんなの命を守るために協力して活動していることがわかった」という感想が上がった。


ガス管を曲げて壊れにくさを実感

事例・3 Energy×社会科
ガスを安定的に輸入するための工夫に着目

 足立区立西伊興小学校の高橋宏和主幹教諭は、5年社会の単元「工業生産を支える『貿易と運輸』」で授業支援パッケージを活用した「エネルギー資源の輸入にみる工夫」の授業を展開。初めに4年生で学習した「住みよいくらし」のイラストを示し、ガスが家庭に来るまでの道筋を想起させ、ガス(天然ガス)の97・5%が外国から運ばれていることを円グラフから確認させた。
 次に天然ガスの主な輸入相手国を色分けした世界地図に着目させ、この地図を見てどんなことに気づいたか、質問を投げかけた。児童は5分間ほど話し合い、「ほとんど日本から離れた国」「赤道に近い国」「海に接している」などの点をあげた。ここで本時の課題である「天然ガスは、日本までどのように運ばれてくるのだろうか」を提示。児童らは「船」
「飛行機」「パイプ」と答えを予想。教諭は映像を見せながら、天然ガスは専用の船(LNGタンカー)で輸送されていること、天然ガスはマイナス162度に冷却され液体にすることで体積が600分の1になり、大量に輸送することが可能になるなど、輸送に関わる工夫を具体的に説明した。
 さらに物から人へと視点を変え、天然ガスを運ぶ人々の工夫について考えてみよう、と呼びかけた。LNGタンカー「エネルギーリバティ号」船長のインタビューや「ある日の日本LNGタンカーの位置」の映像から、安全に運ぶため気象情報などを収集し24時間体制で働いていること、天然ガスが日本で不足しないよう複数の船で計画的に運んでいることに言及。さらに次の疑問である「どうして複数の国、いろんな国から輸入しなければならないのか」につなげた。児童からは、「ひとつの国からだと何かあったときに困るから」「もし戦争が起きたとき、その国から輸入できなくなるから」などの意見が出た。
 まとめでは、「安定」「船」「外国」「輸入」というキーワードを示し、「天然ガスは」に始まる文の完成を求めた。児童の答えは、「天然ガスは、ほとんどを外国から船で安定的に輸入している」「天然ガスは不足しないよう、複数の外国から専用の船で輸入している」など、天然ガスの輸入という具体例を通し「貿易と運輸」の役割、エネルギー資源の安定確保の大切さの理解を深めた。

事例・4 SDGs+Energy×英語科
英語で学ぶSDGsとエネルギー問題

 世田谷区立緑丘中学校の黄俐嘉教諭は、本年度の教科書から新しく登場した「Let’s Read 2 Power Your Future」(『NEWHORIZON EnglishCourse3』東京書籍)を題材にSDGsとエネルギー問題に関する単元を計画。単元の目標を「エネルギー問題に関する文の概要を理解し、自分の考えや意見を述べることができる」に定め、授業を進めてきた。
 取材した本時(第6時)は、まとめの活動として学級での全体発表・口頭試験を実施。発表は個人の場合は30~60秒、質疑応答終了迄を90秒で行う。ペアで取り組む場合は発表60~90秒、質疑応答終了迄を120秒で行う。発表の際の条件として、

 (1) 消費者として、どのように日常生活で電気を節約することができるか
 (2) エネルギー問題に関する自身の考えも述べること
 (3) 配信されたスライド(東京ガス株式会社提供)を必ず1枚は用いて発表に説得力を持たせる

 ―ことが事前に提示された。

 授業は教諭との英語の挨拶で始まり、続いて生徒たち18名の発表が始まった。前に出て発表する生徒は自作のスライドを示しながら、原稿も見ずに“renewable energy”“sustainable energy”といった語句を用い、SDGsやエネルギー問題に関する自分の考えを発表していく。聞き手の生徒たちは質問を投げかけ、発表者はそれに答えていった。その内容は、石油や天然ガスのエネルギー資源には限りがあること、原子力エネルギーや再生可能エネルギーのメリット・デメリット、日常生活で自身が取り組める省エネルギーの取り組みについてなど、多岐にわたった。なかでも生徒が沸いたのは、水素エネルギーを利用した自動車に関する発表。発表した生徒は車が好きで、将来は自動車関係の仕事に就くことを志望しており、そのことを知っていたほかの生徒は大きな拍手を送った。
 この口頭試験を振り返って黄俐嘉教諭はこう話す。「このPower Your Futureのテキストは、専門的な語彙も多いし、読んでいて難しい。まず教科書で進めておいて、生徒たちの間に事前知識に対する必要感をつくってから、スライドや動画の資料を各生徒のタブレットに配信しました。そういった意味でも東京ガスさんからいただいた資料がとても役立ちました。教科書に合致していて、わかりやすい内容なので、英文の読解、内容の理解のハードルも下がったんじゃないでしょうか」
 同中学校は、中学生にできる社会貢献活動として「コンタクトレンズ空ケース回収」に取り組むなど、SDGsについての生徒の興味・関心も強い。その他、校名の緑丘にちなんで、もっと校内にも緑を、というテーマで階段アートに取り組み、昨年12月に完成したという。


自作スライドによる口頭試験

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