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学校施設全体を学びの場に

13面記事

施設特集

 これからの学校施設は、新しい時代の学びに対応するため、施設全体を学びの場として捉え直し、柔軟で創造的な学習空間を実現していくことが求められている。ここでは、その概要とともに、脱炭素化に貢献する施設への転換や防災機能の強化といった学校施設を取り巻く課題について紹介する。

~Schools for the Future~
多様な学習活動を展開できる空間づくりを

長寿命化改修のポイントと複合化が進む理由
 現在、学校施設は子どもたちの多様なニーズに応じた教育環境の向上と、老朽化対策の一体的整備が進められている。特に老朽化は深刻で、全国の公立小中学校で建物の老朽化が主因の安全面における不具合は17年度調査で3万件以上発生しており、12年度調査に比べて2倍以上に増加している。
 だが、機械的に試算した市区町村あたりの地方財政措置額と市区町村における維持修繕費の実績平均額との間には大きな乖離があり、地方公共団体が維持管理費を適切に措置してきたとは必ずしもいえない状況にあることも、今後の課題だ。
 そこで重要視されているのが、中長期的な将来推計を踏まえ、首長部局との横断的な協働を図りながら、トータルコストの縮減に向けて計画的・効率的な施設整備を推進していくことにある。具体的な学校施設の改善としては、100年もつような長寿命化改修を図りつつ、バリアフリー化、特別支援学校の整備、他施設との複合化・共用化・集約化などを進めていくことが挙げられる。同時に、激甚化する災害に備える国土強靭化の一環として、地域の避難所となる屋内運動場を含めた非構造部材の耐震化、トイレ改修など防災機能の強化を進めていく必要がある。
 そうした中で他公共施設との複合化・共用化が推進される理由には、少子化が大きく影響している。何しろ近10年間で公立小中学校数が1割(3187校)減少しており、市町村で1つの小中学校しかない自治体は13・3%に達しているのだ。
 しかも、今後も少子化は地方を中心に加速化していくことが予想されているため、地域コミュニティーの核となる学校の役割を失わぬよう、小規模校でも活力ある学校づくりや、保護者、地域、学校が一体となって子どもの成長を支える「コミュニティ・スクール」へと転換を図ることが志向されている。

学習・生活に快適な環境に生まれ変わらせる
 学校施設の改善としては、子どもたちが生活・学習するための快適な環境に生まれ変わらせる必要もある。今も残る高度成長期に急ピッチで建てられた校舎の大半は、壁、窓等の断熱化や照明の省エネルギー化など質的な整備が図られていないものが多く、良好な温熱環境を確保することが困難となっているからだ。
 近年、熱中症対策への緊急的な措置として国の補正予算が投入され、公立小中学校の普通教室における空調設置率は9割を超えたが、特別教室は5割程度、体育館にいたっては5%ほどにとどまっており、近年の厳しい気象条件に対応した教育環境の確保の観点から課題がある。また、既存体育館の多くは断熱性能が確保されておらず、冷暖房効率が悪いといった課題もあることから、空調設備を設置する際には、校舎や体育館の断熱化や換気設備の検討も併せて行うことが必要になっている。
 加えて、公立小中学校のトイレの洋便器率も、現状では6割弱にとどまっており、住宅における洋便器の普及率を大きく下回っている。校舎の耐震対策後に多くの自治体が急ピッチで整備を進めているが、生活文化からの乖離やコロナ禍における衛生環境の観点から、トイレの洋式化をより早期に実現することが求められている。

脱炭素化の推進に向けて建築単価をアップ
 さらに、公共施設としては50年のカーボンニュートラル達成に向けて、脱炭素社会の実現に貢献する持続可能な教育環境を整備していく責務も担っている。そこで、消費電力を抑える高効率空調・LED照明機器、エネルギー負荷を低減する建材や断熱材、自然光や通風を利用した換気システム、屋上緑化や雨水利用、地域木材を活用した建物・内装における木質化の推進などによって、年間で消費する建築物のエネルギー量を大幅に削減すること。併せて太陽光発電など自然の力でエネルギーを創り出すことで、エネルギー収支「ゼロ」を目指した学校施設のZEB化(ゼロ・エネルギー・ビル)を実現することが目標となっている。
 現在、学校施設の省エネ化を進めるエコスクール・プラスの認定校は17~21年度で計273校。エコスクールパイロット・モデル事業の認定校と合わせると計1900校となり、公立小中学校の太陽光発電設備の設置率は3割を超えている。また、木材活用については、19年度に建築された公立学校施設823棟のうち、508棟が木材を使用(うち 186棟が木造、322棟が内装木質化)している状況だ。
 文科省ではこのような学校施設の長寿命化や脱炭素化を推進する支援策として、今年度から大規模改修事業の上限額見直しを図るとともに、長寿命化改造の補助率を3分の1から2分の1に引き上げている。また、LED照明、木材利用など標準仕様の見直し等に伴う建築単価を対前年度比で10・2%加算。たとえば小中学校校舎(鉄筋コンクリート造)の場合、昨年度よりは平米あたり2万2千円ほど単価アップする計算になる。加えて、脱炭素化先行地域などの学校施設ZEB化に向けた新たな単価加算として、これに8%を上乗せすることを打ち出している。

廊下や階段を含めてあらゆる空間を学びの場に
 こうした中、今後の学校施設づくりでもう一つのポイントになるのが、すべての子どもたちの可能性を引き出す、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向け、柔軟で創造的な学習空間を実現することだ。
 そこではSociety5・0時代やポストコロナ社会を見据える中で、学校施設という実空間の価値をとらえ直すことが重視されており、教室だけでなく、廊下や階段、体育館、校庭などあらゆる空間を学びの場として活用することがテーマになっている。
 これは、昨年8月に発出した文科省「学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議」の中間報告でも、「令和の日本型学校教育」の構築に向けた改革の方向性として「ICTの活用などにより、学びのスタイルが多様に変容していることから、学校施設全体を学習に利用するという発想に立ち、児童生徒の主体的な活動を喚起し、求められる学び・活動の変化に柔軟に対応できる空間にするための創意工夫ある整備を推進する」と示している。
 したがって、今後、学校施設を改修する場合には子どもが自主的・協働的に学べる場を想定し、画一的・固定的な姿から脱した学習空間を創造していくことが必要になる。

新しい学びに対応する創造的空間づくりを
 さらに、主体的に学習に取り組む姿勢を育む上では、教科等に対応した特別教室ゾーンをつくり、専門的で高度な学びを誘発するような空間に改善する方法もある。すでに教科教室型の運営方式として新設された学校では、教科教室や教科メディアスペース、小空間、教材室等からなる教科センターをつくるとともに、児童生徒のコミュニティースペースを設けているところもある。
 その上で、今後は各特別教室ゾーンにとどまらず、校内・屋外のさまざまな空間や異なる教科ゾーンと有機的に連携することが重要になる。たとえば、ホールや大階段等の空間において、ステージやプロジェクター等を備えた発表・表現の場として活用することもその一つだ。
 また、コンピューター教室や視聴覚教室については、個別の端末では困難な学習活動を効果的に行うことができる空間としてとらえ直すことや、アクティブ・ラーニングスペースとしたり、発表やオンラインによる遠隔交流学習の場としたりするなど、他の学習空間との有機的な連携を図りながら自由度の高い空間とすることが考えられる。
 1人1台端末の導入など情報化が進む中では、学校における図書スペース、図書館の整備のあり方を見直すことも指摘されている。そのため、新しい学びに対応したICTを効果的・効率的に活用した学習活動ができるよう、学校図書館とコンピューター教室を組み合わせた「ラーニング・コモンズ」を整備する。どの教室からも利用しやすいように図書館を学校の中心に計画し、子どもたちの自主的な学習、協働的な学習に活用するなど、魅力的な空間につくり替えていくことが期待されている。

教員の執務空間の改善も重要なテーマ
 もう一つ、今後は教員における働き方改革を推進し、パフォーマンスを最大化するために執務空間を改善することも重要なテーマだ。したがって職員室や準備室等においても、教職員がより効果的・効率的に授業の準備や研修等を行うことができるよう、執務環境としてふさわしい基本的な機能を確保する必要がある。
 また、学年や教科等を超えた横断的な観点で学校全体を運営していくことや支援スタッフの参画など、多様な人材による「チーム学校」として学校運営を進めていくことが求められていることから、多くの関係者と連携・交流ができる環境にしていくことが求められている。
 そのため、リフレッシュや休憩、教員同士の情報交換等ができるゆとりのあるラウンジ、映像コンテンツ製作・編集やオンライン会議のためのスタジオ、印刷室を教材の製作や打ち合わせ等のための作業空間として拡充することなどの創意工夫の例が挙げられている。

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