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いつもの言葉を哲学する

14面記事

書評

古田 徹也 著
常套句や新語の安易な使用に警鐘

 私たちの生活は言葉と共にある。著者は哲学・倫理学の研究者。私たちが生活の中で用いる「生きた言葉」を取り上げて、言葉の奥行きと重要性を吟味し、「言葉を大切にするとは何をすることなのか」を探究していく。興味深い内容である。
 著者によれば、哲学とは「批判」の営みのことであり、「批判」とは、本来、「非難」や「攻撃」のことではなく、対象をよく吟味し、その問題や可能性を明確にする営みのことを指すという。
 初めに、幼児が発する素朴な言葉や学生たちの表現などから立ち上がった問いや「まん延」という表記、「○○感」という言葉の氾濫、「母、女」など性認識に関わる言葉の問題を考える。さらに、「発言を撤回する」などの常套句や新型コロナ禍に登場してきたカタカナ語や新語を取り上げ、多くの言葉には物事に対する特定の見方、世界観、価値観といったものが含まれていると警鐘を鳴らす。
 SNSや電子メールでのコミュニケーションが多い現在、短くとも誤解や混乱を招きにくい文章を書く技術の重要性が増していると指摘し、言葉をより良く用いるために実践的な学習が必要と、ニュースの見出しを題材とした言葉の実習を提案している。
 対話も思考も言葉で成り立つ。世間にあふれる言葉に流されず、慎重に、しっくりくる言葉を選び取るようにしたい。
(935円 朝日新聞出版(朝日新書))
(大澤 正子・元公立小学校校長)

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