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ノートと情報端末の使い分けを

10面記事

ICT教育特集

古文の文法解説を生徒がまとめたカード

東京都立西高等学校

 すでに1人1台端末が整備された高等学校はどのようにICTを活用しているのか。平成30年度からBYOD(Bring Your Own Device)の研究指定校に、令和2~4年度はSociety5・0に向けた学習方法研究校に指定され、実践を積んできた東京都立西高等学校の森本貴彦・岩田真志両教諭に、授業や授業外でのICT活用法、実践例や成果などについて話を聞いた。

森本貴彦教諭(数学科)と岩田真志教諭(国語科)

回答を共有し学びを深める

 森本貴彦教諭(以下、敬称略) 本校では、全学年がiPadを所有し、アプリは主にロイロノート・スクール(以下、ロイロ)とMicrosoft Teams(以下、チームズ)を使用しています。
 数学の授業では、ロイロの「カード」(以下、カード)という機能を使用しています。これは、テキストや動画、音声などを挿入でき、すぐにだれかに送ったり、共有したりできる機能です。
 例えば、1年生の「データの活用」の授業の際、基本的には平均値や分散を求めることが大事ですが、本来の意味から言うとデータをどのように分析するかという点が主眼になると思います。そこで私が、分散が異なり、平均値や中央値が同じになるデータを複数用意し、子どもたちに分析させるという授業をしました。
 はじめに、個人でデータを分析させます。そうすると、平均値、中央値を求めても同じ値なので、他の比較方法が必要だというところに着眼させ、そこから分散の計算をしてみようなどと考えさせながら、答えを出させます。その後、答えをロイロの機能を使用して私に送らせ、その答えを私がクラス全体に共有します。共有したものは個々のタブレットで瞬時に見ることができます。そこで、自分とは違う考え方をしている生徒同士で話し合いをさせます。
 話し合い後、別の分析の答えが出てくるので、それをもう一度私に送り直させ、そこから私が解説するという授業を行っています。瞬時にクラスで答案を共有できることは、時間の短縮にもなります。

 岩田真志教諭(以下、敬称略) 私もカードを使用しています。
 例えば、古文のまとめの授業では、いくつかのグループに分かれて、万葉集や古今和歌集などで、好きな歌を選び、作者、和歌の品詞分解などを文法解説し、まとめたものをカードに作成し、発表させました。最初は面倒くさがる生徒もいますが、前年の先輩たちが作成したものを見せると、いいものを作ろうとカードに音声を吹き込んだりなど工夫して取り組んでいました。
 最終的には、すべてのグループのカードを共有。どのグループのカードが一番よかったかロイロのアンケート機能を使用し、投票させ、リアルタイムで結果を表示しています。さまざまな機能を使用することで、生徒のモチベーションアップにもつながります。

書く力を落とさないために
 森本 実は最初、タブレットに慣れさせるために1年生は板書もノートもなしで、すべてカードで授業をしました。4年経ってみて、ノートに書いて考えてこそ育つ力があり、カードとノートをうまく使い分けるべきだという考えに行きつきました。

 岩田 私の授業は原則としてスマホで撮影した画像の使用を禁止していませんが、「写真を撮ってタブレットに入れても頭には何も入っていないよ。必ず家でゆっくり落ち着いてノートに転記し、復習すること」を強調しています。
 また、ノートに転記させるだけではなく、課題をロイロで提出することを求めるようになってから、共有しクラス全体で見ることができるため、生徒自身、文章が論理的か、言葉選びが正確かなど文章を推敲するようになりました。提出された文章から生徒たちの傾向が見えるので、具体性を持っていない、説明になっていないなどと個別にアドバイスもできます。

授業外の活用法
 森本 学級日誌はロイロを利用しています。紙の日誌は生徒・担任間のやりとりでしたが、ロイロなら一日の思いをクラス全員で共有でき、コミュニケーションが活性化します。逆に個別のやりとりに関しては、1人に1つフォルダを作り、対応を行っています。

 岩田 ロイロは出席連絡、自己紹介、アンケート取り、席替え、時間割、ホームルームで大活躍です。生徒間通信も許可しており、生徒同士で教え合う様子も散見されます。私からも話題性のある話や読ませたい小説や文章の書影、受験情報などをPDFや画像にして送信しています。カードは、コミュニケーションツールとして今後も展開できそうです。

試行錯誤の先に
 森本 ここまで述べてきたいずれも、試行錯誤し、ようやくたどりついたことがほとんどです。まずは授業時間外に送付・提出機能を試してみて、うまくいったら、授業でやりとりや意見集約に使ってみるなど、徐々に進めるのが良いと思います。

 岩田 準備もあって初動は大変ですが、始めると必ず手応えがあります。次は決まって停滞期がやってきますが、そこを乗り越えるとグンと成果が高まります。ICT利用ではトラブルが起きて当たり前。対応策を用意し、できるだけ余力を持って進めていけたらいいですね。

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