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コロナ禍で高まる熱中症リスク

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 気候変動によって気温が30度を超える日や猛暑日が増加するなど、夏季の暑熱環境は厳しくなる一方だ。しかも、引き続きマスク着用といったコロナ禍における「新しい生活様式」への対応が求められる中で、学校現場では熱中症に対する警戒がより一層必要になっている。そこで、学校管理下における「暑さ対策」のポイントや、熱中症リスクを軽減する設備機器を紹介する。

暑さを見える化し、確実に行動制限

熱中症は生命にかかわる病気
 気象庁によれば、今年の夏(6月から8月)も全国的に平年より高い気温になることが予想されている。また、近年では都市部を中心にヒートアイランド現象が起こり、深夜になっても気温が下がらない日が続くことで、体調を維持することが難しくなっている。
 その中で、学校の管理下における熱中症発生件数は、小・中・高校を合わせると毎年5千件程度発生しており、7千件を超えた年もあった。また、発生件数を学校の種類別にみると、高、中、小の順番に多くなっているが、部活動が始まる中学生になると急に増え、特に高校1年生時に最も多くの生徒が熱中症を発症している。
 熱中症は予防法を知っていれば、発生そのものや悪化を防ぐことができる。日常生活における予防は体温の上昇と脱水を抑えることが基本であり、まずは暑い環境下に長時間いることを避けることが大切になる。
 また、熱中症は対処の仕方によっては生命にかかわる病気なため、学校でも死亡事故に至るケースがあるが、そのほとんどが体育・スポーツ活動によるものだ。部活動の場合でいえば、屋外では野球やラグビー、屋内では剣道といった厚手の衣類や防具を着用するスポーツで多く発生する傾向があるほか、学校行事など部活動以外のスポーツでは、登山、マラソンなど長時間にわたって行うスポーツで多く発生している。

それほど高くない気温でも熱中症は発生する
 特に気をつけなければならないのは、それほど高くない気温(25~30度)でも湿度が高い場合には発生していることで、それが室内での熱中症発症の要因にもなっている。
 したがって、教員は暑くないから大丈夫と思うのではなく、活動中の児童生徒の状態をよく観察して、異常がないかを確認すること。同時に、熱中症計などを使って「暑さ指数(WBGT)」を測定し、注意喚起やその日の行動の条件にするなど事前予防に努めることが大切になる。
 なお、暑さ指数とは熱中症のリスクに影響を与える要素である「湿度」「日射・輻射など周辺の熱環境」「気温」の3つの要素をもとに算出された指標で、高いほど熱中症にかかるリスクが大きくなる。
 また、気象庁では危険な暑さが予想される場合は「熱中症警戒アラート」を発表している。各都県内の翌日の日最高「暑さ指数」が33度以上と予想される場合、17時頃に「第1号」として発表されるため、学校現場でもこれを参考に翌日のスポーツ活動の制限や、行事の開催可否等の判断材料に活用できる。

スポーツ活動での熱中症予防
 その上で、体育・スポーツ活動における熱中症予防としては、以下の5つが挙げられる。

 (1)環境条件を把握し、それに応じた運動、水分補給を行う
 (2)暑さに徐々に慣らしていく
 (3)個人の条件を考慮する
 (4)服装に気をつける
 (5)具合が悪くなった場合には早めに運動を中止し、必要な処置をする

 とりわけ、運動強度が高いほど熱の産生が多くなり熱中症の危険性は高くなるため、激しい運動では休憩は30分に1回以上とること。加えて、暑い時期はこまめな水分補給が欠かせないが、汗からは水分と同時に塩分やミネラルも奪われるため、スポーツドリンクなど塩分も同時に摂れる飲料を利用することが望ましい。
 また、運動前(ウォーミングアップ時)の水分補給(特に冷たい飲料)は、運動中の深部体温の上昇を抑え、発汗を防ぐことができること。軽い脱水状態のときには喉の渇きを感じないため、暑いところに出る前から水分を補給しておくことを覚えておきたい。
 成長期にある子どもは、体重あたりの皮膚や呼吸から失われる水分が大人と比べて多く、汗をかく機能や腎臓の機能が未熟で脱水症になりやすいからだ。
 さらに熱中症事故は、梅雨明け直後など急に暑くなったとき、暑さ指数が31以上になったとき、合宿の初日などに多く発生する傾向がある。これは体が暑さに慣れていないためで、暑熱順化が足りていないことを意味する。暑熱順化は「やや暑い環境」で「ややきつい」と感じる強度で毎日30分程度の運動を継続することで獲得できるため、日頃からウォーキングなどで汗をかいておくと夏の暑さにも対抗しやすくなり、熱中症にもかかりにくくなる。
 学校管理下の熱中症事故では、教員が過度な運動を強いた、運動中の水分補給や健康観察が不十分だった、熱中症リスクを測定する機器がなかった、発生後の対応が遅れたことなどが指摘されている。逆にいえば、これらを回避することができれば大半の熱中症事故は防げることになるため、こうした事故を教訓に学校で講習会を開くなど全教員での共通理解を進めてほしい。

暑熱環境を改善する機器の整備を
 一方、集団生活の場となる学校現場では、今年も新型コロナウイルス感染症への予防対策として、手洗いの徹底や3密回避など「新しい生活様式」を導入しつつ授業や部活動を継続し、学びを保障していくことが求められている。
 こうした中、気温・湿度が上昇するこれからの季節で注意したいのが、マスクの着用といえる。長時間着用すれば体に熱がこもりやすくなったり、息苦しくなったりして熱中症のリスクがより一層高まるからだ。
 したがって、教員には児童生徒が自身の判断でマスクを外して休息するなど、適切に対応できるように指導しておくこと。体育の授業や部活時はマスクをしないように指導すること。登下校中もマスクの着用を徹底するのではなく、身体的距離をとり、しゃべらないことに重点を置くとともに、日傘や帽子によって直射日光を避ける取り組みを進めてほしい。
 また、教室ではエアコン運転時にも換気は必要だが、室内温度や湿度が上昇してしまうため、教員には臨機応変に設定温度を変える配慮が必要とされる。加えて、近年では教室での風通しをよくするためにサーキュレーターを配備する、エアコンが整備されていない体育館に大型扇風機や気化熱式冷風機、スポットクーラーを導入する、夏場でも冷たい水を多人数に供給できる冷水機を設置する学校も多くなってきたが、まだまだ十分とはいえない。
 そもそも昔と今では暑熱環境が大きく変化していることを踏まえると、人的な注意喚起や予防では限界が来ているのも事実で、現実的な暑さ対策となる設備や機器の整備を急がねばならない。
 ほかにも学校の暑さ対策としては、日よけとなる仮設テントやスタイルシェード、緑のカーテンの設置、スプリンクラーや手製のミストシャワーによる打ち水が効果的だ。また、校舎の改修時に廊下や通路に遮熱塗料を塗装して表面温度を下げる対策もある。このような⽇よけと路⾯の保⽔化等をプラスすることで、40度あった体感温度を30度まで下げることが可能になるという。
 さらに、建物の「熱をためない」ための改修としては、省エネルギー化(高効率機器の導入、再生可能エネルギーの利用)、断熱化(屋根面、壁面、窓面)、緑化(屋上緑化、壁面緑化)排熱位置の工夫などの方法がある。

IoT技術を活用した暑熱対策
 暑熱対策では、目視での察知が難しい危険度の判断をIoTが支援する実証も始まっている。たとえば、校内数箇所に計測センサーを設置し、温度・湿度・輻射熱などを計測。計測したデータは職員室内のPCで確認できるとともに、運動場・体育館に設置したパトランプ、メールにより見える化することで教職員や生徒に対してタイムリーに注意喚起し、暑さ指数に応じた速やかな対処を促すことができる。
 また、炎天下や湿度の高い体育館での運動が行われる部活動における健康状態の悪化や体調不良を事前に察知するため、ウェアラブル端末を着用した生徒の生体情報(心拍数・呼吸数など)をスマートフォン等により、データ化・見える化してモニタリング解析。当該地点のピンポイントの温度や湿度の気象データを提供し、活動中における生徒の暑熱対策を効果的に行う実証も進められている。
 暑熱環境では、判断力が低下してヒューマンエラーが発生しやすい状況となる。特に学校の部活動では大勢の児童生徒に対して一人の顧問が体調を見守ることになるため、一人ひとりの状況を適宜判断するのは困難だ。ウェアラブル端末で同じ個人のデータを毎日連続でモニタリングすることによって、個人の体調不良をいち早く検知し、熱中症予防につなげることができると期待されている。

酷暑を前提に取り組み方を変える
 地球温暖化によって世界の気温が年々上昇している。日本でも各地域で猛暑日・熱帯夜はさらに増加し、21世紀末には東日本以南で猛暑日が21~54日、熱帯夜が45~91日、それぞれ増えるという、きわめて厳しい予測結果が示されている。現時点でも、ビルやアスファルトに覆いつくされた都市部の夏の期間は、クーラーなしではとても生活できないレベルに達している。図らずも東京オリンピックでは、多くの選手がクレイジーだと表現し、日本の酷暑の実態がメディアによって世界中に発信される結果になった。
 だからこそ、学校の熱中症対策も従来の常識に縛られることなく、すべての教員が正しい知識に基づいた予防と、いざというときに速やかに対処する方法を身につける必要がある。
 その上で、猛暑日の屋外活動はもはや論外であるとわきまえ、即刻中止すること、子どもたちにいつでも水分補給ができる環境を整えることだけは徹底してほしい。同時に学習空間も暑熱環境に対応した設備・機器の導入をより一層進めるべきであり、いまだに全国の公立小中学校で5%ほどにとどまる体育館のエアコン整備は、まさにその筆頭といえる。

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