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自律を目指す教育とは何か 自然主義的な教育哲学の試み

12面記事

書評

宮川 幸奈 著
他律との区別、どう身に付くのか探究

 教育とは、教師や大人の他律によって子どもの自律を図ろうとする営みであると捉えられることが多い。そう考えると、次のような疑問が生まれてくる。他者によって成し遂げられた自律は、本来の自律の姿なのか。この自律と他律のパラドックスは、カント以来、解けないまま今日に至っている。
 それに対して、教育哲学者である著者は、全く異なる角度から、次のような問いを立てるのだ。子どもは、いかにして自律と他律を区別し、その違いを身に付けていくのか。
 そして著者は、認知科学や心理学の研究知見に基づきながら、自律と他律が両義的であることを示していく。このような人間諸科学とそれを踏まえた哲学研究の参照による探究が、副題にある「自然主義的な教育哲学の試み」なのである。
 発達の初期において互いに混じり合った状態にある自律と他律は、大人とのコミュニケーションの過程で区分されていく。その様子について、子ども自らの行為に対して、大人から説明や理由を求められることや叱責されることの持つ重要な意味が解き明かされる。そうしたコミュニケーションを通じて、子どもは未分化だった自律と他律を次第に区分し、自律した自己を形作っていくのである。
 本書は、暗黙の前提を疑い、新たな視点から教育を見ることの大切さを教えてくれる。
(4400円 春風社)
(都筑 学・中央大学名誉教授)

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