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小学生『夢をかなえる』作文コンクール 第15回「学校賞」受賞校に聞く

8面記事

企画特集

キャリア教育の学級活動と関連づけて活用した(福島市立杉妻小学校6年生)

 夢の実現を「ライフプランシート」で具体的に計画し、課題図書などを参考に作文にまとめる「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」(主催=日本ファイナンシャル・プランナーズ協会(以下、日本FP協会)・日本教育新聞社)は、今年度で16回を迎える。昨年度のコンクールで学校として取り組み「学校賞」優秀学校賞を受賞した3校に、コンクール参加の意義や、取り組みの詳細を聞いた。いずれもキャリア教育や、総合的な学習の時間を活用しながら、児童が夢を描き、具体化するためのライフプランニングの重要性を伝えている。応募を通して自己肯定感や達成感も育める取り組みとして教員もその有用性を認めている。

キャリア・パスポートと関連付けた活用
福島市立杉妻小学校

右から菅野教諭、佐藤洋子教諭、佐藤悠主幹教諭

4年生以上の全学年で実施
 福島市立杉妻小学校(小松浩行校長、児童数623人)は、昨年度からキャリア教育を中核に「なりたい自分になるために」折れない心と、折り合う心を持った児童の育成をテーマに教育活動を展開している。目指す児童像は「ありのままの自分からなりたい自分へ」だ。その、なりたい自分になるためのプロセスを考え、作文に表現することは、将来の目標と、今の学びや生活を結び付ける良い機会になるとして、4・5・6年生で取り組んだ。
 3学年全員参加で応募するには、学級担任の働きかけが欠かせない。応募の担当を務めた教務主任の菅野信教諭は、コンクールの趣旨とキャリア教育との関連を説明し参加を促した。1学期の特別活動で導入し、課題図書「夢をかなえる」を読んだ後、夏休みに個人で作文を書き、9月から国語の作文指導で推敲を行った。
 特に、6年生は卒業までの1年間をどのように過ごすかを考える学級活動の延長としてコンクール応募を位置付けた。
 「普段からキャリア教育で、夢や未来に向けて学校生活を頑張っていこうと意識を高めてきたので、ライフプランシートは楽しみながら取り組めた。もともと読書好きの児童が多く、課題図書も積極的に読み進めていた」と、担任を務めた佐藤洋子教諭は振り返る。
 ライフプランシートを書く際は、児童同士、また、教員同士も相談し合う姿が見られた。
 「夢をかなえる道筋は一つではなく、いくつも考えられることに気づき、自分で調べて埋めていける点に子どもは魅力を感じていた」(佐藤悠主幹教諭)
 学校全体のチームワークの良さと、考える時間を多く確保したことで、初参加にして295点の応募に結び付き、「学校賞」優秀学校賞に輝いた

ロールモデルや家族と会話して作成
 「優秀賞」(高学年部門)を受賞した、丹治莉緒さんと中村柑那さん(共に当時5年生)は、「他の人から評価されるのはこれまで恥ずかしかったけれど、自分の夢を表現することは間違いじゃないという自信が持てた」と、コンクール参加後、自己肯定感が高まったと感じている。
 管理栄養士になるのが夢という丹治さんは、家庭科の授業で経験した調理実習や自身の入院体験から食事の楽しみを振り返り、いろいろな人に食事を通じて元気になってほしい、と思うようになった。学校の栄養教諭に取材をして国家試験受験までの準備をライフプランシートに詳しく書きこんだ。
 中村さんの夢は、臨床検査技師だ。母親との日常会話から医師や看護師以外の医療に携わる仕事と知り、コロナ禍の医療の最前線で働く存在だと尊敬の念を抱くようになった。教科の学びだけでなく、医学部進学に必要な費用にも目を向けることができた。
 「奨励賞」(高学年部門)を受賞した栗田依織さん(当時6年生)は読書が大好き。ライフプランシートの作成を通して、医師になる夢をかなえるには、コミュニケーション力や判断力も必要だと気づいた。「自分の作文が認められたのは、自信につながった」と、応募までの努力が実ったことを喜んでいる。
 ライフプランシートや出来上がった作文を読み、教員もこれまで知らなかった児童の夢や将来の希望、現状で頑張っていることを発見でき、児童理解の一助にもなった。作文応募後も、ライフプランシートを用い、学校生活で努力したいことを考えさせるなど、年間を通して活用している。

キャリア・パスポートとの併用も
 同校ではキャリア教育の活動として、児童自身が記録する「キャリア・パスポート」の作成に取り組んでいる。同コンクールにも応募する予定で、ライフプランシートなどのツールをキャリア・パスポートと関連づけて活用したい考えだ。
 ライフプランシートを見ながらキャリア・パスポートに目標を記入する、逆に、キャリア・パスポートで日々の生活を振り返りながらライフプランシートを修正するといった相互に役立つ使い方ができそうだ。
 「さまざまな情報を得て、成長する中で、子どもたちの『夢』は変化する場合がある。自分のことを考える時間を持ち、表現のスキルも高まれば、作文内容も昨年度とは違い、より深まるはず」と、菅野教諭は話す。
 文部科学省が提唱するキャリア・パスポートは中学校、高校と学校段階を越えた活用がされるため、小学校卒業後のキャリア教育にも役立ちそうだ。
 小松浩行校長は「夢を実現するまでの過程を考えさせるコンクールは新鮮。これからもキャリア教育の研究を通して前向きな子どもを育てていきたい。そのためには他者からの承認と、自分の振り返りの力が必要。自分に自信が持てモチベーションアップにもなり、教科の学習にも積極的になれるだろう。今後も、子どもたちに前向きに努力する資質・能力を育てていきたい」と語った。

「イチロー選手の作文」につながる体験ができる
大阪教育大学附属天王寺小学校

 103点の応募で「学校賞」優秀賞を受賞した、大阪教育大学附属天王寺小学校(小崎恭弘校長、児童数628人)は、過去にも高学年で実施したことがあり、その時の手応えから昨年度も応募した。総合的な学習の時間でキャリア教育の一部に位置付け、ICTも活用しながら取り組んだという。
 ライフプランシートを用いて夢の実現を逆算し、その後、作文として表現することは、「イチローさんや本田圭佑選手が小学校時代に書いた作文、大谷翔平選手が描いたマンダラチャートにつながるものがある。自分の将来をイメージし、そのために必要な力を考えるのはとても重要」と話すのは、同校の加藤翔教諭だ。
 具体的な書き方をイメージできるよう、過去の受賞作品をプリントアウトして教室に掲示し参考にするよう促した。応募は手書きとなるので、下書きをGoogleドキュメントで行い、ネットワーク上で内容を確認しアドバイスを行ったという。
 子どもたちは全国の6年生がどのような夢やライフプランを持っているのかを見ることで、上手に書けるようになった。保護者も「夢や将来のことについて考える機会になってよかった」と好評だった。
 「夢の鍵をつかめるように」で優秀賞(高学年部門)を受賞した、6年生(当時5年生)の舟橋佳世さんは、コロナの休校中に宝塚歌劇を知り、その感動とタカラジェンヌになるために今努力していることを紹介した。ライフプランシートを書いて、舞台に立った後もお金や時間がかかることに気づいたという。文中に度々「みんなを笑顔にしたい」のキーワードが登場するように将来、自分が活躍する姿が見えているようだ。「将来の夢を考え直すことができてよかった」と話す舟橋さん。すでに「なりたいもの」がある児童にとってもコンクール応募は大きな意義がある。

Googleドキュメントで作成した舟橋さんの作文下書き

中学校での進路選択に向けた「予行演習」ができる
名古屋市立北一社小学校

 6年生の総合的な学習の時間「夢未来プロジェクト」の学習の一環として57点を応募し、「学校賞」優秀賞を受賞した名古屋市立北一社小学校(田邊康浩校長、児童数427人)。児童は1学期に図書資料やタブレットを活用して興味や関心のある仕事について調べた。2学期に具体的にその仕事に就くイメージを持つためライフプランシートを記入した後、作文を書いた。
 ライフプランシートは夢をかなえるまでに努力すること、かかりそうなお金について約15年間にわたり記入する欄がある。将来の仕事について初めて具体的に考える児童も多く、授業での働きかけだけでなく、家庭でも調べるようにして家族にも関心を持ってもらうようにした。
 奨励賞(高学年部門)を受賞した6年生(当時)の新谷桃百果さんは「海の研究をする夢」と題して、母親に勧められた海洋生物学者になるライフプランを「英語力」「大学」「お金」の三つの柱から考えた。
 研究者になるには大学の授業料や教材費だけでなく、専門書を購入する費用も必要になる。そのためには海の生き物に関連するアルバイトと学業を両立させる計画性を持ちたいと綴った。
 新谷さんは「(これまで)夢を明確に持っていなかったが、ライフプランを書いている中で形になってきた。賞をいただき自信が持て、前向きになった」と喜びを語った。
 指導にあたった同校の中島裕子教諭は、「数年後には自分の力で生活していかなくてはならず、そのためのスキルや経済力が必要だと考えさせる、よいきっかけになった」と、コンクール参加の意義を振り返る。
 小学校段階で職業やお金のこともイメージさせるのは、中学校での進路選択の準備として意義があるという。
 「コンクールのサイトには過去の受賞作が掲載されている。それらを読むだけでも児童には希望を持って将来を考える良い見本になった」と話す。

コンクールへの応募を支援中
イラスト動画を公開

 第16回「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」を主催する特定非営利活動法人(NPO法人)日本ファイナンシャル・プランナーズ協会(以下、日本FP協会)のコンクール公式サイトでは、イラスト動画「夢をかなえるライフプランニング教室」を公開している。
 「お金の大切さ」や「夢をかなえるための考え方」など約20分間の動画を視聴するだけでライフプランニングの重要性を学ぶことができる。
 授業での視聴や「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」作品応募の準備・動機付けの機会としてPC端末でも活用できる。また、動画を視聴する際の参考資料として、スライド毎のキャラクターのセリフやFPが伝える動画内での注意点やポイント等をまとめたスクリプトも用意されている。

「夢をかなえるライフプランニング教室」:https://www.jafp.or.jp/personal_finance/yume/inst_disp/movie/

ライフプランニング出張授業実施中

 日本FP協会では、「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」の一環として、ライフプランニングの大切さを知る機会の提供を目的に、ファイナンシャル・プランナー(FP)を講師として小学校に派遣する「ライフプランニング出張授業」を実施している。
 「金融経済教育」や「キャリア教育」の他「2分の1成人式」「卒業文集制作」等の学習活動の一環としても利用されている。「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」への応募と組み合わせた学習活動への導入も効果的だ。
派遣に係る費用(講師交通費等含む)は、日本FP協会が負担。対象学年は小学校4~6年生で、募集期間は4月~10月上旬まで。公式サイトから申し込み可能。

「出張授業」問い合わせ先=日本FP協会 広報部
 Tel=0120-211-748
 FAX=03-5403-9795
 受付時間 10:00~16:00(土日・祝日・年末年始を除く)

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