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巨大地震×気候変動に備える

12面記事

企画特集

 学校施設は、今後予想される大規模地震などの災害に備えるため、避難所となる体育館を含め防災機能をより一層強化することが求められている。同時に、近年では気象変動に伴って豪雨災害が頻発化しており、新たに浸水や土砂災害への対策を講じる必要も生まれている。そこで、学校施設の防災機能強化を実現する具体的な対策や最新の事例を紹介する。

学校施設の防災・減災対策を急げ

震災の記憶が風化する前に
 甚大な被害をもたらした東日本大震災から10年余りが経過し、震災の記憶が風化することによって、防災への意識の低下や必要となる対策がおろそかになってしまうことが危惧されている。地震国である日本は、このような大規模な地震が、いつ、どこで起きても不思議ではないことを肝に銘じるべきであり、これまでの災害の教訓を生かした対策を早期に実現していく必要がある。
 特に、今後30年の間に70~80%の確率で起きるとされている南海トラフ地震では、最悪の想定で死者が32万人にも上る。また、M7・3クラスの首都直下型地震が起きた場合は、全壊・焼失する家屋が最大で約61万棟、死者は約2・3万人、負傷者は10万人を超えると予想されている。
 こうした中、学校は児童生徒の安全の確保が保障されることが不可欠の前提であることから、文科省では学校施設の防災に係る取り組みとして、政府が掲げる「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策(25年度まで)」に基づき、非構造部材を含めた耐震対策、計画的・効率的な長寿命化を図る老朽化対策、高断熱化やバリアフリー化といった施設自体の改善や、空調・換気設備、自家発電設備、洋式トイレ、マンホールトイレ、公衆Wi―Fiなど必要となる設備機器の整備に着手している。
 ただし、公立小中学校施設の吊り天井の耐震化はおおむね完了しているものの、それ以外の非構造部材(内・外装材、照明器具、窓ガラス等)の耐震化率は5割程度にとどまっている。私立学校施設にいたっては構造体自体の耐震化率は92・3%というのが実態であり、いまだ耐震性がない建物が約2千棟、対策を実施していない吊り天井を有する屋内運動場も900棟近く残っている。また、その他の防災設備についても、地域による格差なども含めて十分に足りているわけではない。
 したがって、文科省では昨年度の補正予算で1300億円を学校施設の防災機能強化に追加したほか、今年度の予算で私立学校施設・設備の整備の推進に321億円を計上するなど、早期の改善が図れるよう促しているところだ。

実効性の乏しい危機管理マニュアルを見直す
 さらに、今年3月には今後5年間(22~26年度)における学校安全に係る基本的方向性と具体的な方策を示す「第3次学校安全の推進に関する計画」を策定し、各学校における安全に係る取り組みを総合的かつ効果的に推進していく意向だ。
 各教育委員会・学校においては、本計画に基づき、安全で安心な学校環境の整備や組織的な取り組みを一層充実させること。併せて、すべての児童生徒が災害時に自ら適切に判断し、主体的に行動できる力を身に付けさせることを求めている。
 そのためには、学校安全計画・危機管理マニュアルを見直すサイクルを構築し、学校安全の実効性を高める。地域の災害リスクを踏まえた実践的な防災教育・訓練を実施する。事故情報や学校の取り組み状況などデータを活用し、学校安全を「見える化」することなどが重要だとしている。なぜなら、これまでもさまざまな計画やマニュアルが整備されているにもかかわらず、必ずしも実効的な取り組みに結びついていないこと。加えて、これまでの災害におけるデータや研究成果などの情報がありながらも、学校現場で実際に活用されていないといった課題が指摘されているからだ。

浸水対策の脆弱性が明らかに
 一方、大規模な災害は地震だけではない。近年の激甚化、頻発化する豪雨等の水害によって、学校施設においても校舎や屋内運動場への浸⽔等の被害が発⽣しており、西日本を中心に記録的な大雨となった2018年7月豪雨では、実に667校が物的被害を受けている。また、昨年度の流域治水関連法の制定により、学校施設においても水害に対する被害を低減する取り組みを進めることが必要になっている。なぜなら、浸水想定区域に立地している公立学校のうち、学校施設内への浸水対策を実施している学校は、約15%しかないことが分かっているからだ。
 こうしたことから、文科省は有識者会議を通じて今後の学校施設における水害対策の基本的な考え方について検討を進めているが、6月に中間報告として取りまとめたものを公表した。
 中間報告では、まず学校施設の水害対策の基本的な視点として、

 (1) 学校教育活動とともに、災害時には避難所となる地域防災上の役割にも留意して水害対策を検討する
 (2) 浸水対策を検討する際には、想定最大規模の浸水想定と発生確率の高い浸水想定にも着目した上で、対策の対象とする浸水深等を多段階に設定し、事前避難のソフト面と施設整備によるハード面の両面から水害対策を検討・実施する
 (3) 浸水想定などのハザード情報の詳細な把握については、教育委員会と治水担当部局、防災担当部局等の関係部局との連携体制を構築する

 ―ことを示している。

受変電設備のかさ上げや止水板の設置を
 次に、学校施設の水害対策の検討の枠組みとしては、学校施設の脆弱性を踏まえ、想定される浸水の頻度・浸水深等から、域内の学校施設の水害対策の方向性・優先度を検討することを挙げる。学校施設の脆弱性の観点とは、人的被害(要配慮者の有無、避難経路・スペースの確保状況等)、社会的損失(教育活動の長期中断、避難所機能の喪失等)、経済的損失(復旧にかかる負担等)である。
 その上で、今後の対策としては学校・地域の実情に応じ、どの程度の浸水に対してどのように対応するかを検討することとし、想定最大規模(千年に1回程度)の降雨に対しては、上階待機や周囲の高層建物への避難など緊急的な安全を確保できる場所を用意すること。百年に1回程度の降雨に対しては、受変電設備のかさ上げなどによって学校教育の早期再開に資する対策を講じること。より頻度の高い(10年に1回程度)降雨に対しては、止水板の設置など施設の被害を防ぐ対策を実施することを挙げ、各学校設置者においては本中間報告を参考にしつつ、学校施設の水害対策に取り組むよう通知した。
 なお、文科省では、今年度末までには学校施設の水害対策を進める際の具体的な対策の手順を示した手引きを策定する予定だ。

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