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災害時のライフラインの維持に「BOGETS」を

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企画特集

最優秀賞の賞状を受け取る寝屋川市長(右)

大阪府寝屋川市の導入事例が最優秀賞を受賞!~「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靱化大賞)」~

 地域の避難所を担う学校施設では、災害発生時に都市ガスや電気が停止した場合にどのようにライフラインを維持するかが課題になっている。こうした中、全国の自治体で導入が進められているのが、備蓄したLPガスを活用して一定期間都市ガスと電気を確保することができる、I・T・O(株)の防災減災対応システム「BOGETS(ボーゲッツ)」だ。本システムを導入した大阪府寝屋川市の事例は、今年度の「ジャパン・レジリエンス・アワード2022(強靱化大賞)」で最優秀賞を受賞するなど、今もっとも注目される取り組みになっている。

LPガスから「都市ガス」と「電気」を作り出す
 「エネルギーを通じて美しく住みよい地球を築く」をモットーに、地球環境を考えた高品質なガス供給関連機器を開発・提供するI・T・O(株)は、防災・減災事業を通じて社会に貢献することを目標に掲げている。その中で、備蓄したLPガスを都市ガスに変換し、ガス空調の稼働を可能にする「BOGETS(ボーゲッツ)」を、学校施設をはじめとした公共施設や病院、介護・福祉施設などの万が一の備えとして提案している。
 もともとLPガスを活用し、都市ガスと同じ燃焼特性を持ったプロパンエアーガス(PAガス)を発生させる装置は、阪神淡路大震災時の都市ガスの復旧から地震や洪水などの災害時においてガスの臨時供給に使用された経緯があった。ただし、従来型は都市ガス事業者でないと操作できないことが、災害時における迅速な復旧のネックになっていた。
 同社では、これをタッチパネルの解説や音声ガイドにより、誰でも安全かつ簡単に操作ができる「New PA」として開発した上で、その他関連機器とともにパッケージ化した。都市ガスの代替になるだけでなく、ガス非常用発電機や停電対応型GHP(ガス空調)を組み合わせ、電気もバックアップできるのが特徴だ。

備蓄エネルギーで3日間を乗り切る
 現在、学校施設は政府が掲げる「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」のもと、防災機能の強化が進められている。中でも重視されているのが、いまだ全国での設置率が一桁にとどまっている体育館への空調設置になる。しかし、災害時に避難者を受け入れることを想定すると、電気・都市ガスが停止した際の備えを講じておく必要がある。災害時には被災から3日間(72時間)をいかに乗り切るかが重要になる。そこで近年注目されているのが、劣化せず長期保管が可能なLPガスを「備蓄エネルギー」として活用することだ。
 また、「New PA」にはガス漏れの検知や誤作動を自動制御する安全機能も搭載しているため、ガスに関する専門知識がなくても安全に使用できる。とりわけ、災害時の学校では教員や市の職員、地元住民など誰が操作しても支障がないように、こうした安全面での配慮が不可欠といえる。

避難所のレジリエンス強化の取り組みとして評価
 このように防災機能の強化としての「BOGETS」の評価が高まる中、一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会が主催する「ジャパン・レジリエンス・アワード2022(強靱化大賞)」において、「寝屋川市立中学校体育館の空調設置に合わせた防災減災対応システム『BOGETS』導入による避難所のレジリエンス強化」が最優秀賞を受賞した。
 本アワードは次世代に向けたレジリエンス社会構築へ向けて、強靱な国づくり、地域づくり、人づくり、産業づくりに資する活動、技術開発、製品開発等に取り組んでいる先進的な企業・団体を評価・表彰するもの。
 受賞した大阪府寝屋川市では2020年末、市立中学校11校の体育館に停電対応型GHP(ガス空調)を導入するのに合わせ、「BOGETS」を設置し、避難所のレジリエンス強化に取り組んだ。体育館に空調を導入した背景には、近年では地震や風水害といった災害が直接的な要因ではなく、避難所生活での負担が原因となり亡くなる方が多くなっていることが背景にある。特に、高齢者や乳幼児、妊婦の方などの負担軽減を考えると、避難所で空調が使えることは重要になるからだ。


「BOGETS」の構成機器(左から、パージユニット、New PA制御盤、ワンウェイロックバルブ、New PA、LPガス容器)

学校施設の防災機能強化の一つに
 その上で「BOGETS」を設置した目的は、都市ガス供給が途絶した場合でも、体育館で72時間の空調機運転と電力をまかなうことだった。「燃料となるLPガス容器は、体育館横に小屋を設けて16本を備蓄。都市ガスが復旧するまでのおよそ3~4日間をまかなえる想定です」と市教育委員会の担当者は説明する。
 今回の中学校体育館の場合は、通常は都市ガスで空調を運転し、災害などによって遮断されたときにプロパンエアーガス(PAガス)に切り替えることができる。すなわち、あらかじめ備蓄しておいたLPガスを「New PA」で変換したプロパンエアーガス(PAガス)を使用して停電対応型GHP(ガス空調)を稼働させる。さらに、余剰電力を使って照明やコンセントに使用することが可能になっている。
 なお、災害時に強いLPガスは、国は補助金を交付して燃料備蓄を後押ししている。また、寝屋川市でも利用された緊急防災・減災事業債は、ガス変換器である「New PA」が補助対象に指定されている。
 I・T・O(株)では、今後もライフラインが途切れたときに誰でも速やかに復帰操作ができる特徴を周知し、学校施設の防災機能強化の一つとして「BOGETS」を提案していく意向だ。

体育館に設置した停電対応型GHP(ガス空調)と備蓄用のLPガス容器

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