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新型コロナとインフルの同時流行に備える

8面記事

企画特集

 気温が低く空気の乾燥が進む冬季はウイルスが感染力を持続しやすいため、昨年と同様に新型コロナウイルスの感染が広がることが確実視されている。しかも、今冬は季節性インフルエンザとの同時流行が懸念されているなど、さまざまな感染症への対策がより一層重要になっている。そこで、学校が教育活動を継続していくために必要な予防策や、備えるべき最新の衛生設備機器・用品の情報を紹介する。

人の手だけでなく、これまでの知見を活かした衛生機器の導入を

冬季は集団感染リスクが高まる
 オミクロン株以降の新型コロナウイルス感染症は、10代以下の感染が多くなっており、集団生活の場となる学校ではクラスターの発生を防ぐ予防対策が重要となっている。加えて、新たな変異株による「第8波」が予想される中で、学校の室内環境における感染リスクを低減する衛生関連機器の導入など、具体的な対策を講じることが不可欠になっている。そこには、もともと冬季にノロウイルスをはじめとする集団で感染する感染症が頻発しやすい時期であることも含まれている。
 このため文科省は、あらためて「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」による基本的な感染対策を徹底するよう全国の学校に向けて通達。併せて、ワクチン接種の促進となる大学等の単位での団体接種の実施に当たっての経費の支援を来年3月まで延長したほか、オミクロン株対応ワクチンの接種にも活用できるようにした。
 また、来年度の概算要求でも、引き続き全国の学校が消毒液、不織布マスク、CO2モニターなどの保健衛生用品等を購入する費用や、教室等の消毒作業を外注する経費の補助とともに、子どもの健康に寄り添う養護教諭の業務を支援するための予算を計上している。

同時流行する可能性が「極めて高い」
 一方、学校にとってのもう一つの気がかりが、季節性インフルエンザとの同時流行だ。インフルエンザの患者数は、2018年シーズンでおよそ1200万人だったが、新型コロナの感染が拡大した過去2シーズンは流行しなかった。しかし、それだけに免疫のない人が増えており、ワクチン接種も進んでいないことから、今年の冬は再び流行することが危惧されている。
 昨年も同様の予想が出されていたが、実際には流行しなかった。では、今年は何が根拠になっているかというと、日本とは季節が逆で、インフルエンザの流行の時期が半年ずれる南半球のオーストラリアで、2年ぶりにインフルエンザの流行が起きているからにほかならない。
 その上で、新型コロナの対策に当たっていた専門家は、水際対策などの緩和により海外からの人の流れが増えることや、国内の社会活動の活性化によって、今冬に新型コロナとインフルエンザが同時流行する可能性が「極めて高い」とした報告書を出して警鐘を鳴らしている。
 このため、すでに厚労省では関係する医師団体・アカデミア、経済団体、国・地方の行政機関等の連携による「新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース」を立ち上げ、保健医療体制の強化や重点化に動き出している。今夏の「第7波」では、発熱外来を設置している医療機関に患者が殺到し、医療機関や保健所にも連絡がつかないなど不測の事態を招いた。新型コロナもインフルエンザも発熱やせきなどの症状は似ており、検査をせずに両者を判別することは難しいとされている。
 もし同時流行するような事態になれば、さらに医療機関がひっ迫することは避けられない。
 したがって、新型コロナの患者が1日45万人、インフルエンザの患者が1日30万人規模で同時に流行し、ピーク時には1日70万人の患者が生じる可能性を想定して、発熱外来や電話・オンライン診療の体制強化、治療薬の円滑な供給などの対策を進めるとともに、国民にも検査や治療への協力を求めていくという。

必要以上に恐れず教育活動を継続する
 10月3日現在、新型コロナによる影響で学年・学級で臨時休業している公立学校数は1・8%まで減少しているが、10月に入ってからも千葉や埼玉、鳥取、島根などの学校でクラスターが発生しており、いまだ油断できない状況にある。しかも、今年の2月時点では13・8%に達していたことを考えると、同時流行によって、さらにその数が増えることが予想される。
 ただし、学校には必要以上に恐れず、適切な感染症予防対策を施した上で、教育活動の継続に努めていくことを求めたい。なぜなら、新型コロナによる20歳未満の感染者は国内全体のわずか4%であり、特に小児は感染しても症状が出る割合が低く、重症化まで至るのは極めてまれなケースである。むしろ、日々の生活・活動に制約があることで7割超の子どもが何らかのストレス症状を抱えているなど、メンタルヘルスに及ぼす影響の方がよほど大きいと考えられるからだ。
 そうした観点からも、これまでの2年間で得た知見に基づいて衛生関連機器などを導入し、学校内における安心感を向上するとともに、集団感染リスクの低減を図っていくことが必要といえる。

取るべき対策に変わりはない
 新型コロナもインフルエンザも呼吸器の感染症で感染経路は似ており、取るべき対策に変わりはない。新型コロナへの感染は、ウイルスを含む飛沫が口、鼻や眼などの粘膜に触れたり、ウイルスがついた手指で口、鼻や眼の粘膜に触れたりすることで起こる。このため、飛沫を吸い込まないよう人との距離を確保し、会話時にマスクを着用し、手指のウイルスは洗い流すこと。さらに、接触感染を防ぐために手によく触れる場所やモノを消毒することが大切になる。
 インフルエンザも同様に、飛沫や接触が主な感染経路になる。両者の感染力には大差ないが、潜伏期間が新型コロナの平均5日と比べ2日間と短いのが特徴といえる。症状としては38度以上の高熱や頭痛、筋肉痛などがあらわれた後に、咳、鼻汁などが続き、1週間くらいで軽快する。新型コロナはこれらの症状に加え、息切れや嗅覚・味覚障害を伴うケースがあるほか、症状の持続期間が2~3週間と長い傾向にある。また、新型コロナの大きな特徴は無症状者の多さで、その状態でも感染力が高いことが明らかになっている。
 そのほか、万が一の重症化を防ぐためにも、新型コロナやインフルエンザのワクチンを接種することが重要となる。

発熱症状が出た場合の手順
 前述した通り、もし新型コロナとインフルエンザが同時流行する事態になり、発熱などの症状が出た際に問題になるのが、どちらにかかったかの判断が難しいことだ。そのため、小学生以下や医療ケアが必要で重症化リスクが高い子どもの場合は、速やかにかかりつけ医等に受診し、診断に応じて治療薬の処方を受けることが大切になる。
 その他の子どもの場合は、医療機関の負担を減らすため、医療用の抗原検査キットを使って新型コロナに感染しているかどうかを確認。新型コロナ陰性の場合は電話やオンライン診療、かかりつけ医などを通じてインフルエンザかどうか診断を受ける。新型コロナ陽性の場合は健康フォローアップセンターに登録し、自宅療養となる手順と思われる。
 なお、現在では両方を検査できる抗原検査キットが販売されているほか、PCR検査による同時測定も保険適用化されている。

教室の効果的な換気方法
 学校の新型コロナ対策で重要になるのは、エアロゾル感染と飛沫感染を引き起こしやすい3密(密閉・密集・密接)の環境で多くの人と接し、1人の感染者が何人もの人に感染させてしまうことである。したがって、手洗いから始まり、ドアノブやテーブルの消毒、会話時のマスク着用、ソーシャルディスタンスの確保、換気といった基本的な感染予防が重要となる。
 中でも換気については、二酸化炭素含有率をできる限り1000ppm相当にすることが望ましいことから、教室の外気側と廊下側の対角線上の窓を同時に開けて空気の通り道をつくり、30分に1回以上、数分間程度は全開するといった、こまめな換気が適切とされている。だが、これからの気温が低下する冬季はどうしても室内が閉めきりがちになるため、より一層注意する必要がある。
 こうした中、日本学校保健会が作成した「学校における感染症対策実践事例集(2022年3月)」では、教室での効果的な換気方法について検証した結果を公表している。まず、窓・扉の開放による効果としては、12月の教室に教員1人と児童35人が在室している場合、学校環境衛生基準のCO2濃度1500ppm以下を保持するためには、1時間に3回以上の換気が必要なこと。対角線上の窓と扉を1か所ずつ10cm開けた方が、扉を全開放するよりも換気効果が高い結果となっている。
 エアコン使用下で窓を閉めた状態では、授業開始後約20分で教室中央での二酸化炭素濃度測定値が1500ppmを超えており、換気が不十分に。しかし、対角線上にある窓と扉を開放して連続換気したところ、1000ppm以下に保たれる結果となった。また、上窓を開放する方が、開放面積が小さいため冷暖房効率が良く、冬でも児童に直接冷たい外気が当たらないことから、上窓の開放が望ましいという見解を示している。
 このような十分な換気ができているかを把握する方法として、「学校等における感染症対策等支援事業」等で補助対象となっている、二酸化炭素濃度測定器の導入も推奨されている。

暖房による低湿度に注意
 もう一つ、これから冬を迎える学校環境下で気を付けなければならないのが、教室の乾燥対策といえる。気温が下がると、口や鼻などの粘膜が乾燥し、防御機能が低下するのに加え、乾燥した環境を好むウイルスが増殖しやすくなるため、新型コロナやインフルエンザにかかるリスクが高くなるからだ。特に、近年の断熱性の高い校舎の教室ではエアコンの使用によって乾燥がより一層進んでしまうことから、室内湿度を常に40~60%に保つことが重要になる。
 また、オミクロン株では空気中を浮遊する粒子によるエアロゾル感染が多くなっており、それが集団感染を引き起こす要因ともいわれている。こうした飛沫を飛ばさないようにする意味でも、湿度を上げることが必要になる。
 したがって、教室に加湿器が整備されている場合はもちろん、備えられていない場合も湿度設定が可能な加湿器を上手に活用し、ウイルスの抑制に適した湿度を保つよう十分に配慮しなければならない。

学校の環境衛生対策に役立つ道具~教員の負担を減らす~
 学校の生活空間における新型コロナ等の感染症を予防する衛生対策としては、トイレの洋式化に加え、床のドライ化、手洗い場の自動水栓化などが急ピッチで進められているとともに、体育館のような広いスペースでも換気は必要なため、熱中症予防と併せて大型扇風機やサーキュレーターを導入する学校も一般化している。
 また、高い換気能力を備えた空調設備や熱交換機能を持つ換気設備への交換、教室壁・扉、トイレ扉・床など接触機会が多い物質表面に抗ウイルス・抗菌コーティングを施工するケースも増えている。
 さらに、毎日の手作業による消毒作業が教員の負担となっている中で注目を集めているのが、人体に影響を及ぼさない紫外線を照射し、空気やモノを除菌してウイルスを不活化する紫外線照射装置だ。使用方法も、照明器具のように天井など高いところに設置し、除菌したい場所をねらって照射するだけと簡単なため、医療機関や学校などの人が集まりやすい場所の環境衛生対策として設置するところが増えている。また、寒冷期でも室内の快適性を損なわずに使えるのも長所の一つだ。
 あるいは、今後はAI技術の進化によって自走式の除菌ロボットなども期待されており、最近では紫外線で空間除菌も同時に行えるタイプも登場している。特に、抵抗力が弱く、感染症への理解も難しい幼児をあずかる幼稚園・認定こども園では、このような職員の手間を削減し、感染リスクを低減する技術の導入が不可欠といえる。
 さまざまな感染症リスクが高まる冬季に向けて、安心・安全な教育環境を継続していくためには、人の手に頼るだけでなく、これまでの知見を活かした感染症予防に役立つ技術や道具を賢く活用していくことも学校現場には求められている。

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