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ノロウイルスによる集団食中毒を防ぐ 感染時の下痢やおう吐による脱水に注意

9面記事

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感染力が強く、少量でも感染する
 毎年11月から2月にかけて、保育所、幼稚園、小学校を中心に集団感染が多数報告されているのが、ノロウイルスによる感染性胃腸炎・食中毒だ。昨シーズンは都内だけで600箇所近くの保育所で集団感染が発生しており、今シーズンも10月半ばまでに、すでに保育所3件、小学校1件で報告されている。
 ノロウイルスは手指や食品などを介して口に入ることで感染し、おう吐、下痢、腹痛といった症状を起こす。潜伏期間が1~2日と短い上、感染力が非常に強く、少量でも感染するのが特徴だ。ノロウイルスに感染した患者の下痢便にはグラム当たり100万個ほどのウイルスが含まれているが、人はわずか100個程度で感染するといわれている。それだけに、集団生活の場となる学校では大規模な食中毒を引き起こしやすくなるため、注意が必要だ。
 感染経路は、

 (1) 食中毒など食べ物を介した感染
 (2) ヒトからヒトへの感染

 の2つに大別できる。(1)では、ノロウイルスに汚染されたカキなどの二枚貝を食べた場合(一次汚染)と、調理や配膳をする人の手指や調理器具から汚染した食べ物を口にした場合(二次汚染)になる。

二次感染による集団感染を防ぐ
 学校では給食の調理者から感染するケースが多いため、調理者や調理器具などからの二次汚染を防止することが重要となる。そのため、調理者自身の衛生管理はもとより、給食室内のはね水による食中毒細菌の二次汚染を防止し、より清潔な給食室にすることを目的としたドライ化などを進めていく必要がある。加えて、給食材を配送する業者や配膳係の児童などを介した二次汚染の例もあるため、衛生指導を徹底したい。
 (2)は、食べ物を介さず、手指などが接触して波及していく接触感染になる。学校では、こうした二次感染によって集団感染へと一気に広がることが最も怖い。感染予防としては排泄時には必ず手洗いによって付着したウイルスを洗い流すこと。石けん自体はノロウイルスを失活化することはできないが、手の脂肪などの汚れを落とすことにより、ウイルスを手指からはがれやすくする効果がある。さらに、トイレ便座やドアノブ、手すりなど手指の触れる機会が多い場所をこまめに消毒するといった備えが大切になる。

おう吐物による飛沫感染も
 ノロウイルスを発症すると腸の中で増殖してお腹全体の動きを悪くするため、最初は気持ちが悪くなり、その後、多くがおう吐することになる。それゆえ、学校では児童のおう吐によって周囲の人に感染してしまう飛沫感染への対策が不可欠といえる。おう吐物の中には大量のウイルスが存在し、乾燥すると空中に漂うことで口に入って感染することがあり、迅速かつ安全におう吐物を処理することは、二次感染の予防のために重要になるからだ。これまで集団発生した事例でも、おう吐した児童の学級に限って患者が発生したケースが多く報告されている。
 対処法としては、半径約2mの範囲に飛沫が拡散することを踏まえ、ゴム手袋、マスク、ゴーグルを着用し、ペーパータオルや使い捨ての雑巾で拭きとり、ビニール袋に二重に入れて密封して破棄すること。現在では、感染リスクのあるおう吐物、排泄物などの汚物の処理をスムーズかつ安全に行うためのツールとして、使い捨てタイプの「汚物処理キット」も普及している。
 また、飛沫感染の防止としては、おう吐があった場所に立ち入らないように措置を講じ、窓を開けて換気をすることも忘れてはならない。ノロウイルスには有効な抗ウイルス剤がなく、治療は輸液などの対症療法に限られるため、少しでも感染リスクを下げる予防や対処を施すことが重要になる。

脱水状態の改善に有効な経口補水液
 一方、ノロウイルス感染による下痢やおう吐は急激に大量の体液を消失させてしまうことから、脱水につながりやすくなることも特徴の一つといえる。しかも、子どもの体は大人と比べて必要となる水分の割合が高いことや体内調節機能も未熟なため、脱水状態になりやすく、進行することによって深刻な脱水症を引き起こす可能性もある。
 ただし、水分だけ摂取してしまうとかえって脱水が進行してしまうため、体液の成分であるナトリウムやカリウムといった電解質を含んだ水分を摂取することが必要になる。電解質の入った飲料にはスポーツドリンクもあるが、脱水予防としては電解質の量が足りない。そこで有効なのが、水に塩分などの電解質と糖がバランスよく配合されている経口補水液を飲むことで、脱水状態を改善させる経口補水療法だ。
 飲み方としては、急にたくさん飲ませてしまうと症状を悪化させる場合があるため、あわてずゆっくり飲ませていくことが基本。すなわち、最初はティースプーン1杯から始め、これを15分おきに繰り返す。その後、症状が回復してきたら1回で取る量を増やしていくステップが大事になる。
 ドラッグストアや調剤薬局などで手軽に購入できる経口補水液には、大塚製薬工場の「オーエスワン」がある。近年では学校でも熱中症対策として保健室や運動部などで使われるようになっており、神戸市のように全中学校に常備する自治体も現れている。ぜひ、こうした感染性胃腸炎や乾燥が進む冬場の脱水予防としても活用できることを覚えておきたい。

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