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僕に方程式を教えてください 少年院の数学教室

12面記事

書評

高橋 一雄・瀬山 士郎・村尾 博司 著
貪欲に学び、変わる少年たち

 各地の少年院において、高校卒業程度認定試験の対策講座などで数学を指導してこられた3人の著者による実践記録である。
 少年院に入るほどの非行がある子たちへの対応は、学校では生活指導が中心にならざるを得ないし、他の生徒の学習環境を守る必要もある。当人の学習どころではない、となりがちだ。だが、それはその子の学力を伸ばす可能性を放棄しているということでもある。
 著者の一人、数学教育者の高橋一雄氏は、少年たちが勉強に飢えている印象を受けるという。「講座が始まり二週間が過ぎると、彼らは学ぶことに貪欲になり、ひたすら考え、質問も積極的にする。それゆえ、『なぜ彼らは学校教育から離脱せざるを得なかったのか』、教育者は彼らと真剣に向き合う機会を積極的に持つべきではないか」。これは、学校教育関係者への直截なメッセージとしてかみ締めるべきだろう。
 本書では、少年たちの様子や変化、矯正施設における教科指導の重要性、出院後の環境の厳しさなども描かれる。高橋氏が指導に当たって守っている四つの心構え、例えば「『さん』づけで呼ぶ」「『…だよね!』と同意を求めるような言い方をしない」などは、学校でも必要なことではないか。「とことん話を聴き、考えさせ、付き合う」ことには限界があるにしても、教育は本来はどうあるべきなのかを考えさせられる貴重なリポートである。
(990円 集英社(集英社新書))
(浅田 和伸・前国立教育政策研究所長)

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