日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

通信制高校から通信制大学へ~時代の要請に応える大学通信教育の役割~

11面記事

企画特集

通信制高校の学校数が年々増加

 「大学通信教育」の将来を語る上で、近年の通信制高校の飛躍は無視できない。少子化によって全国の高校が減少していく中で通信制高校の学校数は年々増加しており、現在260校(公立校77校、私立校183校)となっている。加えて、生徒数もここ10年間で3万人も増加するなど20万人を超し、今では高校生のうち15人に1人が通信制高校を選択している。
 最大の特徴は「毎日通学する必要がない」ことで、自宅学習によるレポート提出とテスト、決まった回数のスクーリングによって単位を取得し、卒業要件を満たせば全日制高校と同様に高校の卒業資格を得られることだ。
 もともと通信制高校は、社会人や高校を中退した人、中学校の勉強についていけなかった人、芸能活動やスポーツ活動によって全日制の高校では卒業が難しい人などの受け皿になっていたが、近年では不登校で悩んでいる生徒や、発達障害などによって既存の学校に順応できない生徒などにも適したスタイルとしてニーズが高まっている。
 さらには、「自分のやりたい学習ができる」「将来に役立つ専門的なスキルを身に付けられる」といった、積極的な理由によって通信制高校を選択する生徒も増えている。その象徴といえるのが、2016年に開校し、「ネットの高校」として話題になったN高等学校だ。今や1万7千人近い生徒が学んでおり、日本一の生徒数を誇る高校となっている。

情報化社会の進展によって変わる学びのカタチ~ネットの中で強みを発揮する若者~

 こうした生徒を集める大きな要因になっているのが、インターネット技術を活用したオンライン学習コンテンツやコミュニケーションの進化といえる。なぜなら、現在では既存の高校で対人関係に揉まれながら学ぶよりも、ネットを駆使した学びやコミュニケーションの方が、自分の力を発揮できると思う生徒が増えているからにほかならない。すなわち、現在の学校現場においてさまざまな対応が求められている、子どもの多様性や価値観の変化に最もコミットしているのが通信制高校というわけだ。
 また、社会的に見ても、世界中の情報が誰でも簡単に手に入る昨今、情報そのものには価値がなくなり、その情報を基に新たな価値を創り出す人材が求められている。だが、知識詰め込み型で偏差値重視を長年続けてきた今の学校教育は、そうした時代の要請に応える人材を輩出する上では遅れているといわざるを得ない。
 それは、これからの予測困難な時代の教育には、全員に同じ知識を身に付けさせる学びから、一人一人の能力を最大限生かす学びへと脱却していく必要があるとし、2021年6月の教育再生実行会議によって、教育のDX=データ駆動型の教育への転換が打ち出したことでも明らかだ。
 だからこそ、社会の変化に敏感な生徒は、自分の得意な、自分の居場所を見つけられるICTを活用し、自らが学びたいことに多くの時間をあてられる通信制高校に魅力を感じているのだろう。

社会変化に合わせた技術の高度化が求められている
 ただし、通信制高校は自分のペースで学習できる、将来の職業を先取りできる魅力がある一方で、全日制高校の約6割に対して2割あまりと、大学進学率が低いことが課題になっている。その意味で期待されているのが、通信制大学への進学といえる。
 「大学通信教育」は単位を修得する条件など卒業までのシステムが通信制高校と同様であり、生徒にとっては慣れた環境で学習に取り組められるからだ。すなわち、大学卒業資格を取りたい、個性を生かし、自分に合った学びを続けたい生徒にとって、大学通信教育の果たす役割は今後ますます大きくなっていくことが予想されている。
 また、そのためには、通信制大学自体も今日の社会変化や学修ニーズ、技術の高度化等に対応していくことが求められている。例えば従来は30 単位以上の面接授業が必要だったが、現在では124単位すべてを「メディアを利用して行う授業」(インターネット等による授業)で修得することも可能となっている。これは、文字、音声、静止画、動画等の多様な情報を一体的に扱うインターネットを活用した授業が、直接の対面授業に相当する教育効果を有すると認めたものである。
 その結果、今日ではレポートの配信・提出からテストの添削まで、インターネット等のICTを活用している通信制大学が増えている。また、インターネット等のみを用いて授業を行う大学を対象として、校舎等施設に係る要件の弾力化を行う特区が制度化され、これまでに2大学が適用を受けている。
 こうした時代の変化に対応した新たな大学通信教育の改善や充実方策等が進められることが、教育内容を豊かにし、教育機会のアクセスを広げること。そして、教員の資質能力の向上が期待される中で、自身のスキルアップを図る場として、さらに便利に活用されるようになることを期待したい。

「子どもの主体的な学びの伴走者」になるために
 現在、学校現場では小学校教員の3割、中学校教員の6割が過労死ラインを超える労働をしているなど、教員のワークライフバランスを改善することが急務になっている。このような教員の負担を軽減する「働き方改革」を実現するために期待されているのが、授業や校務のスピードアップや効率化を図るICTの活用だ。また、近い将来に目指す児童生徒一人一人のエビデンスに基づいた教育を進めていく上でもICT活用は不可欠であり、教員にとってはなくてはならないスキルになっている。
 その中で、日常からネットを使いこなし、ICT活用にも長けた教員にとっては、印刷教材でなく、すべての学習をネットで完結できることは、大学通信教育を受講する一つの動機になるといえる。それは通信制高校を選択する生徒と同様に、特に若い教員には足を踏み出しやすい状況を作ることになるのだ。
 やる気があっても環境が整っていないと、安易には決断できない。だが、コロナ禍によって教員研修もオンライン化が進んだように、これからは少し手を伸ばせば学び続けるチャンスをものにすることができる。
 教員とは、子どもの将来につながる知識や生き方を授けることが使命だ。であるなら、急速に変化する社会に対応した学びを備えることも不可欠なはずだ。大学通信教育で学ぶ理由は、何も複数免許を取得したり、自身のキャリアアップを図ったりするだけが理由ではない。子どもたちに確かな知識を授ける知識を磨き、学び続けることで自身の考え方や指導方法を見直すこと。それが、これからの教員に求められる「子どもの主体的な学びの伴走者」へとシフトすることにつながるのだ。

企画特集

連載