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半径5mの問いをビジネスアイデアに アントレプレナーシップ・プログラム「高校生Ring」最終審査会開催

16面記事

企画特集

最終審査会ではファイナリスト5校が一堂に会した

 「高校生Ring」(主催:(株)リクルート)は、「半径5m」の身近な視点から新しいビジネスを考えることを通して課題発見力を育む高校生向けの教育プログラムだ。1月21日に都内で開催された最終審査会「高校生Ring AWARD 2022」では5組のファイナリストがそのアイデアをぶつけあい、グランプリに東大阪大学柏原高校、準グランプリに洛南高校が決まった。次回2023年度は広く全国の高校へ参加を呼びかけ本格的に展開する予定。プログラムの概要と最終審査会の模様を紹介する。

高校生が新規事業提案

 「高校生Ring」は、高校1~3年生を対象に新規ビジネスの「プランシート」の作成・入賞を目指す全員参加型のアントレプレナーシップ・プログラムだ。オンライン学習サービス「スタディサプリ」を提供するリクルートが、同社の新規事業提案制度「Ring」のノウハウを用いて開発された。
 アントレプレナーシップは起業家精神と訳されるが、同社では「自ら問いを立てて行動し、変化を起こす力」と定義する。現役高校生が身の回り「半径5m」にある自分の視点からビジネスを考えるプログラムを通して、自分をより深く知る学びの機会にしてもらうのが狙いだ。そのため、起業に関心を持つ希望者ではなく学校単位での参加を前提としている。

コスト計算や収益も考える
 プログラムに参加した高校生には、冊子型の公式教材「Ring NOTE」が配付される。身の周りにある疑問や課題を探り、その解決策を考えることで新しい価値、ビジネスプランを発想できるワークシート型の教材だ。リクルート社員が実際にアイデアを出し成功したサービス事例が盛り込まれており、新規ビジネスの種を現実の事業へと成長させるプロセスを体系的に学べる。
 高校生はコスト構造や収益構造、競合分析といった事業化を考えるうえで避けて通れない内容も網羅した1枚の「プランシート」を完成させてエントリーする。

リクルート社員がメンタリングで支援
 最終審査「高校生Ring AWARD」までの審査プロセスは3段階と本格的だ。一次は学校内審査。生徒全員が作成したプランシートから各クラス3組を選出し、ウェブにてエントリーする。集まったプランをリクルート社員が二次審査する。通過者は続く三次審査に向けて内容を磨き込んでいく。その際、新規ビジネス開発に携わるリクルート社員から、オンラインによるサポート「メンタリング」が受けられるのが大きな特徴だ。秋にはプレゼンテーション動画審査により5組のファイナリストに絞り込まれる。最終審査会では審査員を前にした対面型のプレゼンテーションに臨む。
 プランの具体化をサポートするため、冊子以外にも豊富な教材が準備されている。YouTubeで時間や場所を選ばずに視聴できる動画教材「ガイダンスムービー」と運営事務局がプログラムを解説し、参加者からの質問に答えるリアルタイム授業「オンラインサマーキャンプ」がある。インターネットへのアクセスができれば生徒はいつでも自学自習で進められる。

非認知能力育成にも
 同社は「スタディサプリ」を通しての基礎学習支援を中核としながら、探究力や主体性、進路選択といった、これからの時代に必要となる非認知能力(EQ)の育成支援を提供してきた。「高校生Ring」を非認知能力の育成支援の一つと考え、全国に普及させていきたい考えだ。
 同プログラムは21年度から2年間は実現可能性を検証するためのトライアル期間と位置づけ、参加校を限定して実施してきた。21年度は4校550名、今年度は23校6186名の生徒が参加するなど規模は着実に拡大している。
 なお、23年度もすでに開催が決定しており「スタディサプリ 高校講座」または「スタディサプリ 探究講座」を導入する全ての高校が参加可能になる予定。「高校生の皆さんが自分への理解を深め、興味があること、やりたいことを見つけるきっかけとなることを目指して多面的な学びをサポートしていきたい」と運営事務局は語る。


プログラムの流れ


プランシートの項目に沿って自身のテーマを探究する

「半径5m」の気付きが深い学びには不可欠
株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクトマネジメント統括室
販促領域プロダクトマネジメント室(まなび) 室長
池田 脩太郎 氏


身近な課題から始める重要性を説く池田氏

 高校生Ringのコンセプトは、高校生に自分の身の周りの「半径5mの問い」に注目してもらうこと。大きな社会課題は、高校生には距離があり自分ごと化しづらい。アウトプットも内容が薄くなりがちで、どこかで見たような答えに陥りやすい。
 その点、自分の興味関心から出発した問いならば、家族や友人、先生など身近な人から話を聞き、いくらでも深掘りすることができる。それが解像度の高い課題設定となり、価値ある解決策を考えることにつながる。高校生でも質の高いアウトプットができ、そのプロセスの中でアントレプレナーシップに気付ける教育プログラムとなっている。
 最終審査会に臨むファイナリストのプレゼンテーションは、高校生とは思えないほどクオリティが高い。机上で考えたものではなく、想定されるユーザーへのインタビューを繰り返すなど行動力がうかがえ、大人では気付かない問題の見方やアプローチに感動している。それは高校生に「本当にこの課題を自分ごととして解決したい」という想いがあるから。このプログラムを通してアントレプレナーシップの根源に改めて触れ、その育成の重要性を認識している。

全国6000人の頂点を目指し高校生がプレゼン
発想力やビジネスの持続性、当事者意識を競う

 全国約6000人の高校生が参加した22年度の「高校生Ring」。その最終審査会「高校生Ring AWARD 2022」は厳しい審査を経て勝ち残った5組のファイナリストで競われた。
 審査には(株)MizLinx代表取締役CEOの野城菜帆氏ら3人の起業家がゲスト審査員として参加し、リクルートからは執行役員の柏村美生氏、販促領域プロダクトマネジメント室(まなび) 室長の池田脩太郎氏が加わった。

磨き上げたプランを披露
 評価の観点は次の3つ。1つ目は聞き手が「もっと続きを聞いてみたい」と思える「発見・発想のオリジナリティー」。2つ目はお金を払ってくれそうな人が存在し、会社や事業として継続していける要素があるかの「ビジネスポテンシャル」。3つ目に個人、チームを問わず、自分たちがなんとかしたいという「圧倒的当事者意識」だ。
 最終プレゼンは1組約10分。最初に、どのようなサービスかを一言でまとめたタイトルを提示。自分が解決したいと思った課題を背景や動機から説明し、どんなサービスで解決しようとしているかを具体的に示していく。さらに、サービス利用の流れやかかるコスト、想定される市場規模から利益を割り出してビジネスとして成り立つことを明らかにしていく。類似したサービスとの違いや、想定される利用者へのインタビュー結果をデータで示すなど、どのファイナリストも説得力のある密度の高いプレゼンを披露した。
 プレゼン後は、審査員の講評を受ける。着眼点や発想の独創性だけでなく、サービスの具体像が目に浮かぶような発表に、どの審査員も高い評価を与えていた。それぞれの起業経験などからプラスアルファのアドバイスもあった。

圧倒的当事者意識を重視
 全ての提案が終わったところで審査員による協議が行われ、結果が発表された。グランプリには東大阪大学柏原高等学校の生徒が考えた、高齢者と学生をつなぐ県外進学者のためのホームステイマッチングサービス「S connect」に決まった。また、準グランプリは洛南高等学校の生徒による、いつでも美容院で髪をセットできるサブスクリプションサービス「Light」が受賞した。
 2校には賞状のほか、サービスの試作版を作るまでの人的な支援が受けられる「プロトタイピングプログラム」が贈られた。審査員の1人でコンテスト責任者の池田氏は「コンテストがゴールではなくスタート。高校生の考えたプランが本当に社会で成功し、未来を変えるかはやってみないと分からない。エンジニアが支援しサービスをリリースしてみて、利用者が本当に使ってくれるまで継続したい」と、さらなる支援を表明した。

グランプリ 東大阪大学柏原高等学校

 グランプリに輝いたのは、遠方の高校に進学したい学生と、自宅を貸し出したい高齢者を結ぶホームステイマッチングサービス「S connect」。サービスを考えたきっかけは、地元の中学校にバドミントン部がなく、県外の祖母の家に滞在してバドミントン部のある中学校へ通った自身の経験から。寮や滞在先がなくても、中高生が希望する学校へ進学できるよう、空き部屋を有効活用したい高齢者と、生徒自身、入学生徒数を伸ばしたい学校の三者をマッチングするサービスを提案した。
 審査員は「我々が気付かない新たなマッチングの可能性に審査員全員がハッとさせられた。半径5mの課題を解決することが、実は日本の社会課題を解決することにつながる。空き家問題や高齢化の課題を解決したときの社会に対するインパクトは大きい。実際に進めていくとさまざまな壁に当たるかもしれないが、プレゼン時の情熱で乗り越えていってほしい」と高く評価した。
 受賞した生徒は「グランプリを受賞できて嬉しい。参加を通していろいろな世の中のサービスが身近なことから生まれているのだと学んだ。多くの生徒が自由な進路選択ができるようになればいいと思う」と優勝の喜びを語った。

<教員コメント>
 ICT活用のスキルアップになればと思い参加した。メンターは生徒のよい所を伸ばしてくれ、生徒の成長に寄り添ってくれた。短時間で人に分かりやすく説明する経験ができたのが収穫。生徒の自信につながったのでは。


新しいマッチングの可能性を提案した

準グランプリ 洛南高等学校

 準グランプリは、外出先の美容院で、ヘアアイロンなどを借りて自分で髪型を直すことができるサブスクリプションサービス「Light」が受賞した。髪型が決まらないと気分が上がらない女性の不満と、美容院の空席や広告費の悩みを解決するサービスとして提案した。美容市場の分析や美容院への取材を経て、サービスの利用料など具体性のある提案をした点が高く評価された。
 審査員からは「前髪を直せることで元気に過ごせるという自分や友達の気持ちを大事にしながら、美容業界で働く人の声や、美容院の問題点をよく考えて形にしてきた。ぜひ自分のこだわりを大切に頑張ってほしい」といった講評が寄せられた。
 受賞した生徒は「メンタリングのときにいろいろ教えてもらい、学びしかなかった。参加を通して身の回りの不満や不安を誰かに解決してもらうのではなく、自分で解決することができると実感した」と話している。

<教員コメント>
 総合探究コース1期目の取り組みの1つとして参加した。いろいろなサポートを受けながら生徒の頑張りが花開き、このコンテストの可能性を感じた。ビジネス経験のある社会人から直接話をしてもらえ、生徒も教員も学校の中では得られない経験ができた。今後は学校全体に還元していきたい。


自分のこだわりをビジネスに昇華させた

ファイナリスト5組最終プレゼンテーション

グランドパートナー
神戸山手女子高等学校

 「寂しい」「会話相手がほしい」「旅行に行きたい」などの一人暮らしの高齢者の課題を、高齢者同士のマッチングサービスで解決する。バーチャルお話アプリで高齢者同士のコミュニケーションの場を提供。また、旅行をしたいがなかなか出かけられない課題も踏まえて、日本各地のお弁当が届き、食事をしながら会話を楽しむバーチャル旅行プランも用意。リアルな旅行では難しい「空からの景色・海の中・山登り」など新たな体験も提供する。

S connect
東大阪大学柏原高等学校

 高齢者と学生をつなぐ県外進学者のためのホームステイマッチングサービス。遠方の高校に進学したい中高生が、安心して生活できる環境がないため、学校選びの選択肢が狭まっている。そこで、遠方の学校に進学したい学生と、若者との共同生活や家賃収入のために自宅を貸し出したい高齢者、入学生徒数を伸ばしたい学校の三者をマッチング。学生の進学の選択肢を広げ、高齢者や学校、地域の活性化にもつなげるサービス。

グラウンドスイム
福井工業大学附属 福井高等学校

 健康を意識し運動をするためにプールに通いたい高齢者が、プールに行かずとも水泳と同じ運動が楽しくできるようにしたいと発想。陸上にいながら水泳と同じような運動ができ楽しさを味わうことができる運動機器を提供する。腰への負荷を考え、特に上半身を適度に動かすことで、高齢者にとって理想的で新しい運動体験を提供することができる。

GAKUSUKU~新しい楽譜のかたち~
茗溪学園高等学校

 電子楽譜が見放題のサブスクリプションサービス。紙の楽譜はかさばり整理が面倒、かつ楽譜そのものや書き込んだ情報を共有することが難しい。楽譜をより使いやすくすることで音楽体験をよりよいものにしたい。オンラインでさまざまな楽譜が利用でき、楽譜そのもののデータや書き込んだ情報の共有が可能。その楽譜を演奏した模範演奏の視聴や同時再生機能、自作曲の投稿など演奏者の希望をかなえる機能も充実している。

Light
洛南高等学校

 いつでも美容院で髪をセットできるサブスクリプションサービス。朝セットした髪形が外出途中に崩れてしまい、出先で髪形を直したいが直せる場所や道具がない。その結果、一日を自分に自信がないまま過ごすことになってしまう。外出先にある美容院で、ヘアアイロンなどを借り、安価に自分で髪形を直すことができる。美容院には新規顧客獲得の機会、広告費の削減、空席の有効活用を提供する。

 最終審査会の様子はABEMAにて2月27日(月)の21:00から放送されます。
 また同日22:00からリクルートのYouTubeアカウントにてアーカイブ映像をご覧いただけます。
 https://youtube.com/playlist?list=PLnKZ_Us14JyucbN2LYac1BIjK1X_hFitv

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