日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

新たな価値を創出する「学生服」「体操服」

16面記事

企画特集

多様性や学校の魅力化に応える商品を提供

 今や「学生服」は学校文化を支える高品質なモノづくりを追求するだけでなく、子どもたち一人一人の多様性に寄り添った魅力ある商品を生みだすことが求められている。また、新型コロナウイルスによるさまざまな影響は、次のトレンドとなる「体操服・スポーツウェア」の進化にも波及しており、各制服メーカーによって切磋琢磨した商品開発が進められている。ここでは、このような時代のニーズに応え、新たな価値を創出する学生服・体操服の動向を紹介する。

100年の歴史を学校とともに歩む
 「学生服」は、学校像や学生らしさを表現する日本独自の文化として定着。自分たちがこの学校の学生であることに誇りを持ち、仲間との連帯意識を高めながら学生生活をおくれることが学生服ならではの長所となっている。また、毎日着用できるため経済的であり、家庭ごとの格差が見えにくくなるメリットもある。
 だからこそ、時代のニーズによって、詰襟・セーラー服からブレザー、DCブランド、オリジナル制服等への変遷を加えながらも、100年の歴史を学校とともに歩んでこられたといえる。しかし、少子化・統廃合による市場の縮小や生産・物通コストが増加する中で、制服業界を取り巻く環境は年々厳しくなっているのも事実だ。
 また、一方では個性化を望む声や多様性を理解して認め合うという社会の動きが広がる中で、これらに対応した商品づくりや、他校との差別化、付加価値を高めたい学校ごとの意向に沿ったデザインやディティール、きめ細やかなサービスを提供する制服のモデルチェンジによる競争も激化しており、大きな過渡期を迎えている。

品質・納期すべてが求められる「学生服」
 それでも、学生服が現在の低価格・大量消費時代の衣服と一線を画す理由は、学生が毎日身につける衣服であり、その成長に寄り添っていく商品であることだ。つまり、それに耐えうる丈夫な素材や縫製が欠かせないのはもちろん、着心地のよさや手入れのしやすさなどにも配慮する必要があり、学生の年齢・体格に合った幅広いサイズを漏れなく提供しなければならない。しかも、成長後も身体に合うようサイズアップに手を尽くし、お下がりやお譲りまでを視野に入れた制服づくりの伝統を継承していくことが使命となっている。
 さらには、学校特有の事情ならではの4月の入学式に間に合うように、合格通知後の短期間で採寸・発注し、納品するといった特別な管理・供給体制を維持することも重要な責務となっている。
 したがって、各制服メーカーでは原料・生産コストが上がる中でも、製造工場の連携・協力や独自の配送センターを設けて物流コストを削減したり、生産工程や業務改善に関わるデジタル化を図ったりすることで効率化に努め、国内生産による高品質なモノづくりにこだわっているのだ。
そして、それこそが長きにわたる学校の信頼につながり、既成の衣服メーカーがおいそれと市場に入り込めない理由となっている。

学生服の大きな変革、ジェンダーレス制服
 こうした中、制服づくりにおいて大きな変革をもたらしているのが、個々の多様性や性的少数者(LGBTQ)に配慮したジェンダーレス制服だ。今や都立高校の8割が女子用スラックスを採用しており、埼玉県のすべての県立高校(130校)も性自認に悩む生徒が安心して学校生活を送れるよう女子用スラックスを選択できるようにするなど、制服のモデルチェンジを行う際には欠かせないテーマになっている。
 例えば、男女同じデザインのジャケットや女子用スラックスを採用するなど、性差を感じさせない制服にする。また、着こなしも性別でアイテムを絞らず、カーディガンやベスト、ネクタイ、リボンなどの組み合わせも自由に選択できるようにする学校が増えている。実際、ある制服メーカーの最近の調査によれば、すでに半数近くの学校が女子制服のスラックスを選択できるようになっているという。
 もともと明治時代に始まった学校制服は、男女それぞれに求めるイメージを象徴したものだった。だが、時代が進むに連れて性別による役割分担の意識が変わってきたことで、従来のままの価値観の学校制服を着ることに重荷を感じる子どもたちが多くなってきたこと。加えて、SDGsでは「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指していることから、学校教育においても学生一人一人の多様性を尊重し、個性が活かされていけるような教育にシフトしていくことが重要になっているからだ。
 特に社会と切り離された学校は、ほんの数年前まで男女で異なった教科が存在するなど時代の変化に追い付いていない傾向があった。それゆえ、制服の見直しやモデルチェンジをきっかけに、旧来の常識や習慣に偏りがちな教職員の意識をマインドセットしていくことが期待されている。

 このような多様性を尊重する意識改革は、「みんなが一緒に学ぶ」ということを提唱するインクルーシブ教育の視点、理工系分野における女性の活躍推進を図る意義においても重要な視点となる。また、生徒にとっても身近な制服をきっかけに、性別、年齢、国籍などが違う人々に、それぞれの個性や能力に応じて活躍できる場を与えようという考え方=ダイバーシティ&インクルージョンを学ぶ題材としても注目される。
 すなわち、これからの予測が困難で答えのない時代に日本がこれまでと同様に世界と競っていくためには、画一的な考え方を求める教育から脱皮し、誰もが平等にチャレンジできる機会を与え、新たな発想やアイデアを創出する人材を育成しなければならないことが根本にある。

機能性や付加価値を高める商品開発

着せ替えアイテムやバッグなどで差別化も
 近年では中学校においても、公私立問わずモデルチェンジ熱が高まっている。その中では、詰襟・セーラー服からブレザー服への移行はもとより、高校と同じく学校のアイデンティティを体現するオリジナルデザイン制服が人気を呼んでいる。そこでは、学校の魅力化を高める、季節に合わせたブラウスやセーター、パーカー、ポロシャツなどの着せ替えアイテムはもちろん、ネクタイ、リボンで正装とカジュアルを使い分けることで個性を表現する、今の学生のファッション感覚に合った着こなし方の変化も楽しめるような提案も始まっている。
 あるいは、コートやバックといった制服まわりの商品のバリエーションへの要望も多くなっている。しかも、その中では小中一貫校や義務教育学校が増加していることを受けて、6年間の着用を想定した耐久性が高くサイズ調整が可能なコーディネートにも目を配る必要も生まれている。
 それゆえ制服メーカーは、学校らしさや文化を理解することと併せて学生へのヒアリングを実施。各学校におけるニーズをしっかり把握した上で、制服のデザインやTPOごとの着こなし方も提案するようになっている。
 また、学生服全体としては、着心地のよさや手入れのしやすさを追求する機能性を高めた商品開発が活発になっている。たとえば、今では当たり前となった家庭の洗濯機で洗えるウォッシャブルやノーアイロンを筆頭に、高ストレッチで動きやすい生地、撥水、速乾、防シワ加工、コロナ禍でニーズの高まる抗菌・抗ウイルス加工を施した商品。最近では花粉やにおいに悩む学生に向けた防臭効果を発揮する商品なども開発されている。

サスティナブルなスクールユニフォームづくりへ
 さらに、コロナ禍においては、訪問営業とリモート営業のハイブリッド化や、学校に向けたオンライン展示会やWEBによる受注システムの強化。家庭でも可能な「AI自動採寸」の精度向上などサービスの向上に取り組んでいる。こうした取り組みや顧客管理は、受注活動から生産、物流までの流れをスムーズに行うことにもつながり、事業の効率化を引き出すきっかけにもなっている。
 一方、企業においては「環境・社会・経済」という3つの観点すべてにおいて持続可能な状態を実現するサステナビリティー経営が求められる中で、制服メーカーも繊維原料の再資源化や環境配慮素材の開発に力を入れている。特に「SDGs教育」が重視される学校に向けては、大きな課題である環境保全に貢献するアフターケアの充実からはじまり、着用済み制服の回収からレンタルするといった制服のリサイクルにも乗り出している。
 加えて、時代のニーズや子どもの変化に対応した教育内容・指導の導入が学校に求められる中で、学生服を通じで学校教育と関わる「チーム学校」の一員としての役割を担うことが重要になっている。そのため、制服メーカーならではの着こなし方を指南するセミナーはもちろんのこと、グローバル化を踏まえたキャリア教育や多様性理解、非認知能力育成、探究学習、安全教育、防災教育など、今日の学校の課題となるテーマを解決するためのソリューション事業も積極的に打ち出すようになっている。

企画特集

連載