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地震や風水害に備え、防災機能の迅速化を

10面記事

企画特集

 災害時に地域の避難所を担う学校施設は、いつ、どこで起きても不思議ではない大地震に備えて防災機能を強化していかなければならない。併せて、近年では予想を超えた風水害が頻発しており、気候変動を踏まえた新たな対策を講じていく必要も生まれている。そこで、災害に強い学校施設をつくるための具体的な対策について紹介する。

「減災」の要となる避難所機能の充実

避難所として必要な機能の確保を
 これからの学校施設には、子どもたちの多様なニーズに応じた教育環境の向上と老朽化対策の一体的整備が必要となっている。そこでは今後100年持つ長寿命化改修を視野に、トータルコストを縮減する計画的・効率的な施設整備を推進していくことが求められている。その上で、同時かつ迅速に進めていかなければならないのが、頻発化・激甚化する風水害や切迫する大規模地震などの災害から、子どもや教職員、地域住民を守る防災機能の強化にほかならない。
 また、過去の大規模災害における避難所では、発災直後の対応と同等に、数日間または長期化したときの被災者の命を守る減災対策が極めて重要であることが分かっている。例えば、東日本大震災では学校の体育館を避難所として使用する体制が整っていなかったため、被災者を受け入れる上でのさまざまな不具合や不便が生じた。加えて、避難所としての利用が長期化し、教育活動と避難生活が併存する学校が多数発生。今後の学校施設の整備に当たっては、教育活動と避難生活の共存を想定しながら、早期に学校教育活動を再開させるための対策を講じる必要性が明らかになった。
 また、熊本地震では備蓄倉庫や太陽光発電等の施設設備が役立った一方で、トイレや電気、水の確保等において課題が残ったほか、空調やプライバシーの配慮、食中毒の発生、ペット問題等、避難所としての良好な生活環境の確保が求められた。
 さらに、近年では台風や豪雨の頻発・激甚化によって避難所として体育館が使用されるケースが全国的に増えており、これまでの教訓をもとに円滑な運営方法の確立と防災機能を強化していくことが必要になっている。

国の重要インフラとなる体育館の防災機能
 こうした災害に強い学校をつくるための大きな財源になっているのが、政府が15兆円規模で実施する「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策(25年度まで)」だ。本政策において学校施設は国の重要インフラの一つとして重点化して進めることが掲げられており、これまでも自治体によって整備状況の格差が目立っていた吊り天井の落下防止対策や普通教室の空調設置、ブロック塀の改修等が一気に進められた経緯がある。
 したがって、文科省では来年度も引き続き事項要求として予算を獲得するよう図っており、非構造部材(内・外装材、照明器具、窓ガラス等)の耐震対策や避難所としての防災機能強化(トイレ改修等)を主要課題として、より一層改善を進めていく意向を示している。
 中でも、災害時に避難所となる体育館の防災機能の強化は喫緊の課題となっている。例えば体育館の空調設置率は15%にとどまっており、教室棟と比べると著しく遅れている。また、インクルーシブな教育環境の実現が目指される中で欠かせないバリアフリー化も、高齢者・要配慮者が利用しやすい通路の段差解消やスロープの設置などが十分とはいえないのが実態だ。

電気・ガスが停止した場合の備えが重要
 ほかにも避難所生活が数日間に及ぶことを想定したトイレ改修では、洋式化や多機能トイレの整備に加えて、断水時や下水道が破損した場合でも使用可能なマンホールトイレの整備。電気の供給がストップした際、ライフラインを維持するために必要な可搬型または据付式の非常用発電機と燃料を確保すること。太陽光発電設備を整備する場合には、停電時においても自立運転できる機能や、貯めた電気を夜間にも使える蓄電機能を備えておくことが望まれている。
 また、都市ガスの供給地域では、都市ガスの供給が止まってしまった場合に備えて、LPガスでも利用できるようにする変換器やLPガスを備蓄しておくこと。あるいは、非常用発電機やLPガスの確保に当たっては、民間事業者等と協定を締結し、災害時に利用できるようにしておくことも視野に入れる必要がある。
 非常時の通信手段の確保としては防災無線のほか、避難者が電話や電子メール等で安否確認等を行える公衆Wi―Fi設備の整備などを迅速に進める必要がある。併せて、平時から熱中症対策として重宝するスポットエアコン、大型扇風機、サーキュレーターのほか、コロナ禍の感染症予防対策となるサーモグラフィー、CO2モニター、空気清浄機を含めた各種衛生関連機器の導入も進めていくべきだ。

断熱化改修で良好な室内環境と省エネを実現
 一方、避難者が生活するための室内環境の改善には、冷暖房機器を新たに導入するだけでなく、建物自体の断熱化を図っていくことが重要となる。なぜなら、既存体育館の多くは断熱性能が確保されておらず、冷暖房効率が悪いことが課題となっているからだ。学校関係者なら誰でも経験済みだが、夏期は通気性が悪いため室内に熱気がこもり、冬期は凍えるような寒さになるのが実態となっている。
 したがって、学校設置者が体育館の老朽対策を実施する際には、子どもたちの健康の保持増進、応急避難場所となる可能性を考慮し、室内環境の改善を行うとともに、環境負荷の低減や自然との共生を考慮した「エコ改修」を進めていくことが求められている。
 では、具体的にどのように建物の断熱化を図っていくかというと、例えば室内温熱環境の改善としては、建物の断熱(外断熱、天井、壁、内窓、複層ガラス等)、日射遮へい、気密性能の向上(冬期)、床面からの高低差による温度差を利用した自然換気の確保(夏期)の工夫。室内光環境の改善には、ハイサイドライトなどからの昼光の積極的利用や運動の支障となる直射日光の遮へい。エネルギーの効率的利用には、照明器具の省エネ型への交換や、明るさ不足の箇所のみを点灯させるゾーン制御、太陽光発電、太陽熱利用、雨水利用設備などの自然エネルギーの活用が必要となる。
 こうした建物の断熱性能の向上は、同じ暖房設定温度でも体感温度は2~3度高くなるとともに、冬の夜間の室温と壁面温度は10度以上に保たれるため、朝方の暖房立ち上がり時の負荷が低減され、同じ暖房設備機器でも早く温まる効果があることが分かっている。しかも、年間のCO2排出量が4割近く減少した実証結果もあるなど、建物の断熱化等を実施することは、良好な室内環境を実現するとともに、環境負荷の低減にも貢献できるといえる。

頻発化する水害への本格的な対策を
 近年では気候変動に伴う大雨や短時間強雨によって、学校施設においても校舎や体育館への浸水等の被害が発生しているほか、土砂災害の発生回数も増加傾向にある。しかし、公立学校の3割が浸水想定区域・土砂災害警戒区域に立地している中で、学校施設内への浸水対策や受変電設備の浸水対策などハード面の対策を実施している学校は約15%しかないこともあり、文科省では本格的な検討に乗り出している。
 昨年6月に公表した「水害リスクを踏まえた学校施設の水害対策の推進に向けて」の中間報告では、水害は気象情報によって事前避難などの対応が可能になることから、必要となる施設設備における対応やその分担を示したタイムラインをあらかじめ作成し、関係者において共有しておくことや、そのための学校施設を活用した実践的な防災訓練が大切になるとしている。
 水害リスクを踏まえた対策の実施としては、想定最大規模(千年に一度の降雨)だけではなく、より発生の確率が高い浸水想定にも着⽬して対策を検討しなければならないと指摘。したがって、学校設置者は治水水と連携し、学校周辺地域の想定浸水深、発生確率、浸水継続時間の情報を整理し、事前避難等によるソフト面と施設整備によるハード面の両面から水害対策を実施する必要があるとしている。

学校が浸水したときの備え~電源設備の高所移転も~
 具体的な対策として必要になるのが、まずは児童生徒等の安全を確保することである。それには学校施設が浸水したときに備えて、上階や屋上に待機する場所や、学校周辺の高層建物への避難などを想定しておくことだ。同時に、要配慮者の垂直避難のためのスロープや、エレベーター等の整備など避難路のバリアフリー化を進めることも重要になる。
 加えて、防災拠点としては受変電設備や非常用発電機を浸水させないことも考えていかなければならない。そのため、大規模改修時はかさ上げや高層階への移転も進めていく必要がある。また、土砂災害特別警戒区域に指定されている学校には、外壁等の改修や、校舎等の周囲に土砂を有効に遮る壁体の設置などを実施することが求められる。
 こうした中、水害から学校を守るために対策を施す自治体も増えている。例えば、校舎全体の床を高くし(高床構造)、校庭を低く設定することで建物自体の水没を防ぎ、避難時間を確保する。短時間に局地的な大雨が降った場合における学校建物内への浸水や敷地近辺への雨水流出を抑制するため、校庭の地下に雨水貯留槽を設置する。屋内運動場で、ひざ下程度の浸水が発生した経験がある学校では、浸水の可能性が高い箇所に脱着式のステンレス製止水板を設置した。止水板は、通用門や屋外にある電気室の出入口に設置した例もある。
 また、過去に電気設備が浸水した学校では、地盤面から70cmのかさ上げを実施したり、大規模改修の実施に併せて、受変電設備の上階への移設を行ったりした学校もある。あるいは重要書類を保管している職員室への浸水を防ぐために、2階の会議室に配置換えを行った学校や、重要書類をデータ化してデータセンター内のサーバーに保管している学校もある。
 その上で個々の学校における具体的な対策では、施設の脆弱性の内容に応じて、次のような水害対策を講じることを挙げている。緊急時に児童生徒等の安全を確保する対策としては、上階や屋上待機、学校周囲の高層建物への避難など安全が確保できる場所を設けることや、要配慮者の垂直避難のためのスロープや、エレベーター等の整備など避難路のバリアフリー化を進めることなどだ。
 また、施設内への浸水を防⽌する対策としては止水板を設置することや、受変電設備や非常用発電機は浸水すると校舎や屋内運動場へ電気を送ることができなくなるため、かさ上げやなるべく高所に設置・移転すること。重要書類を保管している職員室等は上階へ配置すること。加えて、土砂災害特別警戒区域に指定されている学校には、外壁等の改修や、校舎等の周囲に土砂を有効に遮る壁体の設置などを実施することを求めている。

被害を最小限にとどめる「減災」に向けて
 過去の大規模災害を振り返ると、必ずといっていいほど学校施設が地域防災の要となっていた。実際に被災した人はもちろん、そうでない人でも脳裏によぎるのは、学校の体育館に着の身着のままで避難した人々が肩を寄せ合うように過ごす様子を伝えるニュースだ。こうした状態で生活すること、場合によっては何日間、何十日も過ごさなければならないことを考えると、一刻も早く避難所機能を強化しなければならない切実な理由が見えてくる。だからこそ、近年では発災時に人々の命を守る「防災」だけでなく、被害を最小限にとどめる「減災」の重要性が指摘されている。
 自然災害が起きることを防ぐことはできない。わたしたちにできるのは、これまで起こったことを教訓にし、それを次の災害時に活かすことだ。今、災害が起きたら何をどう準備するのか、避難所の運営は誰がどう指示するのか、非常時用の設備は本当に使えるのかといった、本当の意味での防災対策・訓練を重ねつつ、その日のために準備することが大切になる。

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