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小・中・高の英語授業改革を目指して 明海大学・朝日大学が現場向けセミナー開催

13面記事

企画特集

 小学校から高校までの英語教育に関する研究成果を広く公開し、地域の英語教育改革推進に役立ててもらう「2022 英語授業改革セミナー『本気で授業改革!』」(共催=明海大学、朝日大学)が8月26日、千葉県浦安市の明海大学で開催された。会場とオンラインを合わせて約240人が参加。基調講演や校種別の指導法ワークショップを通して授業の新たなヒントを得た。

基調講演「どんな力を児童・生徒に身につけてもらいたいのか?」
松本 茂 東京国際大学教授、立教大学名誉教授

 冒頭の開講式では、主催者がビデオメッセージで挨拶をした。明海大学の安井利一学長は「本セミナーは5回目となる。大学での英語教育分野の研究を、地域の英語教育改革推進に活かすのが目的。大学教員がファシリテーターとして参加し主体的に作り上げている。大いに盛り上がってほしい」と述べた。
 朝日大学の大友克之学長は「社会情勢の変化に伴い、知識・技能、思考力や判断力、主体性のある協働力、英語運用能力も求められており、小・中・高を通じて養う必要がある。2050年ごろには日本は多文化、多言語の環境になり外国語でコミュニケーションをとる機会も増える。本セミナーで実践的な授業改善のノウハウを学んで活用してほしい」と述べた。
 基調講演は、東京国際大学教授の松本茂氏が「どんな力を児童・生徒に身につけてもらいたいのか?」をテーマにこれからの授業設計のポイントを解説した。
 松本氏は、児童生徒が英語を最初は楽しく学んでいても、次第に受験科目として捉えるようになり「自分と他人をつなぐコミュニケーション媒体であることを実感する前に挫折してしまう」と指摘。英語を「使うために学ぶ」という教育観に基づいた授業設計が必要だと強調する。

従来の授業の常識を疑う
 国の英語教育実施状況調査などの調査から、英検準2級レベル以上の高校3年生の割合は低調で、特に「話す」「書く」の発信に弱いと解説。「日本人のほとんどが英検3級から準2級レベルで、しかも話せないレベルに留まっているのが現状」だという。こうした状況を変えるためには、高校の英語の授業の4つの「常識」を疑うべきだとした。
 一つ目は「英語はコツコツと積み上げる学習」という常識だ。留学で英語が身に付くのは、集中的に学習する時間が確保できるからだという。国内であっても「3カ月程度の短期集中的な学習で挽回できる」という。
 二つ目は「文型・文法が基礎」という常識。ターゲットセンテンス中心で未習事項を避ける指導ではなく、予測させながら学ばせ、後から文法を整理する方法でもよいと提起する。
 三つ目は「単語は文脈から切り離した英和対応が効率的」という思い込みだ。1つの単語に対して1つの日本語を対応させる覚え方ではなく、「どのような文脈で使われるのかをセットで指導して定着させる指導も成立する」と言う。
 四つ目は「単語が分からないと理解できない」。分からない単語があっても、内容の背景知識があれば読み進められることから、生徒の興味や関心のあるジャンルの英文を読み続ける「背伸びをする学習」を勧める。「検定教科書は毎回トピックが異なる。いろいろな題材を読んでほしいという作り手の意図は理解できるが、学習者には同じトピックで学習してほしい」と述べ「生徒の皆さんには自分の興味のある英文を3カ月ぐらい徹底的にやってみたらと伝えたい」と、教員だけでなく生徒にも発想の転換を求めた。

発声・発音もポイントに
 今後、小・中・高で指導してほしいことの一つとして松本氏は「発声」や「発音指導」を挙げた。いくら読む力や書く力があっても、声が出ていなければ相手に伝わらない。日本語は口を大きく開かなくても発音できることから、そのままで英語を話しているケースが多いという。「あごの筋肉を柔らかくし、口を開ける感覚を小学生から教えてほしい」と、松本氏は早期の発声・発音指導を求めた。また、英語を聞きながら真似して発音するシャドウイングより、聞き終えてから繰り返すリピーティングで練習するほうが有効だと提案した。
 大学ではすでに「英語で学ぶ」時代に移行しつつあることから、高校のうちに英語で何を学ぶかの動機付け、英語で活動する体験をさせてほしいとも語った。
 会場からは「聞く力や読む力はあるのに、とっさに話す・書く力とのバランスが悪い。指導の時間配分に悩む」との質問が寄せられた。松本氏は学習者の「読む・聞く」と「書く・話す」の力には開きがあることを述べたうえで「結局はやらないとできるようにならない。読む内容よりもレベルを下げ、段階ごとに達成感を持たせることが必要」だと助言した。社会人向けの英語学習教材では「瞬発力」がキーワードになっていることから、学校教材以外のテキストも参考になると加えた。

ワークショップ
高校の観点別評価や小・中接続で実践例

3観点に基づいたテスト試案を検討
 午後のワークショップでは校種により4会場で、英語教育を専門とする大学教員がファシリテーターとなり授業改善の具体的なノウハウを提供した。
 高校のワークショップ(A)では「困っていませんか? 観点別評価―明日から使える評価手法のabc―」のテーマで、亀谷みゆき氏(朝日大学経営学部英語教育センター教授)と児玉靖明氏(同准教授)が理論と実践例を紹介。参加者は新学習指導要領が求める指導と評価の一体化を目指したテスト問題の作成に挑戦した。
 教育課程全体の設計としては、まずCan―Doリスト形式での学習到達目標を年間指導計画に落とし込み、各単元の目標を設定する。「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に基づき評価規準や方法を定め、毎時の学習指導計画を作成する流れを確認した。
 その際は「できるようになる」目標を立てるのが重要だという。「教科書の内容をどれだけ理解したかではなく、学習したことを実際に活用することを目標とし、活用力が身に付いているかを評価すること」と亀谷氏。参加者に実感してもらうため、「読むこと」の問題文をグループで検討した。
 亀谷氏は「単元と目標、評価規準が先生同士、また先生と子どもとで共有できていることが重要。難しいと思ったら遠のいてしまう。まずは一歩踏み出してほしい」と、観点別評価への積極的な取り組みを促した。


ワークショップ(A)亀谷 みゆき 氏(左)と児玉 靖明 氏(右)

 熊本大学教育学部准教授の岡崎伸一氏がファシリテーターを務めたワークショップ(C)「小中接続のリタラシー指導」のワークショップでは、英語の中1ギャップ解消に向けた中学校での授業改善が提案された。
 中学だけでなく、小中一貫校の勤務経験もある岡崎氏は英語における中1ギャップを「単語や文章が読めない、書けない苦手さ」と定義づけ、小学校段階で親しんできた音声面の力と文字を結びつけるための方法を紹介した。アルファベット文字と、そこに含まれる音素への気づきを知る「音素体操」や、大文字から小文字への指導、絵本読み、夏休みの補習などの実践を報告した。音と文字が結びつき教科書を音読できるようになれば、生徒の自己肯定感が高まり、中1ギャップの解消につながるという。


ワークショップ(C)岡崎 伸一 氏

 ワークショップはこの他にも(B)「中高授業における『ラジオ英語講座』活用法」(明海大学・百瀬美帆教授)、(D)「小学校『外国語』の指導と評価―教科化3年目の今こそアップデート!―」(愛知県立大学・池田周教授)の各テーマで行われた。各ファシリテーターは90分のワークショップを同一内容で2回実施。参加者が1日で複数のワークショップに参加できるよう、プログラム上の配慮もあった。


ワークショップ(B)百瀬 美帆 氏


ワークショップ(D)池田 周 氏

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