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子どもたちを安心安全に送迎するには

6面記事

企画特集

バスに乗車する子どもたちを添乗員が一人一人確認

保育者がゆとりを持てるシステムに
田澤 里喜 玉川大学教授(東一の江こども園園長)


田澤 里喜(たざわ・さとき)
 玉川大学教授、(学)田澤学園東一の江こども園園長。専門は遊びを中心にした保育現場における保育方法、実践の研究。

 昨年、静岡県牧之原市の認定こども園で発生した送迎バスに取り残された園児が亡くなった事故を受けて政府が緊急対策をまとめるなど、これまで以上に幼稚園・認定こども園・保育所等の送迎バスの安全管理徹底が求められている。3月まで弊紙の幼稚園・保育園面で連載を執筆していた玉川大学教授でもある東一の江こども園の田澤里喜園長に、送迎バスの安全対策で求められることなどについて聞いた。

 ―全国で相次いで発生した園の送迎バスの置き去り事故について、その要因をどのように考えていますか。

 田澤 考えられる要因は四つあります。一つ目は、送迎バスの運行は毎日のことですので、どうしても気が緩んでしまうことがあると思います。
 二つ目は、園の職員が子どもたち一人一人のことをどれだけ知っていたのかということです。きちんと知っていれば「○○君、○○ちゃんがいない」とすぐ分かります。
 三つ目は、職員間の連携がどれだけできていたのかということです。連携できていれば「あれ○○君、○○ちゃんがいないね。誰か知らない?」というようになり、事故を防止できたのではないかと思います。
 四つ目は、こうしたことを毎日繰り返すことができるシステムになっていたかということです。園長を務める東一の江こども園では、スマートフォンで使用できるアプリケーションを導入するとともに、運転手、添乗員、担任の役割をはっきりさせて、シンプルなシステムにしています。

 ―東一の江こども園で実施されている安全対策について詳しく教えてください。

 田澤 保育ではやるべき業務が多いので、合理化できるところは合理化するようにしています。そこでアプリケーションを導入し、子どもの出欠席管理を一元化して職員全体で共有しています。
 アプリケーションは、パソコン版とスマートフォン版があるものを使っています。園のパソコンとバス送迎時に添乗員が持つスマートフォン、保護者のスマートフォンに入れており、出欠やバス利用の変更、迎えに来る保護者の変更などを入力・確認できるようになっています。GPSにより、バスが走行している位置も確認することもできます。

 ―東一の江こども園の送迎バス運行の詳細について、詳しく教えてください。

 田澤 職員は朝出勤すると、必ずアプリケーションの登園管理システムをチェックします。そこで、子どもたちの出欠や送迎バス乗車の有無などを確認します。その後、バスの添乗を行います。
 1番バスが運行を開始すると、コースごとに停留所を回って子どもたちを乗車させていきます。もし、乗車予定なのに来ていない子どもがいる場合には、その場で待つようにしています。決められた時間まで待っていても来ないようであれば、添乗員は園に確認の電話をしてから、保護者に電話をします。そこで話を聞き、園に電話で伝えてから次の停留所に向けて出発します。園に戻り、乗ってきた子どもたちを降ろすと、2番バスの運行に移ります。
 2番バスの子どもたちを降ろした後には、運転手がモップで車内を掃除、添乗員が座席の消毒をしながら子どもが残されていないかを確認し、バスの最後部に置いたチェック表にチェックして朝の運行を終えます。添乗員はフリーの保育者として、保育に入ります。各クラスでは担任が出欠を確認し、子どもたちの体調などを確認します。
 帰りのバスについては、担任が該当するバスに乗車する子どもたちを確認して乗車待機場所に連れてきた後、添乗員が一人一人名前を呼んで乗車させていきます。
 保育中に保護者から「帰りは迎えに行くので、バスへの乗車が必要なくなりました」などの連絡が入ることがあります。その場合は事務職員がアプリケーションに入力するとともにメモを書いて担任に渡し、担任から子どもに伝えます。変更は乗車待機場所に貼り出し、乗車する子どもをダブルチェックして正確に把握できるようにしています。
 乗車予定の子どもが全員乗り込んだことを確認すると、出発します。各停留所を回り、子どもたちを降車させて保護者に引き渡していきます。
 子どもを引き渡すのは登録された保護者だけです。変更がある場合には、そのことを必ずアプリケーションに書き込んでもらうようにしています。登録された保護者が停留所にいない場合には、子どもをバスから降車させず、園に戻します。その後、保護者に連絡し、園に迎えに来てもらうようにしています。
 このようにして帰りの1番バス、2番バスの運行を終えると、朝と同じように運転手がモップで車内を掃除、添乗員が座席の消毒をしながら子どもが残されていないかを確認し、最後部に置いたチェック表にチェックして運行を終了します。

 ―国の送迎バス運行に関する安全対策と安全装置義務付けについて、先生の考えを聞かせてください。

 田澤 安全装置などの機械は「安全を守るのは保育者、運転手、添乗員」ということを大前提に導入するものだと思います。そのことでゆとりは生まれると思いますが、それが気の緩みにならないように日ごろから気を付けることが大切になります。

 ―送迎バスを含め、事故を防ぐために園や保育者に求められることについて先生の考えを聞かせてください。

 田澤 「自分が子どもの安全を守る人だ」という意識を常に持つなど、機械任せにしたり、他人任せにしたりするのではなく、安全対策を「自分事」にすることが求められます。だからこそ、保育者がゆとりを持てるシステムや方法を園として考えることが必要です。


実際に運行している送迎バス

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