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未来の可能性を広げるeスポーツを活用した次世代育成を eスポーツ国際教育サミットを開催

9面記事

企画特集

生徒たちへグループインタビュー(筑波大学・清野準助教授)

NASEF JAPAN

 STEAM教育の推進やデジタル人材育成を支援するNASEF JAPAN(特定非営利活動法人 北米教育eスポーツ連盟 日本本部)は、『第4回NASEF JAPAN eスポーツ国際教育サミット~未来の可能性を広げよう~』を、3月31日に同連盟の公式YouTubeチャンネルよりオンライン配信した。ここでは、ゲストによる講演の中から、実際の高校におけるeスポーツ部の活動事例と、大学と連携した共同研究を紹介する。

教育利用への現状と課題をテーマに

地域に貢献する活動を目指す、eスポーツ部活動
 世界的なeスポーツ人気の高まりとともに、教育現場でもSTEAM教育とかけ合わせ、新たな次世代教育として活用していこうという機運が高まっている。その中で、熊本県立松橋高等学校の「松高DX部」は、eスポーツだけでなく、地域に貢献する活動を目指しているのが特徴だ。顧問を務める松本康弘教諭は「eスポーツ、デジタルボランティア、デジタル防犯の3つを柱に活動している」と説明する。
 そもそも、こうした新しい部活動を創設したきっかけは、同校の定員割れが課題となる中で、市や企業関係者と打開策に向けた話し合いが行われたのが始まりだった。2022年4月に部員募集を行い、現在19名が在籍。これまでに地域の高齢者のためにスマホの使い方を教えるボランティアや、振り込め詐欺の防止を啓発する屋外活動、マイナンバーカードの普及動画の作成などに取り組んでいる。
 「地域の方にありがとうと感謝されてうれしかった」「人の前で話すのが苦手だったが、勇気をもらえた」と意気揚々と語る生徒たちの声を紹介。すでに特別養護老人ホームからオファーが届いているなど、松本教諭も手応えを感じており、「今後は、他の団体が開催しているイベントに協力するだけでなく、自ら主催として開催する可能性を探っていきたい」と抱負を語った。

eスポーツ部活動の教育的意義とは
 同連盟では、大学と連携してeスポーツに関するさまざまな共同研究を実施している。その一つ、筑波大学体育系/スマートウエルネスシティ政策開発研究センターの清野隼助教授は、eスポーツ部活動が高校生にどのような教育的意義をもたらしているかについて、実際に活動している生徒たちへのグループインタビューをもとに調査していることを中間報告として発表した。
 まず、第一弾として実施した顧問の教員への調査から、学校教育でeスポーツ活動を行うことに批判はあるものの、非認知能力や自己管理能力の向上、コミュニティの成長などを掲げて活動している学校があることに言及。そして、地域貢献や全国への活動発信といった社会とのつながりを強化していくことで「負の価値観を変革していく解決策の一つになり得るのではないか」との見解を示した。
 その上で、今回の生徒への調査から「相手にわかりやすく伝える力が上がった」「将来の進路を決める影響があった」「ゲームすることによって、思考力やコミュニケーション力も付いてくる」「ゲーム仲間ができると学校に通いやすくなる」といった意見を引用して紹介。熱意を持った話から、現時点でも生徒の成長に寄与していることが感じられると語った。
 ただし、教育的意義を明らかにするためには、睡眠不足やゲーム中毒といった、生徒たちの健康へのリスク対策も考えていく必要があると指摘。たとえば、eスポーツ部の部活動を健全に行うためのガイドライン(案)では、「学校でのゲーム時間を取り決める」「ルール違反を犯した際の対応を開示する」「プレイ行動を常にモニタリングしてレビューする」といった方法も考えられていると述べた。

子どものゲーム利用に与える保護者の影響を分析
 同じく共同研究を進めている東京理科大学の柿原正郎教授は、子どものゲーム利用に対して最も近くで強い影響を与える存在が保護者であることを踏まえ、小・中・高校の子どもを持つ保護者2千名のデータをもとにゲームに関しての親と子の関わりが子どもにどういう影響があるかを読み解いた。
 今回の調査では、子どもの8割がゲーム利用者という状況の中で、ゲームやeスポーツの教育効果に期待していない親は4割も占め、水泳やピアノなどの習い事よりも非期待層が圧倒的に多いことが課題と分析。「教育効果に対する期待を押し上げるためには、eスポーツの具体的な内容を理解していない8割に及ぶ親への理解の浸透がカギになり、親に対するポジティブ面の情報発信と共有が急務になる」と指摘した。
 また、教育効果を上げるためには、子どものゲーム利用に対する親の介入行動のあり方が重要になると説き、制限的なルールを与えるだけでなく、ゲームに関する子どもとの「対話」や「体験の共有」もすることで、より教育効果をもたらすと見解を述べた。
 その上で、ゲームやeスポーツの将来の発展には各種ステークホルダーによる取り組みと連携が必要と提言。そのためにも、「エビデンスをもとにした意識改革とアクションに期待したい」と語った。


共同研究を発表する様子(東京理科大学・柿原正郎教授)

学生にプロの現場を体験する機会を提供
 今回の開催ではキャリア教育の一環として学生ボランティアを募集した。次世代動画メディアのプロを育成する専門学校に通う1年生は、学校内でのゲームイベントで動画の編集・配信に携わったことがあるものの、プロが働く現場を体験するのは今回が初めて。「将来、大きなゲームイベントの運営を手がける夢がある中で、貴重な機会になる」と応募動機を語る。
 さらに、同サミットのテーマである教育現場でのeスポーツの活用についても「この分野では若い世代から次々とプロが輩出されている。そうした意味でも、中高生の早い段階からその価値を知り、可能性を感じる機会が持てるのはよいことだと思う」と指摘。eスポーツを通じた将来のデジタル人材の育成に期待した。

 こちらのURL(https://youtu.be/7FqKnU1c5b0)から同サミットを視聴できます。


学生がNASEF職員からカメラ撮影の説明を受ける

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