日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

性教育で求められる内容と生命(いのち)の安全教育の重要性

トレンド

特集 教員の知恵袋

 日本の学校教育では、学習指導要領に基づいて子どもたちの発達状況に合わせた性に関する指導、いわゆる“性教育”を行う必要があります。

 また、子どもたちが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないように指導を行うことも重要です。この背景には、SNSを利用した子どもへの性被害が増加していることが挙げられます。

 今回は、学校教育における性教育と“生命(いのち)の安全教育”について解説します。

学校教育で行われる性教育

 学校教育においては、学習指導要領に基づいて体育や保健体育といった関係教科で性教育の指導が行われてきました。性教育では若年層の人工妊娠中絶や性感染症の増加などの問題を踏まえて取り組む必要があります。

 ここでは、学校教育における性教育の内容と指導の際の留意点を紹介します。

性教育に求められる内容

 性教育は、体育や保健体育だけでなく、道徳、特別活動など学校教育活動全体を通じて取り組むことが重要です。

 例えば、身体の成長や性感染症などの科学的知識に関しては保健、性についての倫理的な内容や人間関係の重要性については道徳、特別活動で指導するといった振り分けを行います。

 小学校・中学校・高等学校の段階別の性教育の内容は以下のとおりです。

小学校
・初経、精通が起こること、身体の発育や発達について理解する
・自分の健康状態に興味を持つとともに、問題を見つけた際に自分で判断して処理する力、心身の健康を保持増進する態度を養う

中学校
・射精や月経が始まること、受精・妊娠について取り扱う(※ただし妊娠の経過については取り扱わない)
・エイズや性感染症のリスクのほか、性的接触をしない、コンドームを使用するといった予防方法も取り扱う

高校
・思春期に起きる心身の発達、性的成熟によって起きる身体面、心理面、行動面の変化や、それによって起きる健康課題について理解する
・妊娠・出産や、それに伴う健康課題、人工妊娠中絶の心身への影響などを理解する

出典:文部科学省『学校における性に関する指導について』『4.その他-健やかな体を育む教育という観点から,今後,学校教育活動全体で取り組むべき課題について-

性教育で指導する際の留意点

 性教育で性に関する指導を行ううえでは、いくつか留意点もあります。指導を行う際は、一人ひとりの心身の発育・発達に個人差がある点に留意して、児童・生徒の実態に基づいた指導を行うとともに、以下の点に留意します。

性教育で指導を行う際の留意点
・教職員の共通理解を図り、児童・生徒の発達段階を十分に考慮する
・保護者や地域の理解を十分に得たうえで、家庭や地域との連携を推進する
・集団指導と個別指導の内容の区別を明確にする など

出典:文部科学省『学校における性に関する指導について』『4.その他-健やかな体を育む教育という観点から,今後,学校教育活動全体で取り組むべき課題について-

生命(いのち)の安全教育の重要性

 性教育と同様に、今後の学校教育で重要となるのが、生命(いのち)の安全教育です。

 2021年4月、文部科学省は“性犯罪・性暴力対策の強化の方針”に基づいて幼児、小・中学生、高校生を対象とした『生命(いのち)安全教育』に関する教材や指導資料をまとめ、ホームページ上で公開しました。

 ここからは、生命の安全教育が重視される背景とともに指導内容を紹介します。

出典:文部科学省『性犯罪・性暴力対策の強化について

子どもが被害者となる性犯罪の増加

 近年日本において、SNSを利用した子どもの性被害が増加傾向にあります。なかでも、児童ポルノ被害の約4割は“児童が自らを撮影した画像に伴う被害”です。

 児童が脅されたり、騙されたりして、自身で撮影した裸体画像を送らされる被害が増加している現状があります。実際に起きた被害の例は以下のとおりです。

・SNSで知り合った男に言葉巧みに誘導されて、自分の裸の画像や動画を送らされた
・交際相手に要求されて自分の裸の画像を送ったら、インターネット上に画像を拡散された

 学生がスマートフォンを所有するのが当たり前となった今、これらのような被害が今後も増加していくことが懸念されます。

出典:政府広報オンライン『SNS利用による性被害等から子供を守るには』/警察庁『STOP!STOP!

生命の安全教育の内容

 生命の安全教育を行うにあたり、文部科学省は各学校の判断によって活用できる教材や指導の手引を公開しています。

 教材で示される内容は以下のとおりです。

幼児期
・“水着で隠れる部分”は自分だけの大切なところ
・嫌な触られ方をした場合の対応 など

小学校
・相手の大切なところを見たり触ったりしない
・SNSを利用する際の注意点(※高学年) など

中学校
・性暴力やデートDVについて
・性暴力の被害に遭った場合の対応 など

高校
・自分と相手を守る“距離感”
・二次被害について など

高校卒業前、大学、一般
・身近な被害の実態
・性暴力が起きないようにするためのポイント など

 なお、文部科学省は保護者向けにも生命の安全教育に関する資料を公開しています。学校での指導と併せて、各家庭で参考にしてもらえるように保護者と情報を共有することも重要です。

出典:文部科学省『性犯罪・性暴力対策の強化について』『生命(いのち)の安全教育について ~保護者のみなさんへ~

子どもを性犯罪・性暴力から守るために求められる性教育と生命の安全教育

 子どもが成長するうえで、成長過程とともに自身の身体の成長に戸惑ったり、悩みを抱えたりすることは珍しくありません。

 子どもたちが自身の身体に起きる変化について理解できるように学校教育で子どもたちの発達状況に合わせた性教育を行うことが重要です

 一方で、近年増加傾向にある未成年を被害者とするSNSを利用した性被害についても無視できません。

 子どもたちが自分たちの身体について正しい知識を得るとともに、性犯罪・性暴力から自分の身を守れるように、学習指導要領に基づき文部科学省が公開する資料等を活用しながら指導を行うことが求められます。

特集 教員の知恵袋

連載