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学内全体の包括的なアプローチで熱中症事故を防ぐ

9面記事

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冷水浴法の練習風景(左)と冷蔵庫に常備している経口補水液

早稲田実業学校中等部・高等部

スポーツ部活動中の熱中症を削減
 早稲田実業学校中等部・高等部(東京都国分寺市)では、2019年度に気温35度、暑さ指数31度以上の高温時のガイドラインを制定し、学内全体で熱中症対策に取り組んでいる。運動部だけでも約1400名の生徒がいるため、以前はスポーツ活動中に熱中症を発症する生徒が多かった。しかし、制定後の翌年には6割近く減り、昨年度に至っては3名しか出ていない。その理由について、「教職員、顧問、生徒一人一人の熱中症予防に対する自覚が身に付いたことが大きい」と指摘するのが、アスレティックトレーナーとして常勤する小出敦也専任講師だ。
 同校は、2005年から日本ではまだ少ないアスレティックトレーナーを教員として配置。ケガをした場合の救急処置から、リハビリやセルフケアの指導まであたっているほか、他校との試合にも帯同する。こうした中で、同講師が熱中症対策に力を入れるのは、日本における部活動中のケガによる死因では、トリプルH(ヘッド、ヒート、ハート)に関わるものが80%を占めているが、対策によって防ぐことができるのが熱中症になるからだ。

ガイドラインの実践には正しい知識を
 ガイドラインでは、まず夏休みの開始1週間に熱中症の発生率が高まるデータをもとに、最大活動時間を2・5時間までに削減。同時に、顧問は高温時(気温35度以上、暑さ指数31度以上)に活動する場合は活動場所にいなければならない。また、なるべく多くの教員に意識づけを図るため、日直教員が気温と暑さ指数を測定し、専任教員に一斉メール配信することにした。これにより、「自主的に何度も測定したり、生徒に注意喚起したりといった姿もみられるようになった」と口にする。積極的な休憩(30分毎に5~10分)と水分・電解質補給の喚起では、運動前にペットボトル1本分の水分を摂ること、休憩時にはスポーツドリンクなどを常用することを徹底させているという。
 さらに、こうした取り組みを実現させるためには、運動部活動に関わるさまざまな人が熱中症への正しい知識を持つことが大事になることから、同校では小出講師による講習を教職員や顧問に義務化するとともに、生徒に対しても直接教育する機会を設けている。

経口補水液など応急手当に必要な物品・環境を整備
 一方、熱中症を発症した場合の備えには、応急手当に必要な物品・環境の整備も欠かせない。「そのため、本校では10月に来夏に向けた備品購入の予算申請を行っており、脱水時の治療に効果的な経口補水液を保健室・トレーナー室、職員室に備えたのもその1つ」と指摘する。ほかにも、熱中症診療に有効な冷却対策として、製氷機やアイスバス等も常備するなど用意周到だ。加えて、校内の各所には緊急連絡先(内線)の案内を掲示し、たとえ顧問がいないときでも生徒が迅速な対応を図れるよう努めている。
 こうした取り組みからも分かる通り、同校の熱中症対策が成果を上げているのは、小出講師の働きかけだけでなく、学内全体がその意図を共有し、包括的なアプローチが実現していることにある。ともすればマニュアルを作るだけで終わっている学校が多い中で、大きな教訓として受け止めたい。

小出 敦也専任講師
 米国公認アスレティックトレーナーを取得後、国内外トップアスリートの現場を経て、2014年に同校のアスレティックトレーナーとして就任

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