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学力格差の拡大メカニズム 格差是正に向けた教育実践のために

12面記事

書評

数実 浩佑 著
学習意欲、自尊感情との関係を解明

 子どもの学力格差が「どうなっているのか(あるのか、ないのか、あるならどの程度なのか)」という従来の問いから一歩踏み込んで、本書は、学力格差が「どのようにして広がるのか」という点を検証している。鍵となるのは、何らかの事情で生じた最初の小さい格差が、次の格差を生み出し、次第に大きな格差へと変容する(格差が自ら増長する)「マタイ効果」である。
 具体的には「子どもたちの学習意欲を引き出せば学力が高まる」という関係と「勉強の得意な子は学習意欲も高まりやすい」という関係の双方向性の他、自尊感情の一部(全部ではない)と学力の間の双方向的な関係を示すなどして、学力における「マタイ効果」を明らかにしている。また家庭の社会経済的背景によって、こうした影響の出やすさに偏りがあることも明らかにしている。
 後半では中学校における教育実践(低学力の生徒への対応、集団づくり)の観察から、格差の拡大に抵抗する方策や、そこで求められる「平等観」についての検証を行っており、実践的な関心が高い人は、ここを重点的に読むのもよいだろう。また、学力格差はなぜ問題なのか(なぜ是正すべきか)という「そもそも」の問いにも取り組んでおり、幅広い読み方ができる。実践の捉え直しや、「あるべき」実践の姿を考える上でも大いに参考になる一冊である。
(3960円 勁草書房)
(川上 泰彦・兵庫教育大学教授)

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