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絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか 空間の絵本学

14面記事

書評

矢野 智司・佐々木 美砂 著
新たな角度から魅力を読み解く

 不思議な書名だ。絵本を読んでも、このようなことに考えは及ばず、当然のように受け止めていた。確かに絵本に登場する動物は列になって登場している型が多い。そして、その型を子どもたちは喜んで受け入れる。なぜなのだろう。
 本書は「絵本の人間学」の試みという。見慣れた動物が一列に歩くという絵本世界を象徴する構図は、生命的な喜びをもたらす構図であり、この構図を考えることは、絵本を必要としてきた「人間とは何か」を明らかにすることになるという。イラストによって空間が構成されていくプロセスにこそ着目する必要があるようだ。
 均衡回復や溶解体験など何やら難しそうだが、多くの名作を基に絵本が持つ不思議な力を分かりやすく解説しているので、改めて絵本について深く知ることができ、絵本の魅力を新しい角度から学べる。例えばページを繰るごとに主人公が次々と新しい人物と出会う構図は、子どもたちにどんな体験をもたらすのか。なぜ子どもはその世界を愛するのかを考察する。
 子どもは、絵本の中で均衡の崩壊と回復を体験する。それは「世界は変わらず自分を迎え入れてくれる安心感」を得ることに通じるそう。子どもは好きな絵本は繰り返し読み、同じ場面で声を出して笑う。不思議な書名に引かれ読み始めたが、読後はお気に入りの絵本を再読したくなった。
(3080円 勁草書房)
(藤本 鈴香・京都市総合教育センター指導室研修主事)

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