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激甚化・頻発化する災害に備える

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レジリエンス社会の実現に向けた避難所機能の充実

 地域住民の人命を守る避難所となる学校施設では、これまで起きた災害の教訓を生かして防災機能や支援体制を強化することが求められている。しかし、近年の激甚化・頻発化する災害では新たな対策も必要になっている。ここでは、政府が新たに閣議決定した「国土強靭化基本計画」の内容とあわせて、避難所の環境改善に向けた取り組みを紹介する。

気候変動に対応するため、国土強靭化予算は今後も継続へ

 2011年に発生した東日本大震災を教訓に成立した国土強靭化基本法のもと、政府は地震や津波・台風などの自然災害に強いレジリエンス社会を実現するため、2021年から概ね15兆円規模による「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を強力に推進している。
 実際にどのくらい予算が投じられているかというと、例えば2022年度第2次補正予算案で国土交通省の公共事業費は1兆6174億円だが、そのうちの6割以上を国土強靭化予算が占めている。また、他省庁も含めた国土強靱化予算では、2020年度1・7兆円、2021年度1・3兆円、2022年度1・3兆円の合計約4・3兆円が計上されており、これは年間の公共事業費全体の約15%を超える金額となっている。
 その中で、災害時における地域の拠点となる学校施設も、国の重要インフラの1つとして、耐震化や老朽化対策、防災機能の強化などに予算が手当されており、各自治体における防災・減災にかかわる施策の迅速化に貢献している。
 しかし、近年ではこれまでの予想を超えた自然災害が頻発しており、気候変動を踏まえた新たな対策を講じていく必要も生まれている。したがって、5か年加速化対策後も継続的・安定的に国土強靱化の取り組みを進めるため、政府はデジタル技術の活用や人材育成などを通じて地域の防災力強化に取り組むことなどを盛り込んだ、新たな「国土強靭化基本計画」となる改正案を提出し、7月末に閣議決定した。

避難所の環境改善など、災害関連死を防止する~線状降水帯予測やドローンの活用も~

 その上で、今年度の政策展開となる「国土強靱化年次計画2023(案)」では、事前実施した重要インフラの緊急点検結果なども考慮し、災害から得られた知見の反映や社会情勢の変化などを踏まえた新技術の活用や地域リーダーの育成、災害時に重要なインフラ整備、耐震対策・老朽化対策、BCP(事業継続計画)の普及の継続実施を推進する。
 また、実施中の5か年加速化対策については個別に進捗を管理するとともに、複数年にわたる大規模な事業等を円滑に実施できるよう、国庫債務負担行為の柔軟な活用を推進するという。
 中でも、学校施設の防災機能強化での新しい視点となっているのが、避難所としての環境改善など災害関連死の防止に取り組むことだ。2016年の熊本地震や2018年の西日本豪雨では、持病悪化や疲労による災害関連死が多く発生したことから、避難所への簡易ベッドやテントの設置、トレーラーハウスを活用した応急仮設住宅の確保を進めるほか、専門家チームによる被災者の心身のケアも盛り込んでいる。
 また、デジタル技術の活用では、スーパーコンピューターによる線状降水帯予測やドローンやロボットによる立ち入り困難な現場の救助活動、被災者情報を迅速に把握できるようマイナンバーカードを使ったシステムの導入。加えて、子どもたちへの防災教育や外国人旅行者などに向けた災害情報の発信の充実、企業やNPOの参画を促進し、地域の特性に応じた防災力強化に取り組むことも挙げている。

防災対策は自治体間で格差が広がる状況

 このような避難所の防災機能の強化に向けた新しい対策に期待がかかる一方で、避難者が生活する上での機能や設備がいまだ十分に整備されていないのも事実だ。例えば、学校の体育館では非構造部材(内・外装材、照明器具、窓ガラス等)の耐震対策が未実施な自治体がまだあり、初期投資の大きい冷暖房空調の整備も遅れが目立っている。また、これまでの災害時に課題になったように、避難者が少なくとも3日間は快適な生活ができるためのマンホールトイレの整備や、停電時でも電気を確保する自家発電機・蓄電池の整備も地域によって格差が生じている。
 しかも、高齢者・要配慮者が利用しやすい通路などのバリアフリー化、避難者の安否確認や情報収集に欠かせない公衆Wi―Fi整備、感染症などの予防に向けた各種衛生機器の整備や非常時の医療体制なども不十分といわざるを得ない。
 さらには、近年では線状降水帯の発生による集中豪雨によって河川が氾濫し、避難所となる学校施設が浸水して電源設備等が機能不全になる事象も起きており、浸水の恐れがある学校では止水板の設置や電源設備の高台化なども必要になっている。

被災時のトイレや空調を確保する取り組み

 避難所における生活環境の改善に向けては、内閣府も事例集にまとめて各自治体での具体的な取り組みを進めるよう促している。トイレの確保では、2020年に豪雨で避難所のトイレが浸水して使用不可になったことを教訓に対策を施した福岡県大牟田市の事例を紹介。ここでは、避難者3千人が3日間程度トイレを使用できないことを想定し、各避難所の想定避難者数に合わせて携帯&簡易トイレ配備。多目的トイレの設備が無い避難所には組立式の多目的トイレの配備を行っている。あわせて、地域や小中学校等での防災講座や訓練等に職員が出向き、携帯トイレ・簡易トイレ等の使い方のレクチャーを行う等の啓発活動を実施している。
 また、静岡県富士市では、災害派遣用トイレトレーラーを導入。トレーラー内には洋式便器を配した個室4つが設置されているのが特徴で、洗面台、鏡、換気扇が整備されている。屋根部にソーラーパネルが設置されており、事前に水を補給することにより、停電・断水時でも千回以上の利用が可能だ。
 避難者の健康に配慮した空調機器の確保では、停電時にも使えるようLPガスの備蓄が進められているが、広島市では災害時に民間業者からレンタルする協定を締結している。避難所の形態に応じてさまざまな空調設備(スポットエアコン、大型扇風機、設置型の空調設備等)をレンタルするほか、空調の稼働に必要な可搬式発電機のレンタル、避難所に配置する空調設備の検討や既存の空調設備の機能回復等の業務を依頼可能としている。実際に、これまで過去2回の大雨が降った際に、スポットクーラーを配置した実績がある。
 埼玉県さいたま市では、避難所に指定されている全市立学校に太陽光発電設備および蓄電池を導入し、停電時にも非常用コンセントから電気を使用することを可能にしている。また、そのうち3校には電気自動車から電力供給ができる非常用電源システムも整備した。

段ボールベッドの活用は感染症対策にも

 2020年7月豪雨の際、コロナ感染症対策や避難所生活を向上するため、段ボールベッドを活用した避難所の設営を実施したのが熊本県人吉市になる。高齢・持病のある避難者の専用スペースを確保するとともに、一般の被災者に対しても徐々に区分けを開始。1人当たりのスペースは4平方メートルを想定して、家族であれば世帯ごとでスペースを設け、被災者への住環境に対する支援事業を行うNPOより提供されたパーティションで区間分けを行った。
 段ボールベッドの導入により、床に直接寝るよりも衛生的に就寝・生活でき、パーティションでプライベート空間が確保できるメリットがあった。しかし、組み立てが1人では難しい、乾燥した場所での保管が必要、再利用ができないなどの課題があったことから、現在では折り畳み式簡易ベッドの備蓄を導入している。
 長崎県雲仙市では、段ボールパーティション製作企業と協定を結んでいる。2021年8月の大雨の際は、当時、企業が保管していた在庫をすべて購入し、避難所に設置した。市では段ボール製のパーティション以外に、テント式のパーティションやついたて等も用意しており、家族の人数に合わせて適切な種類のパーティションを利用し、十分なスペースが確保できるよう工夫した。また、保健師の巡回によって避難者の健康状態の把握に努めた。新型コロナウイルスへの感染の疑いがある避難者がいる場合には、一般の避難者とは別の個室に移動させ、病状が悪化した際には救急車で病院に搬送するようにした。

効率的な避難所運営をNPOや自主防災会で実現

 避難所の運営では、市の支援体制の遅れや職員の経験不足により避難者への対応が円滑に進まないケースが報告されている。こうした中、岡山県倉敷市は指定避難所の運営ノウハウを保有するNPOと連携し、効果的な避難所運営を実現している。
 きっかけとなったのは2018年の豪雨災害時にNPOに支援要請した際に、避難所の運営が円滑に進められたことだった。現在も、被害が甚大であった真備地区を中心に、地区防災計画の策定、啓発活動、避難訓練の実施、個別避難計画の策定などについても支援が継続されている。ポイントとしては、行政がNPOと連携しているというよりも、地域がNPOと結びついて活動している側面が強い点だという。
 阪神淡路大震災や東日本大震災では、公助の取り組みで助かった割合よりも自助や共助で助かったという割合が高かったという教訓を踏まえ、自主防災会による避難所の開設・運営の協力を進めているのが岩手県北上市だ。自助の推進としては、迅速な避難を実施できるよう一人一人個別の行動計画を定めた「マイタイムライン」の作成研修を実施。共助の取り組みとしては、市独自の防災マイスター認定制度を設け、丸一日の講座(気象、自主防災組織の役割)や避難所運営のワークショップを受講した人を地域のリーダーとして認定しており、すでに100名を超えている。

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