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感覚過敏と感覚鈍麻の感じ方 カビンくんとドンマちゃん

12面記事

書評

加藤 路瑛 著
物語仕立てで困り事を追体験

 今年の猛暑は、家庭も学校もエアコンがフル稼働。同じ温度設定でも、人によって感じ方が違い、設定温度に困った経験はなかったろうか。本書にある通り、感覚には個人差があり、確かに一人一人違っている。
 本書は、「感覚過敏」の著者を投影した主人公と、感覚過敏とは対照的に寒さや痛みを感じにくい「感覚鈍麻」の子の、中学校生活の日常や感情を描いた物語。目に見えない感覚の困り事を、多くの人に知ってもらいたいという著者の願いが込められた一冊。
 3章構成の中に18のエピソードと解説やコラムから、感覚過敏と感覚鈍麻の感じ方が見えてくる。エピソード12は、トイレがギリギリであるという物語。その理由が「内臓感覚の鈍麻があると、ギリギリまで尿意に気づかないから」と解説が教えてくれる。見えない感覚が可視化されているようである。
 著者は13歳で感覚過敏研究所を立ち上げた。みんなと楽しく話したいのに、学校の静かな場所を探し歩く著者。孤独よりも刺激の多い場所の方が苦しいという。医療アドバイザーの医師は、感覚は生まれつきの「デフォルト設定」で自覚されにくいものという。自覚されにくいから声を上げにくいし相談に至りにくいのだろう。本書は、自身を知り、他者を理解する上で、新たな視点を与えてくれる良書である。
(1595円 ワニブックス)
(伊藤 敏子・仙台市教育局学びの連携推進室主任)

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