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否定の中に肯定をつかむ 弁証法ノート

12面記事

書評

折出 健二 著
他者との関わりから手にする希望

 弁証法とは、ヘーゲルが打ち立てた哲学の体系であり、それを通じて、事物の生成や発展の法則的理解が可能になる。弁証法の適用範囲は、自然現象にとどまらない。私たちが生活している社会で生じるさまざまな事象や私たち人間の人生までもが弁証法によって把握できるのである。
 本書は、卒業論文でヘーゲルの主著「精神現象学」に取り組んだ著者が、それから50年以上にわたって弁証法を理論的・実践的に学び続けた成果をまとめたものである。著者の学問的追究の中核にあるのは、「否定の否定」というヘーゲルのテーゼである。それは、否定的に見える現象の背後に存在する肯定的な契機をいかに捉えるかである。教育学、とりわけ生活指導を専門とする著者は、学校教育実践や教育運動の中に見られる子どもや教師、保護者の事例を多数紹介しながら、「否定の中に肯定をつかむ」鍵を見つけ出そうとする。
 不登校や引きこもりで孤立しているように見える子どもにとって、重要な他者の存在はいまの状況を打ち破り、自立していくために大切な役割を果たす。子どもの人生に寄り添い伴走してくれる教師や保護者とのやりとりを通じて、子どもは未来をつかみ、希望を自らの手にする。本書は、こうした人生のダイナミクスをアザーリング(自己の前に現れる他者との関係性)という概念で解き明かすのだ。
(2970円 高文研)
(都筑 学・中央大学名誉教授)

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