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STEAM教育の第一歩は、「学ぶことを楽しむ子ども」を増やすことから

12面記事

ICT教育特集

 これからのAI時代に向け文部科学省は、実社会での問題発見・解決に役立つ教科等横断的な学習、STEAM(Science、Technology、Engineering、Art、Mathematics)教育を推進している。多様な施策が立案されているものの現場ではまだ手探り状態にあるSTEAM教育について、第一歩の踏み出し方やICT活用法などについて、京都精華大学メディア表現学部教授の鹿野利春氏に話を聞いた。

鹿野 利春 京都精華大学メディア表現学部教授
まずは「できる」喜びを教科の中で増やす

 ―STEAM教育にどのように取り組んだらよいか悩んでいる先生もいらっしゃると思いますが、まずは何から始めればいいのか、第一歩を教えてください。

 鹿野 日本の子どもの理数系科目の学力は世界のトップクラスです。しかし、理数系の勉強を楽しいと思う、理数系を含む職業に就きたいと思う児童生徒の割合は国際平均に比べて低いです。その原因の一つとして、理数系科目に対する興味が乏しいことが考えられます。
 その現状を踏まえ、STEAM教育の第一歩として、まずは学ぶことを楽しむ子どもを増やすことから考えてみてはいかがでしょうか。そのためには、子ども自身が教科の面白さを感じ、次に学んだことが何に使えるか考え、何かをやってみるところまで導く教育が必要です。  
 今までの教育は、「わかる・解ける」楽しさを最優先にしており、「できる(応用・活用する)」楽しさが置き去りにされがちだったかと思います。まずは、授業での教え方を改善する手段だと受け止めて、臨んでみるのがいいのではないでしょうか。これは、芸術系も人文系も同じです。

 ―教科等横断的なSTEAM教育はどのように始めればいいでしょうか。

 鹿野 教科を連携して学びを深めるというのはSTEAM教育の手段の一つに過ぎません。STEAM教育は、「できる(応用・活用する)」を増やすことだということを共有しましょう。STEAM教育を先進的に行っているアメリカやシンガポールでも、小さなことの積み重ねがあって現在があります。まず教科の中で、「できる」を増やすところからやってみてください。身近な小さなことでいいのです。そこから、「できる」が増え、さらに追究していくと自然にほかの教科との関わりが増えていくと思います。

 ―教科の中で、「できる」を増やすには、どのようなことを考えればいいでしょうか。

 鹿野 教科の中で、「できる」を増やすには、シンプルですが、「授業を楽しくする」すなわち「授業で子どもが工夫できることを創り出すこと」が必要です。そこで役立つツールの一つとして、ICTが挙げられます。例えば「物の落下」の単元で、実際に校舎の3階から物を落としてみるのと、PCの画面から落下の様子を見るのとでは、得られるものが違います。実際にやってみて体験したあとに、PCから情報を得て深めていくといったように、デジタルとアナログの役割分担をうまく行うことが大事です。
 さらに、例えば、物理で運動方程式を学ぶときも、教科書の例だけではなく、「スーパーマリオブラザーズのマリオのジャンプについて考える」といったような、子どもの身近な題材を用いて解説をすると、数式は面白くて役立つという実感を持ってもらえるでしょう。その際、ICTを用いて、実際の映像を見せながら授業をしたり、子どもにプログラミングさせてみたりするのも良いと思います。
 楽しいアイデアは色々なところに転がっています。自分の手の届く範囲から始めて、足りないところは外部の人の力を借りながら、子ども自身にも体験させて学問の楽しさを伝えていきましょう。

総合的な学習(探究)の時間を活用する

 ―次なるステップとして、どのような取り組みが考えられますか。

 鹿野 総合的な学習(探究)の時間を軸に、STEAM教育を取り入れていくといいと思います。例えば、中学校の3年間のうち1年間は必ずSTEAM教育を総合的な学習(探究)の時間のテーマにするなどが考えられます。学校全体で、必修として取り組むと予算を組みやすいですし、事例準備や専門家の招待などの計画もしやすいのではないかと思います。

 ―行政の協力も重要ですね。

 鹿野 私は、STEAM教育の到達点はよりよい社会を創ることだと思っています。これは教科や総合的な学習(探究)の時間で子どもたちに理数系を面白いと思ってもらう延長線上にありますし、芸術的要素、人文学的要素も欠かせません。これを実感するには、学校の外側、行政や民間の協力体制を作っていく必要があると思います。現場の先生が安心して取り組めるように、他国の取り組みや国内の事例を提示し、自治体ごとに学校内外の協力体制を作りながら、複数年計画でステップを踏んで進めてもらえたらと思います。

学問を楽しむ気持ちを持って、その気持ちを子どもたちに

 ―先生方自身、「できる(応用・活用する)」喜びを優先した教育を受けていないのでイメージしづらく、不安もあると思います。

 鹿野 すでにある事例を探すだけでなく、先生自身が楽しさを体験してみることが大事です。プログラミングでロボットを動かす面白さは、やってみてこそ感じるものです。先生自身が楽しんで授業をし、子どもたちもそれを感じて教科を好きになってくれたら、自ら勉強する意欲が湧きます。自分から勉強してできるようになると、やはり学力の伸びがまったく違います。
 子どもたちが理数系を好きになり、芸術や人文の素養も身に付けて、いろいろなことにチャレンジすることでこの国はよくなります。行政に向けては、楽しさと到達すべき目標のバランスをとっていくことを期待したいと思います。

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