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ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]教師のための実践ガイド

16面記事

書評

トレイシー・アロウェイ、ロス・アロウェイ 著
湯澤 正通・湯澤 美紀 監訳
特性ごと、具体的支援法を紹介

 ワーキングメモリは、短時間だけ情報を覚える短期記憶と異なり、情報を操作(work)するために頭にとどめておく「脳のメモ帳のようなもの」である。この力は学習に非常に重要で、ワーキングメモリを把握することで、その後の学業成績を予測できるという。また著者らによれば、ワーキングメモリは衝動のコントロールとも関連がある。
 ワーキングメモリが小さく、かつ学習障害のある子どもたちの場合、学習障害ごとに、それぞれ異なる中心的な問題に加え、ワーキングメモリの弱さが別の困難を引き起こす。本書では、学習障害の種類(例えば読字障害、算数障害、ADHD、ASD等)ごとに、そうした子どもたちへの支援方法を具体的に紹介している。おそらくここまで分析した結果ではないにしても、教育現場で既に実践されている工夫や配慮と重なる部分も多い。
 このようなワーキングメモリの観点は、学習に困難を抱える子どもへの支援を考える上で有益である。『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治著、新潮新書)が取り上げた「認知機能」(ワーキングメモリも含むとされている)もそうだが、学習や対人関係が苦手という外面の表れに対症療法的に臨むのではなく、原因を分析し、それに応じた効果的な支援を行うという科学的なアプローチは、教育現場でも今後ますます重要になるだろう。
(2750円 北大路書房)
(浅田 和伸・長崎県立大学学長)

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