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子育て世代のパーソナルネットワーク 孤立・競争・共生

12面記事

書評

荒牧 草平 著
データ用い人間関係の影響を解明

 現代日本の子育ては相談相手もいないほど「孤立」しがちで、他者との「競争」意識に苛まれるケースも多い。「孤立」や「競争」は職業・学歴・収入といった社会階層的な地位や資源に影響を受けるが、「共生」(支援、共感、信頼といった関係)の構築は階層要因に影響されず、共生ネットワークが豊富な人は育児不安になりにくく、幸福感も高いという。本書は、子育てに関わる意識や態度、価値観に対して、周囲の人間関係がどのように関連しているのかを社会調査のデータを用いて解明し、より望ましい子育て環境を考えるためのヒントにすることを目的としている。
 親の人付き合い(パーソナルネットワーク)が子育ての在り方に影響するという枠組みは著者の「教育格差のかくれた背景」(勁草書房、2019年)より連続する。前著では親族効果に焦点が当てられたが、頼りになるのは接触頻度や相手の情報・経験によるところが大きい。他方、子持ちの学生時代の友人など接触頻度の弱い関係でも悩みを共有できたりもする。
 本書は乳幼児・「ポスト育児期」の父母まで広く対象とし、調査を通じて子育てや人生を振り返ることができたという感謝や、本研究の成果を若い世代に生かしてほしいという願いが自由記述にあふれているのが印象的だった。個々の子育てはあっという間だが、子育てを巡る不安や葛藤は果てしない社会全体の課題である。
(4620円 勁草書房)
(元兼 正浩・九州大学大学院教授)

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